今回観測された132億光年

視力6000で見る宇宙 【vol.2】130億光年以上先の「宇宙最初の銀河」を探す

1000億もの星が含まれる銀河が、いつ、どのように生まれたのか。これは、現代天文学に残された大きな謎のひとつです。アルマ望遠鏡は、その比類なき感度と解像度を武器に、この謎に挑んでいます。
アルマ望遠鏡は宇宙の始まりにどこまで迫れるのか、「最初の銀河」とはどんなものなのか。長年にわたり銀河の研究で活躍してきた放送大学の谷口義明教授に、アルマ望遠鏡を使った銀河誕生の研究についてお話を聞きました。
インタビュー・テキスト:中村俊宏

アルマ望遠鏡は遠方の銀河の塵やガスを見る

──遠くの銀河を見ることができる望遠鏡として、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡も有名だと思います。アルマ望遠鏡とは、何がちがうのでしょうか?

谷口:簡単にいうと、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡は、銀河を構成する星が放つ光を観測します。それに対して、アルマ望遠鏡は遠方の銀河の中にある塵(ちり)やガスが放つ電波を観測します。

 

──アルマ望遠鏡は星の光ではなく、塵やガスが放つ電波を見るのですね。

谷口:そうです。アルマ望遠鏡は電波の一種であるミリ波やサブミリ波を観測できますが、宇宙にはこのサブミリ波を特に強く出す銀河もあります。こうした銀河を「サブミリ波銀河」といいます。

 

──どんな特徴を持つ銀河ですか?

谷口:銀河全体が濃い塵に覆われているんです。銀河の中にある星は光を放っているのですが、塵によって全部吸収されてしまうので、光は外部に出てきません。ですから、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡では観測できないのです。ですが、光を吸収して温められた塵は、サブミリ波を放ちます。そこでこうした銀河を、サブミリ波をとらえるアルマで観測するのです。

サブミリ波銀河の想像図

サブミリ波銀河の想像図
Credit: 国立天文台

 

──サブミリ波銀河が塵で覆われているのは、なぜですか?

谷口:2つの理由があると考えられています。1つは、先ほど話した「スターバースト」によるものです。スターバーストは、太陽の10倍や50倍といった質量の、いわゆる「大質量星」と呼ばれているものが一挙にできる現象です。1万個以上できているものをスターバーストといいますが、中には大質量星が1億個ぐらい作られているとんでもない銀河があるんです。そして大質量星は寿命が短いので、数百万年から1千万年くらいで爆発(超新星爆発)を起こして、星の内部でできた物質を大量に周囲にばらまきます。これが塵の材料になります。こうして銀河があっというまに塵だらけになって、銀河の中で新たな星が生まれても、その光は覆い隠されてしまうんです。

 

──だから、塵が放つサブミリ波を観測するんですね。

谷口:正確には、塵が温められると遠赤外線を放出します。ですが宇宙膨張のために波長が引き伸ばされて(赤方偏移)、サブミリ波として観測されるのです。

 

──もう1つの理由は何ですか?

谷口:これも先ほどお話しした「活動銀河中心核」によるものです。我々の天の川銀河を含めて、多くの銀河の中心部には、太陽の数百万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールがひそんでいることがわかっています。その周囲にガスがあって、ガスがブラックホールに落ち込む時に超高温になって光るのが、活動銀河中心核です。活動銀河中心核からは強烈な紫外線が放出されますが、それが周囲にある塵を温めて、やはりサブミリ波を放つのです。

 

──遠方の銀河、つまり生まれて間もない銀河には、こうしたサブミリ波銀河が多いのですか?

谷口:そうなんです。生まれて間もない銀河は、スターバーストや活動銀河中心核によって激しい活動を行いながら、急速に進化を遂げています。そうした進化の様子を見ることは、サブミリ波が観測できるアルマ望遠鏡の得意技なのです。

遠方の銀河の中にある炭素や酸素を見つける

谷口:それから、アルマは遠方銀河の温められた塵が放つミリ波・サブミリ波だけでなく、銀河のガスの中にある酸素や炭素が放つ特有のミリ波・サブミリ波もキャッチできます。酸素や炭素は誕生直後の宇宙には存在せず、大質量星の超新星爆発などによって銀河の中にばらまかれます。ですから、酸素や炭素がいつごろからどのくらいのペースで遠方銀河の中に蓄積されてきたのかを調べられれば、宇宙の初期に銀河がどのように進化していったのかがわかるのです。

ALMA and Hubble Space Telescope views of the distant dusty galax

ハッブル宇宙望遠鏡で観測された銀河団エイベル2744。この画像の一角に、132億光年先の銀河A2744_YD4が位置しています。アルマ望遠鏡はこの銀河で、塵と酸素が放つサブミリ波を検出しました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA, ESA, ESO and D. Coe (STScI)/J. Merten (Heidelberg/Bologna)

 

──逆にいうと、酸素や炭素が存在しない遠方銀河を見つけられれば、その銀河は生まれたての銀河だといえるのですか?

谷口:そういうことになりますね。酸素や炭素が見つかれば、それは生まれてから少し時間が経った銀河、化学的に進化している銀河であるという証拠になります。
 それと、遠方銀河の中で酸素や炭素が見つかると、他にも良いことがあります。その銀河までの距離を正確に見積もることができるのです。炭素や酸素は、もともとは特有の赤外線を放ちます。それが宇宙膨張によってどのくらい引き伸ばされて、我々の元にサブミリ波として届くのか、それを調べることで、遠方銀河までの距離が測定できます。

 

──今は遠方銀河までの距離を正確に測定できていないのですか?

谷口:少し専門的な話になりますが、銀河までの距離を測る場合は、銀河の中に含まれている水素原子が放つ「ライマンアルファ線」という特有の光(紫外線)を使って調べます。でも、遠方銀河のまわりには水素原子がいっぱいあって、銀河の中から出てきたライマンアルファ線を逆に吸収してしまうために、観測しにくく、時には精度が少し怪しい場合もあります。これに対して、遠方銀河中の酸素や炭素が放つサブミリ波は何にも吸収されないので、遠方銀河までの距離を正確に求められるのです。

谷口義明(放送大学・教養学部・教授)

谷口義明(放送大学・教養学部・教授)

1954年、北海道出身。理学博士。東北大学大学院理学研究科天文学専攻修了。東京大学・東京天文台(現在の国立天文台)、東京大学・天文学教育研究センター・助手、東北大学大学院天文学専攻・助教授、愛媛大学大学院理工学研究科・教授、愛媛大学・宇宙進化研究センター長を経て現職。ESAの赤外線宇宙天文台で人類初の中間赤外線帯での深宇宙探査を行い、ダストに包まれた若い銀河を多数発見。その後も、遠赤外線、サブミリ波、可視光帯で深宇宙探査を行い、遠方銀河探査で活躍。

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