アルマ望遠鏡を支える人々② 「機械」だけでなく「人」もつなぐコンピューティングの仕事

巨大な装置を使い、巨大な観測データを生み出すアルマ望遠鏡。天文学者たちがアルマ望遠鏡を使って素晴らしい成果を挙げる隣にはいつも、「コンピューティングチーム」の活躍があります。たくさんの装置に命を吹き込んで一糸乱れぬ制御を実現するにも、人間には読み解けない膨大なデータを処理して意味ある画像を作るにも、ソフトウェアの開発は欠かせません。アルマ望遠鏡の舞台裏を支える人たちにスポットを当てる連載の第2回目は、日本のアルマ望遠鏡コンピューティングチームをまとめる小杉城治 准教授にインタビューしました。

コンピューティングに天文学の知識は必要?

── 小杉さんはもともと天文学者だったとのことですが、もともとITがご専門という方もコンピューティングチームにはいるのですか?

小杉:たくさんいます。一般企業でITの仕事をしていた方も多数転職してきています。

 

── 一般のITやコンピューティングの仕事に比べて、アルマや天文学の分野におけるコンピューティングの特徴や魅力といえば、どんなものが挙げられると思いますか?

小杉:私は一般のITの仕事に就いたことがないので分からない点もありますが、自分の経験だけから話をすると、アルマは世界でただ1つの望遠鏡で、しかもサブミリ波の観測波長で一番高性能な望遠鏡ですよね。そうしたものを動かすためのソフトウェアというのは、やはり世界に1つしかないわけで、それを自分たちで作るということ自体が大きな魅力です。
 もう1つは、アルマは1つしかないので、ある意味、他との競争がないんですね。これはコンピューティングに限った話かもしれませんけど。民生品だったらどうしても、ライバル企業との競争がありますから、その競争に勝てるように必死に働くわけですよ。

 

── 競争というのは、クオリティもそうですが、時間やコストなども、ということですか?

小杉:ええ。もちろんアルマでも時間やコストのことはしっかり考えていますが、いつも猛烈に追い立てられるわけではありません。これまでなかったものや、より面白いものをどうやって作るか、といったことをじっくり腰をすえて考える時間を持てると思います。独創的なアイデアというものは、焦ったり追いまくられたりしていては、絶対出てきません。ですからそういう意味で、自分の可能性をより広げられる、自分をもう1度深く掘り下げてみることができると思います。それが誰にでも合うわけではないでしょうが、それを楽しいと思う開発者は案外たくさんいるのではないでしょうか。

 

── アルマのコンピューティングの仕事をする上で、天文学の知識はなくても大丈夫なのですか?

小杉:それは分野によりますね。例えば、アンテナや相関器の制御などは、もともと天文学の知識がなくても、必要なときに少しだけ学んでもらえれば十分です。一方で解析ソフトウェアの開発となると、今でもうちの開発人員は天文学で博士号をとった人間が多いです。やはり天文学のバックグラウンドがあった方が、何のためにどんな解析をすべきかが感覚的にわかるので、開発を進めやすいと思います。とはいえ、かなりの部分は天文学の知識なしに開発を進めていけますし、プログラムの高速化や並列化などは、最新の技術動向に詳しいIT業界の人の方が向いているかもしれません。

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小杉城治(国立天文台チリ観測所 准教授)


 

── ぜひ優秀な方に、アルマや天文学の分野に転職して来ていただきたいですね!

小杉:はい、そう思っています。あとは私自身で言えば、すばる望遠鏡の時もそうでしたが、コンピューティングをやっていると、試験に乗じて最初に「画像」が見られるんですよ、宇宙の画像が。これまで誰も見たことのないものを、最初に見られるというのは、非常に魅力的ですよね。

 

── 人類で初めて見る宇宙の姿を、今この瞬間は自分だけが独占しているわけですね。

小杉:そういうことです。アルマの場合だと、望遠鏡でデータを取っても、それが何なのかはすぐにはわかりません。相関器で計算されたデータだけ見てもわかりません。でも解析ソフトを作っている人なら、解析ソフトの試験のために、データを解析して画像にして、誰よりも先に見ることができます。アルマの観測ターゲットは、アルマでしか見えないものが多いですから、天文学をやってきた人間としては非常に魅力があると思っています。

