アルマ広報に聞く、宇宙の秘密 vol.1地球以外に「生命」は存在するのか?

誰もが疑問に思う、「地球外生命体」の存在。じつは、それらの手がかりになるものは徐々に見つかり始めている。天文学の進歩によって太陽系の外にも惑星がたくさん見つかっており、そしてアルマ望遠鏡による観測では惑星誕生現場に有機分子が続々と発見されている。私たちが暮らす「地球」のように、生命を育むことができる星があるかもしれないのだ。
地球のような星、そして地球外生命体はどのくらいの確率で存在するのだろうか? そんな宇宙にまつわる素朴な疑問や仕組みについて、生命起源物質の探査にも挑むアルマ望遠鏡の教育広報担当・平松正顕助教が解説した。
インタビュー・テキスト:中村俊宏
撮影:豊島望

ベテルギウスが超新星爆発を起こすのは、明日かもしれない?

――将来、地球や太陽系の「安定」をおびやかすような大事件は、起こりうるのでしょうか?

平松:先ほどもお話しましたけど、太陽系の近くで超新星爆発が起こると、やはり大変なことになるでしょうね。

 

――その予測はできないのですか?

平松:オリオン座の1等星のベテルギウスは、地球から640光年ほどしか離れていませんが、近い将来に超新星爆発を起こすと考えられています。「近い将来」といっても、ベテルギウスの寿命である「1,000万年」と比較してのことなので、明日かもしれないですし、数千年後かもしれませんが【注:その後、ベテルギウスはあと10万年ほどは超新星爆発しないのではないか、という研究成果も発表されています】。

年老いた星は内部が不安定になって赤く大きく膨らむという特徴があります。また、太陽の10倍程度よりも重い星は、一生の最後に超新星爆発を起こします。ベテルギウスは太陽の20倍ほどの重さを持っていて、しかも赤く膨らんだ星なので、近い将来超新星爆発を起こすことは間違いないでしょう。一方、超新星爆発の引き金は星のもっとも中心の部分で引かれるので、外から観測しているだけでは、超新星爆発までの正確なカウントダウンを行うのは難しいのです。

 

――もし、爆発してしまったら地球はどうなりますか?

平松:もしベテルギウスがあと2倍くらい重かったとしたら、超新星爆発と同時に強烈なガンマ線を放つ「ガンマ線バースト」になっていたかもしれません。細く絞られたガンマ線ビームが地球を直撃したら、大気がはぎとられてしまうなど破滅的な影響を受けてしまうでしょう。幸い、ベテルギウスはそこまで重くないので、爆発で地球が直接影響を受けることはないと思います。

 

Gamma-ray burst buried in dust (artist’s impression)

ガンマ線バーストの想像図

――それを聞いて安心しました。ちなみに、太陽系の存在する銀河系も移動しているのでしょうか。もしその場合、別の銀河と衝突する危険などもあるのではないでしょうか?

平松:銀河同士の衝突は、宇宙のなかではよく起きています。銀河系もいまからおよそ20億年後にはアンドロメダ銀河と衝突し、やがて合体すると予想されています。

 

――衝突したら、地球はどうなるんですか?

平松:あるシミュレーションでは、太陽系は合体して新しくできた銀河の中心から、10万光年ほどの距離に位置するそうです。太陽系はいまの銀河系の中心から、およそ4倍も離れることになります。でも、銀河同士が衝突しても、銀河内の星同士が非常に離れているので、太陽系がアンドロメダ銀河内の星と衝突するようなことは考えにくいと思います。

 

生物学者とコラボレーションすることで、地球外生命体の手がかりを探す

――地球は生命にあふれる奇跡の星なのか、それとも地球のような惑星は珍しくないのか、それはこれからわかってくるのでしょうか?

平松:たとえばアルマ望遠鏡では、「アミノ酸が宇宙空間のどこにあるか」とか、「原始惑星系円盤のなかに生命の材料があるか」などは観測できます。しかしその先の、アミノ酸がどのように生物になっていくのかはアルマではわからないし、天文学の領域を超えるものになります。そこで、私たち天文学者と分子生物学者が一緒に研究をすることが重要になってくると思います。

 

――系外惑星に生命がいるかどうかを、直接観測することはできないんですか?

平松:アルマのような電波望遠鏡ではなく、可視光や赤外線の望遠鏡で、大気がある惑星がどれだけあるか、大気の成分がどうなっているかなどを調べる研究は行われています。それから、植物の葉緑体は赤外線を非常に強く反射するので、赤外線と可視光を比べたときに、赤外線が非常に明るい惑星があれば、地球と同じ緑の植物でおおわれているかもしれません。

生命活動によって生じる生命の痕跡のことを「バイオマーカー」と呼びます。系外惑星からの強い赤外線は、植物のバイオマーカーだと考えられるのです。バイオマーカーのほかの例として、惑星の大気中のオゾンがあります。系外惑星の大気にオゾンが含まれていれば、オゾンは酸素から作られるので、その惑星には光合成によって酸素を作り出す生物がいると予想できます。こうしたバイオマーカーとなるものを宇宙のなかから探そうという目論見もありますね。

 

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――そうやって地球外生命が発見できたらすごいですね!

平松:おそらくアルマ望遠鏡だけでは、地球外生命の発見にはたどりつけないでしょう。すばる望遠鏡やその次世代の光学望遠鏡、あるいはアルマ望遠鏡とは異なる波長の電波を観測する望遠鏡など、あらゆる方法を駆使してこのテーマに挑んでいく必要があると思います。それだけの価値のある面白いテーマだと思いますし、「まったくのSF」というわけでなくて、科学の手法で到達可能なテーマなんじゃないかと思います。

 

――地球外生命の発見が、待ち遠しいですね!

平松正顕(国立天文台チリ観測所助教、教育広報主任)

平松正顕(国立天文台チリ観測所助教、教育広報主任)

1980年、岡山県生まれ。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。台湾中央研究院天文及天文物理研究所博士後研究員、アルマ地域センターアストロノマーを経て、2011年から現職。専門は電波天文学で、特に星の形成過程の研究を行う。またアルマ望遠鏡の広報担当として、執筆や講演などを精力的に行っている。

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