14. 究極の電波望遠鏡ALMAの裏事情

(国立天文台ニュース 2011年7月号掲載)

お金の話
みなさんは、ALMA計画の建設にかかる 総予算額をご存知でしょうか?大規模な国際プロジェクトには莫大な予算が必要になりますが、このALMA計画も例外ではありません。その額、なんと1000億円以上。日本はそのうちの約256億円を、日本が担当するアンテナや関連設備の建設費として負担しています。これに加え、ALMAの運用・試験にかかる人件費の25%、チリの首都サンティアゴにある合同ALMA事務所の運用費や、運用のための職員が滞在する宿泊施設や利用する食堂(いずれも標高2900mにある山麓施設の一部)の運用費などを、決められた分担率に従って支払います。支払いに関わるこうした取り決めは、ALMA計画に参加している北米連合とヨーロッパの執行機関である米国北東部大学連合(AUI)とヨーロッパ南天天文台(ESO)、日本の国立天文台の三者が協議のうえ協定書を作成し、その中で細かく定められています。

これらの分担金は、AUI とESO が発行する請求書に基づいて支払いを行います。支払手続きは、東京都三鷹市にある国立天文台と チリ・サンティアゴにある国立天文台チリ事務所の二か所で行います。現地のチリ事務所には、2011年7月現在 3名の事務職員が日本から派遣されており、支払手続きのほかにも様々な事務業務に対応しています。最近派遣された職員は、スペイン語と英語(もちろん日本語も)が堪能なので、現地での活躍がおおいに期待されています。

遠い国チリ
さて、支払作業の際に問題となるのは、やはり日本とチリの距離と言語です。三鷹とサンティアゴでは、お互いに地球の反対側に位置しているくらい離れていますし、時差も12時間〜13時間ありますから昼夜が逆転しています。ですから、何か確認したいことがあっても、どうしても時間がかかってしまいます。電子メールが普及していない時代と比較したらだいぶ恵まれた環境にあると思いますが、それでも、隣の席に担当者がいてすぐに確認がとれるような状況ではありませんので、やきもきすることもあります。言語は、英語を共通言語として使用していますが、英語を母国語とする職員は意外に少なく、互いに第二言語として英語を使用している場合が多いのです。細かい説明が必要な場合などは、誤解のないように細心の注意を払いますが、それでもなかなか上手く進まないこともあります。考えてみると、これは単に言語だけの問題ではないのかもしれませんね。同じ空間で顔を突き合わせて直接話ができれば、解決することなのかもしれません。日本とチリ、やはり遠い国です。

2011年チリ出張の際、泊まっていたホテルから眺めたサンティアゴ市内。雄大な山々に囲まれて、高層ビルが建ち並んでいます。日本と同様 地震国のチリでは、建物の耐震構造がしっかりしているそうです。

多くの人に支えられて
私の主な業務は、先に述べたような支払作業や協定書に関するサポート(内容確認、翻訳等)などですが、AUI やESOから送られてきた請求書とにらめっこをしていると、お金の数字と請求書を発行した担当者しか見えなくなってきてしまい、この請求書の向こう側に多くの人が関わっているという事実を忘れがちです。そんな時、思い出すことがあります。それは2008年、サンティアゴで行われた担当者会議に出席した時のことです。それまで、事務方でチリに行く機会はないと思っていましたが、一緒に仕事をする海外の担当者と直接面識を持っておいた方が良い、という指示が出され、サンティアゴの合同ALMA事務所、アンテナが建設されている山麓施設と山頂施設を訪問することができました。

サンティアゴでの1週間の会議を終え、山麓施設を訪れた時、そこには建設作業員用の大きな宿泊施設がありました。建物が何棟にも分かれ、大勢の作業員がそこで寝泊まりしながら、標高の高い、過酷な環境の砂漠にアンテナを建てるための工事を行っていたのです。実際に土を掘ったり杭を打ったりしている作業員も見かけました。その時に初めて「ALMAは大勢の人の手によって作られているんだ」と、肌で実感しました。それまで事務所で紙の仕事しかしていなかった自分にとって、その光景はとても新鮮で、今でも強く印象に残っています。建設作業員だけでなく、山麓施設の食堂で働く人達や合同ALMA事務所のメンテナンスをする人など、日米欧の執行機関以外に実に様々な人達が関わり、プロジェクトの推進を支えてくれていることを、忘れずに心に留めておかなければ、と思います。

2011年7月、二度目のチリ出張へ。AUIチリ事務所の会計担当者と膝詰めで請求書の処理を行いました。左がペドロ・デルガド(Pedro Delgado)氏、右がルイス・ドミンゴス(Luis Dominguez)氏。直接話せると仕事がはかどります。

天文オンチですが……
現在、巨大プロジェクトであるALMAの裏方として、微力ながら勤めさせていただいていますが、ALMA推進室に着任するまで、天文学や研究機関とは全く無縁の世界で生きてきました。星座や月の満ち欠けなどについて質問されると答えに窮する、立派な「天文オンチ」です。そんな私がここにいるのは、不思議なご縁としか言いようがありません。天文オンチは簡単に治りそうにないですが、これからもALMA推進室の一員としてできる限りの貢献をしていきたいと思います。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。