13. JAOとの会議、調整の日々

(国立天文台ニュース 2011年6月号掲載)

システムエンジニアリング&インテグレーションマネージャ
ALMA 推進室での私の肩書きです。何やら聞き慣れない職種ですね。
最先端の理論、技術を結晶させたALMA は、サブシステム(構成要素)が複雑に、絡み合って成り立っています。ALMA を構成するサブシステムは、アンテナ、受信機、相関器、計算機、制御ソフトウェアをはじめ、サイト(建設地)のインフラまで、多岐にわたります。これらのサブシステムがバラバラであったり、単に集まっているだけでは、ALMA が目指す究極の性能を発揮することはできません。それぞれの要素が互いに関連しあい、全体としての目的を果たす一つのシステムとなることが重要です。このための技術的検討をするのが「システムエンジニアリング(システム工学)」であり、実際にサブシステムを組み合わせ、ひとつのシステム(望遠鏡・観測所)にまとめ上げ、それぞれの機能が正しく働くように完成させるのが「システムインテグレーション」なのです。

様々な役割がありますが、具体的にはALMA の目的に基づき、性能、品質、信頼性の分析、効率的な運用のための作業工程、保守の管理といったことも対象としています。北米、欧州、ALMA 観測所、そしてアンテナ、受信機、計算機といった各サブシステムにも、それぞれのシステムエンジニア達がいます(日本でシステムエンジニア(SE)というと、コンピュータ関連企業の職名を連想してしまいますが、国際的にはもっと幅広くシステムの解析、設計、運用などに携わる技術者です)。アメリカ東海岸から、チリ、日本、ドイツと世界中から20 名近くシステムエンジニア、品質管理エンジニア、マネージャらが、週に一度の定例電話会議で、ALMA リード・システムエンジニア のハビエル・マルティ 氏の進行のもと、互いの進捗、現地でプロジェクトが抱える技術的な課題について、活発に議論します。JAO (Joint ALMA Observatory:合同ALMA観測所)からは、ALMA System Verification (SV) Scientist(統合評価サイエンティスト)の森田耕一郎さんやJAO システム・エンジニアの杉本正宏さんが、このSEチームで活躍をされています。月に1回程度は、実際に顔を合わせての議論、共同作業をすることで、様々な課題を効果的に解決しています。

毎日開催されるOSF(標高2900mのALMA山麓施設)での デイリー・コーディネーション会議(daily coordination meeting)。CSV、AIV、ADE、PA、IPT と関係者が集まり、いま起きている問題の議論、アンテナの利用時間を調整する闘いの場である。

※ CSV:科学的評価試験チーム、AIV:組立・統合試験チーム、ADE:ALMA工学部門、PA:製品保証チーム、IPT:統合製品チーム

国際共同プロジェクト
ALMA の山麓施設(OSF)、山頂施設(AOS)は、アンテナの建設や各サブシステムの搭載、評価活動が進んでおり、いつも活気に満ちています。私のもう一つの顔は、現場監督です。現地で建設・評価の進んでいる、アンテナを中心とした東アジアからの開発機器をJAOへ引き渡せるように、現地での組立・評価試験の監督、引き渡し後のトラブルシューティングや保守といったことを JAOや IPT (Integrated Product Team)と呼ばれるサブシステム開発を推進していく実動チームと調整する日々です。

日本が最初のアンテナをJAOに引き渡して(新しいウィンドウで開く 2008年12月19日 日本の12mアンテナが第1号アンテナとして引き渡し)間もない頃は、開発をした IPT側は、JAOから製品を納品する「サプライヤー」としてみられていました。トラブルや不具合があるとすぐに呼び出され、一体どうなっているのか、いつ直すのか? などと、きつく言われたりしたものです。しかし、究極の望遠鏡、ALMAをつくるという共通の目標に違いはありません。それぞれが、与えられた役割をきちんと遂行することの重要性を理解し、そして良いものを作っていくためには、時に激しい意見のぶつかり合いもしながら、お互いを認めつつ連携することで、いまは「パートナー」として、ともにALMA の完成を目指してラストスパート!です。

OSF でのシステムエンジニアチームのオフィスからの景色。キマル山(正面中央、標高4276m)とアタカマ塩湖が一望できる窓際?にある。

国際共同プロジェクトでは、互いの文化、習慣を理解し、人と人とのつながりをつくることも大事です。日本人の国民性として(というと言い過ぎかもしれませんが)、目標が決まるとその達成のためには、必要があれば自分の持ち場を超え、他人の仕事を肩代わりしてでも自己犠牲的に、仕事を遂行してしまいがちです。結果として、大きな成果を上げている例は少なくありませんが、欧米には、このような文化はないのです。自分の担当においては最高を目指すが、他人の領分まで分け入ることはしません。それぞれ、自分の持ち場があります。これはとても、新鮮なことでした。一方で、がむしゃらに頑張る日本人の姿もまた現地のALMAスタッフには、新鮮に映り、国境を越えてともに協力する事が、新たな価値観を生み出していることを感じています。

1997年にチリを最初に訪れてからすでに14年間 100 回以上も日本とチリを往復しました。初めてこの地を訪れた際は、サイトサーベイ(建設地調査)のお手伝いで、当時は夢の計画だったALMA が、いま目の前で現実のものになりつつあるのは感慨深いです。現地のメンバーと一緒になって困難を乗り越え、アンテナ移動、ファーストライト、ファーストフリンジ等、物事を成し遂げた時の充実感は、まさに「現場の醍醐味」といえるでしょう。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。