今回観測された132億光年

視力6000で見る宇宙 【vol.2】130億光年以上先の「宇宙最初の銀河」を探す

1000億もの星が含まれる銀河が、いつ、どのように生まれたのか。これは、現代天文学に残された大きな謎のひとつです。アルマ望遠鏡は、その比類なき感度と解像度を武器に、この謎に挑んでいます。
アルマ望遠鏡は宇宙の始まりにどこまで迫れるのか、「最初の銀河」とはどんなものなのか。長年にわたり銀河の研究で活躍してきた放送大学の谷口義明教授に、アルマ望遠鏡を使った銀河誕生の研究についてお話を聞きました。
インタビュー・テキスト:中村俊宏

130億光年先の巨大天体・ヒミコの正体は「初代銀河」?

谷口:アルマが観測した遠方の天体で非常に面白いものに「ヒミコ」という天体があります。130億光年先にある、宇宙が8億歳のころに存在していた、巨大なガスのかたまりです。2009年にすばる望遠鏡が発見しました。大きさは約5万5000光年あって、これは同じ時期に存在した一般的な天体の10倍もの大きさがあるんです。

 

──宇宙が8億歳のころに存在していたということは、ヒミコは最初の銀河が生まれた時代(宇宙が2億歳のころ)よりもずっと後の時代の天体だということですよね?

谷口:そうです。ところが、アルマ望遠鏡でヒミコを観測してみたら、ヒミコには塵や炭素が放つサブミリ波がまったく検出されなかったんです。これは驚きでした。ヒミコの中には塵や炭素が当然あると思われていたのに、まったく見つからなかったのですから。

巨大天体ヒミコの想像図

巨大天体ヒミコの想像図。原始的なガスが渦巻く中で、3つの星の集団が作られています。
Credit: 国立天文台

 

──ということは、ヒミコは水素やヘリウムのガスだけでできた天体だということですか?

谷口:そうですね。塵や炭素を持たないヒミコは、まさに誕生しつつある「初代銀河」なのかもしれません。

 

──でも、宇宙が8億歳のころに存在していたヒミコが、塵や炭素を持っていない、つまり進化していない銀河だというのは、おかしくありませんか?

谷口:ですが、その可能性はシミュレーションの観点からも、ありえるんです。なぜかというと、宇宙には「大規模構造」といって、物質の密度の濃い部分と薄い部分との「ムラ」があるからです。宇宙の中で銀河はある時いっせいに生まれたのではなくて、水素やヘリウムのガスの密度が高い場所では早くから星や銀河が誕生して、ガスの密度が低いところではもっと遅くに星や銀河が生まれ始めたと考えられています。必ずしも全宇宙の中で最初に生まれた銀河ではなくても、塵や炭素、酸素を持っていないもの、水素やヘリウムだけの中から最初に生まれたものは、全部「初代銀河」とよんでいます。

 

──ガスの密度が低い場所にあったために、宇宙が生まれてから8億年経ってから、ようやく星が生まれてきた、まさに形成されつつある初代銀河、それがヒミコの正体だということですか?

谷口:そうです。我々はまだ、初代銀河を見たことがありませんので、本当にヒミコが初代銀河だとわかれば、世紀の大発見ですね。

 

──それを確かめる方法はありませんか?

谷口: NASAは2019年に、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を打ち上げる見込みです。ジェイムズ・ウェッブがヒミコを観測して、本当に水素やヘリウムしかない、ということを確かめれば、証明されるでしょうね。

注:アルマ望遠鏡データの新しい解析によってヒミコで炭素が放つ電波が発見された、という論文が、インタビュー後の2017年12月に発表されました。これが本当であれば、ヒミコは本当の初代銀河ではないということになります。

宇宙で最初に生まれた銀河をアルマのディープサーベイで見つける

──将来、アルマで「宇宙で最初に生まれた銀河」を見つけることはできるのでしょうか?

谷口:その可能性はじゅうぶんあると思いますよ。ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡よりも、可能性が高いくらいかもしれませんね。そのためには、宇宙のある一画を長時間見続けることで、より遠くの天体を見通す「ディープサーベイ(深宇宙探査)」が必要になります。

 

──谷口さんはこれまで、さまざまな望遠鏡でディープサーベイをされてきたんですよね?

谷口:ええ。ESA(欧州宇宙機関)が打ち上げた赤外線天文衛星や、ハワイにあるJCMT(ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡)という電波望遠鏡、そしてすばる望遠鏡などでおこなわれた、いくつものディープサーベイに参加してきました。JCMTのディープサーベイでは、世界で最初にサブミリ波銀河を発見した時のグループの一員だったんです。あの時の感動は、今でも心の中に残っていますね。

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谷口義明 (放送大学・教養学部・教授)

 

──アルマでもディープサーベイはおこなわれているんですか?

谷口:東京大学の河野孝太郎先生たちが中心になって、ディープサーベイをおこなっています。JCMTでサブミリ波銀河が1~2個見つかって、当時はそれだけでも大ニュースだったのに、アルマのディープサーベイではサブミリ波銀河がいとも簡単にザクザクと見つかっていますので、感動もひとしおですね。

 

──生まれたての銀河を探すためには、何を調べればよいのでしょうか?

谷口:先ほども説明しましたが、アルマは銀河のガスの中にある酸素や炭素が放つ特有のミリ波・サブミリ波をキャッチできます。ですから、そうしたミリ波・サブミリ波を探すディープサーベイによって、生まれたてに近い、非常に若い銀河が偶然引っかかってくるかもしれませんね。私の研究仲間の計算によれば、アルマの観測で136億光年くらい先までの銀河が見える可能性があるそうです。

 

──それは、今から136億年前の宇宙に存在した銀河、宇宙で最初の銀河ということですね。

谷口:そうです。生まれたての銀河の中で、数千個・数万個の単位で一気に星が誕生して、それが一気に超新星爆発を起こせば、宇宙誕生後2億年くらいで炭素や酸素が銀河の中に出てくるという、理論的な計算結果があるのです。

 

──アルマによる発見を、ぜひ期待したいですね!

谷口:ディープサーベイは「何が見つかるかわからない」という面白さがあって、しかも見つかるものは「人類が初めて見る新たな宇宙の姿」なんです。アルマのディープサーベイで、「宇宙の未踏の荒野」をぜひ切り開いてほしいですね。

谷口義明(放送大学・教養学部・教授)

谷口義明(放送大学・教養学部・教授)

1954年、北海道出身。理学博士。東北大学大学院理学研究科天文学専攻修了。東京大学・東京天文台(現在の国立天文台)、東京大学・天文学教育研究センター・助手、東北大学大学院天文学専攻・助教授、愛媛大学大学院理工学研究科・教授、愛媛大学・宇宙進化研究センター長を経て現職。ESAの赤外線宇宙天文台で人類初の中間赤外線帯での深宇宙探査を行い、ダストに包まれた若い銀河を多数発見。その後も、遠赤外線、サブミリ波、可視光帯で深宇宙探査を行い、遠方銀河探査で活躍。

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