08. ACAソフトウェア開発とACA相関器ファーストフリンジ

(国立天文台ニュース 2011年1月号掲載)

ACAソフトウェア開発
ALMAは、国立天文台が中心となって開発しているアタカマ・コンパクトアレイ(Atacama Compact Array:以下、ACA)と米欧が中心となって開発している12mアンテナアレイの 2つのアレイ(配列)で構成されています。日本のコンピューティングチーム装置制御ソフトウエアグループは ACA用のアンテナ(ACAアンテナ)とACA用の相関器(ACA相関器)のソフトウエアの開発を重点的に行っています。

ACAアンテナ用ソフトウエアの大枠は米欧のアンテナ用のものが再利用できますが、個々の制御項目やモニター項目の違いからACA アンテナ用にプログラムを追加する必要があります。ACAアンテナ関連のソフトウエア開発はALMA推進室の松居隆之さんを中心に、米欧のソフトウエア開発者とも緊密に連携しながら進められています。

ACA相関器は国立天文台が富士通と協力して開発しています。12mアンテナアレイの相関器はNRAO(米国立電波天文台)が開発している XFタイプの相関器ですが、ACA相関器は国立天文台の近田義広名誉教授が考案した FXタイプの相関器です。これら 2つの相関器は原理もハードウエア構成も非常に異なっているため、ACA相関器ソフトウエアはNRAOの相関器用のものを再利用することができず新規に開発する必要があります。ACA相関器ソフトウエアの開発は渡辺が中心となって進められています。

ACA相関器引渡試験の準備
ACA相関器は 4つのベースバンドペアを同時に処理できるようにほぼ同じ機能の装置 4セットから構成されています。この 4セットのうちの 2セットが2010年 8月に受入審査を通過し、2010年11月に ALMAへの引渡試験が行われました。この引渡試験は ACA相関器を本物の(シミュレータではない)アンテナや受信機と結合して天体を観測する初めての試験でした。本物相手の試験という点では、ハードウエアだけでなくソフトウエアにとっても運用環境で行う初めての試験です。この試験の準備は ALMA推進室の中村京子さんと芦田川が主体となって2010年 4月から始められました。

ACA 相関器は標高5000m に建設された山頂建屋内の ACA相関器室に設置されており、ACA相関器ソフトウエアを実行する計算機群も同じ部屋の中に設置されています。一方、ACA相関器の機能検証や障害調査のために、最初は三鷹の開発用計算機を使ってシミュレーション試験を行い、問題点の洗い出しと修正作業を繰り返しました。その後、ネットワーク経由で三鷹から地球の反対側にある ACA相関器および計算機群をリモート操作して同様の試験と修正作業を繰り返しました。この経験はリモート操作でのトラブルシューティングのノウハウとなって蓄積されています。

6か月におよぶ準備の後に、11月 4日からALMAと共同で引渡試験が行われることになり、ACA相関器グループからは鎌崎剛さんと黒野泰隆さん、コンピューティンググループからは芦田川と渡辺(いずれも ALMA推進室)が現地に赴きました。

山麓施設内コントロールルームでの試験の様子
(左から、黒野、鎌崎、Victor Gonzalez、芦田川)。

ACA相関器の引渡試験とファーストフリンジ
11月 4日は、山麓施設で ALMAのソフトウエアエンジニアであるTzu-Chiang Shen, Ruben Soto, Victor Gonzalezに対して ACA相関器を使用する観測のデモンストレーションを行いました。これには日本からリモートで行ってきた準備試験を現地のネットワークから実行して再確認するという意味もありました。翌11月 5日、山麓施設のコントロールルームから ACA相関器を操作するためにネットワークの設定を変更し、ソフトウエアに ACA相関器試験用の設定を追加して本番環境での統合試験を行いました(ただしアンテナと受信機はシミュレータです)。翌日はいよいよファーストフリンジを目指した試験観測を行います。11 月6 日、8:00 から15:00 までが ACA相関器試験のために割り当てられた時間です。本物のアンテナが動くことの確認から始まり、9:15 から試験手順を順番に実行して観測を開始しました。数回の失敗とリトライを繰り返した後、14:15 から開始したその日最後の観測でついにフリンジを検出することに成功しました!

ファーストフリンジ(W Hya SiO(J=2-1,v=1):黒野泰隆作成)。

3日間の現地作業で予定通りにフリンジを検出したことは現地でも非常に高く評価されました。しかし短期間の引渡試験では ACA相関器の多彩で高度な機能のほんの一部しか使いません。現在は残り 2セットのリリースのための準備作業と並行して、試験で見つかった課題の解決にも取り組んでいます。さらに ACA相関器の高度な機能を観測の中で確認するためのソフトウエアの準備も必要です。科学運用開始に向けた ACA相関器のソフトウエアの準備作業は簡単ではありませんが、ソフトウエアのさらなる開発とブラッシュアップは ACA相関器が ALMAへ大きく貢献するために欠かせないと確信しています。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。