 

世界最先端のものを作る人々をつなぐ力

── 最後に、コンピューティングとはどんな仕事なのか、その魅力はどこにあるのかについて、長年この仕事に携わってきた小杉さんのお考えを伺いたいです。

小杉:コンピューティングの魅力というのは、いろんなものをつなげること、今流行りの言葉でいえば「絆」というものかなあと思っています。

 

── 絆、ですか。コンピューティングの話で「絆」という用語が出てくるとは思いませんでした。

小杉:どんなに高性能の望遠鏡でも、どんなに優れたハードウェアでも、ソフトウェアがなければただの箱です。それぞれの機器の限界性能はハードウェアで決まりますが、実際の運用でその限界を引き出すことや、他の機器とつなげてシステムとして働かせるのは、ソフトウェアの仕事です。以前にも申し上げたことがありますが、1つ1つの機器を縦糸だとすると、ソフトウェアはそれらをつなぎ合わせてシステムという織物に仕上げる横糸なんです。

 

── なるほど、よくわかります。

小杉:また、これも先ほど申し上げましたが、アルマの機器は、アンテナも受信機も相関器も、すべて世界最先端のものなので、まずはそれに触れるということ自体が楽しくて、興味が湧きます。そのような1つ1つの最先端の機器をより深く理解して、ひとつのシステムとしてつなぎ合わせていくのももちろん楽しいのですが、その過程でこうした世界一の機器を作った人々と触れ合えるんですよ。いろいろな機器をどんなふうにソフトウェアで制御をしようかとか、そういった話を彼らとしていきますので。世界最先端の物作りの人と出会う機会があるというのも、非常に魅力的だと思います。それを通じて、我々の知識や視野も広がっていきますから。

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日本が開発したアンテナの制御試験のようす。アンテナも、それを動かすソフトウェアがあってこそ活躍できます。
Credit: NAOJ

 

── 機械同士だけではなく、人同士もつなぎ合わせるのが、コンピューティングなのですね。

小杉:はい。それが多分、コンピューティングの一番の魅力かなと私は思います。世界最先端の人々をつなぐ力、「絆」を作る力が、コンピューティングにはあるんじゃないですかね。


大谷浩さん
 元 京都大学理学部宇宙物理学教室 教授。現 京都大学大学院理学研究科 名誉教授。活動銀河の観測的研究が専門で、複数の3次元分光観測装置の開発を主導した。

佐々木敏由紀さん
 元 国立天文台ハワイ観測所准教授。岡山天体物理観測所の望遠鏡制御システムをPCベースのシステムとして再構築した(1980年代末)。その後、すばる望遠鏡の観測制御システムの設計や構築を主導した。

立松健一さん
 現 国立天文台野辺山宇宙電波観測所長。星間物質の研究が専門で、野辺山45m電波望遠鏡のソフトウェア開発にも携わっていた。

森田耕一郎さん
 元 国立天文台チリ観測所教授。複数のアンテナを組み合わせて観測する干渉計システムのエキスパートとして、野辺山ミリ波干渉計の建設(1980年代)およびアルマ望遠鏡のソフトウェア開発・システム性能評価に携わった。

小杉城治(国立天文台チリ観測所 准教授)

小杉城治(国立天文台チリ観測所 准教授)

1990年より岡山天体物理観測所188cm望遠鏡でネットワーク制御の観測システムを共同開発して活動銀河の観測的研究を推進。その頃から天文観測のためのコンピューティングに携わる。1996年から、すばる望遠鏡やそこに搭載される観測装置の制御ソフトウェアの開発や立ち上げ試験を担当。2005年にアルマ望遠鏡プロジェクトに移り、コンピューティングチームに参加。現在は東アジア・アルマ・コンピューティングマネージャとして、アルマ望遠鏡のさまざまなソフトウェア開発を統括している。天体写真も趣味。

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