アルマ望遠鏡を支える人々② 「機械」だけでなく「人」もつなぐコンピューティングの仕事

巨大な装置を使い、巨大な観測データを生み出すアルマ望遠鏡。天文学者たちがアルマ望遠鏡を使って素晴らしい成果を挙げる隣にはいつも、「コンピューティングチーム」の活躍があります。たくさんの装置に命を吹き込んで一糸乱れぬ制御を実現するにも、人間には読み解けない膨大なデータを処理して意味ある画像を作るにも、ソフトウェアの開発は欠かせません。アルマ望遠鏡の舞台裏を支える人たちにスポットを当てる連載の第2回目は、日本のアルマ望遠鏡コンピューティングチームをまとめる小杉城治 准教授にインタビューしました。

すばるとアルマの立ち上げに加わってソフトを開発

── 小杉さんはもともと天文学者で、コンピュータやITがご専門というわけではないのですよね?

小杉:そうです。活動銀河の研究がしたくて、大学で博士論文のテーマとして「スペクトロ・ネビュラグラフ」というシステムを作ったのが、コンピューティングにも関わるようになったきっかけですね。

 

── どういうものですか?

小杉:「スペクトロ・ヘリオグラフ」という、太陽全面を観測する装置があります。スリットで太陽面をスキャンしながら分光して特定の波長だけを取り出し、太陽全面の単色像を撮るシステムです。これを、銀河や星雲の観測にも活用できないかと考えて作ったのが、スペクトロ・ネビュラグラフです。国立天文台岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡と、分光器観測装置、CCDカメラをコンピュータのネットワークを使ってつなぎ、全体を協調して動作させながらデータをとるという、そういうシステムを作り上げました。私の指導教官だった大谷浩先生や、当時は岡山観測所にいらした佐々木敏由紀先生たちと共同で作ったシステムです。

SpectroNebulaGraph

スペクトロネビュラグラフと研究・開発チーム(約4半世紀前に撮影)。一番右が小杉さん、右から2番目が佐々木先生、右から4番目が大谷先生。チームの上に見えるのが、188cm望遠鏡に取り付けられた分光器観測装置(薄青色の大きな直方体)とCCDカメラ(分光器下部の金色の物体)。
Credit: NAOJ

 

── つまり天文学だけでなくシステムの開発そのものも博士論文のテーマだったんですね。もともとコンピュータやシステムにはくわしかったのですか?

小杉:高校では数学同好会にも入っていて、そこで計算機に触れる機会がありました。大学に入った頃にはPC-9800シリーズ(現NECなどの製品)といった高性能のパソコンがようやく出始めたので、ゲームを作ったり、学園祭の出し物として星占いアプリをつくったりしていました。その延長として、望遠鏡や観測装置の制御というのも始めていきました。
 そんな時代ですから、スペクトロ・ネビュラグラフというのは、当時は世界的に見ても斬新なシステムだったと思います。今から四半世紀以上前の、ネットワークなんてほとんど一般に普及していなかった時代に、いわゆる「分散システム」という形で望遠鏡、観測装置、CCDカメラ、計算機、そういったものを有機的につないで観測システムにするというものでしたから。それが後に、すばる望遠鏡の観測システムの設計思想にも影響を与えたと思っています。

 

── 博士論文を書かれた後、国立天文台に採用されて、すばる望遠鏡でコンピューティング関連の仕事をなされたのですね?

小杉:ええ。ハワイには1997年に赴任して、望遠鏡や観測装置の制御ソフトウェアと全体を管理する観測制御ソフトウェアとの繋ぎ込みをしましたし、望遠鏡や観測装置の立ち上げ試験や性能評価試験もしました。そもそも大学院の最後の頃には、三鷹の国立天文台に来ていて、先ほどの佐々木先生をはじめ、他の国立天文台のメンバーと一緒に、すばるのソフトウェアシステムの概念設計などを始めていたんです。

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小杉城治(国立天文台チリ観測所 准教授)


 

── その後、アルマに移られたのですね。

小杉:ええ、2005年です。その頃は、すばる望遠鏡はひと通り立ち上がって、成果もかなり出始めて、私もすばるを使っていろんな天文研究をしていました。その前年の2004年に、日本はアルマの建設プロジェクトに正式に参加しまして、日米欧でそれぞれコンピューティングのチームを作って、アルマのソフトウェアを開発することになったんです。それで、森田耕一郎先生(故人)や立松健一先生(現 国立天文台野辺山宇宙電波観測所長)に声をかけられて、アルマに移ってきました。

 

── 現在はTMT(口径30メートルの次世代大型望遠鏡)の建設プロジェクトも併任されていますね。

小杉:アルマも一応ひと通り立ち上がって、どんどん観測成果も出ていますからね。それに私はもともと可視光赤外線で観測をしてきた人間ですので。新しい観測成果は非常に魅力的です。でも立ち上げ期の目が回るような忙しさ、そのときにしかできない経験も、私にとってはとても楽しいのです。

 

日米欧で分散して開発したアルマのソフトウェア

── すばる望遠鏡とアルマ望遠鏡とで、コンピューティングの違いのようなものはありますか?

小杉:すばる望遠鏡は1台しかありませんが、アルマ望遠鏡は66台のアンテナがあって、それをシンクロさせながら観測を行いますから、タイミングの同期を非常に気にしないといけないという点は、すばる望遠鏡と大きく違うところですね。それから、例えば観測準備のソフトウェアである”ALMA Observing Tool”にしても、アルマ望遠鏡を使ってどんな観測をするかを研究者が正確に設定するためのソフトウェアですので、これもアルマに特化したものと言えるでしょう。
 それから、すばる望遠鏡は海外に設置しましたが、基本は日本のプロジェクトで、オールジャパン体制で作り上げた形になります。それに対してアルマの場合は、日米欧という地理的にも分散して開発を行っている、という点が違いますね。

 

── 電話会議1つ行うのも大変だったというお話を聞きました。

小杉:ええ。電話会議はだいたい、日本時間の夜中に行われるんですよ。現地のチリが昼で、アメリカは早朝、ヨーロッパは夕方で。みんなだいたい勤務時間内なのに、日本だけ深夜残業なんです(笑)。

 

── アルマのアンテナや受信機は、日米欧がそれぞれ独自に開発を行って、お互いに競争することでより良いものを作っていったという話を聞きました。コンピューティングに関してもそれは同じだったのですか?

小杉:コンピューティングではわりと世界で1つのものをみんなで協力して作ってきた印象があります。競争というのはあまりというか、全くないですね。競争をするためには、それだけのコストがかかります。同じものの検討を複数で独立して進めないと競争にはなりませんから。でもコンピューティングは、まず分担を決め、お互いの間のインターフェースをきっちり定めて、競争よりは各チームで協力しながら1つのシステムを作ってきました。

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開発フェーズの日米欧のコンピューティングチームのリーダーたちの集合写真(2008年)。
Credit: NAOJ

小杉城治(国立天文台チリ観測所 准教授)

小杉城治(国立天文台チリ観測所 准教授)

1990年より岡山天体物理観測所188cm望遠鏡でネットワーク制御の観測システムを共同開発して活動銀河の観測的研究を推進。その頃から天文観測のためのコンピューティングに携わる。1996年から、すばる望遠鏡やそこに搭載される観測装置の制御ソフトウェアの開発や立ち上げ試験を担当。2005年にアルマ望遠鏡プロジェクトに移り、コンピューティングチームに参加。現在は東アジア・アルマ・コンピューティングマネージャとして、アルマ望遠鏡のさまざまなソフトウェア開発を統括している。天体写真も趣味。

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