(国立天文台ニュース 2011年9月号掲載)
新聞等でも報道されたとおり、2011年9月30日よりアルマの初期科学運用が始まりました。そのスーパー望遠鏡の性能を生かして様々な成果が出ると期待されています。今回はそのうち、私たちの銀河系内の観測についてアルマがもたらす結果の予想!?をご紹介します。
まず最初に、アルマはミリ波・サブミリ波という宇宙から到来する電磁波を観測します。このミリ波・サブミリ波は主に摂氏マイナス200 〜 260 度という極低温の分子ガスや宇宙塵などから放射されます。これらの低温物質は星や惑星の材料となるものです。できあがった星を見るのは、すばる望遠鏡のような光赤外望遠鏡が適していますが、星ができる過程を知りたいとなるとその材料を調べる必要があり、ミリ波・サブミリ波の観測が必須です。
● 星間物質・星形成・惑星形成
2011年のノーベル物理学賞は超新星を使った宇宙加速膨張の発見でした。この超新星の出現はご存知の通り、星の最期とも言えるイベントです。この超新星爆発はエネルギーがとても大きく、周囲の環境に大きな影響を与えます。例えばあるときは巨大分子雲を吹き飛ばし、あるときは高エネルギー粒子を加速し、またあるときは星間物質との衝突によって次の世代の星形成を誘発すると言われています。後者は銀河全体の星形成にとって重要なプロセスと考えられていますが、これまで形態学的な証拠(そのように見える、程度)が中心で、それを直接指し示す運動学的・化学的証拠は貧困でした。ここをアルマで観測すれば、超新星爆発の影響を受けた分子雲コアから星が生まれる様子が段階的に つぶさに見えてくるでしょう。
アルマの観測によって太陽のような個々の星の誕生についても大きく理解が進むでしょう。若い星からは高速のガス流(原始星ジェット)が放出されていたり、周囲に原始惑星系円盤が形成されたりしますが、星が生まれるまさに最初の段階であると考えられるファーストコアと呼ばれる天体は、これらジェットや円盤の形成にとって とても重要な段階にあります。従って、アルマによってファーストコア前後の天体の姿を高分解能で明らかにすることで、星形成の本質にせまることができるでしょう。
いったん星ができると、その周囲に惑星系ができるのはごく自然と考えられています。現在の標準的な惑星系形成モデルは京都大学のグループを中心に発展してきた京都モデルです。静かな原始惑星系円盤から微惑星ができ、衝突を繰り返して原始惑星、巨大ガス惑星ができていくモデルです。アルマは数多くの若い星に付随する原始惑星系円盤を直接観測し、円盤中の物質の運動や分布などを明らかにするでしょう。特に500光年先の原始惑星系円盤を 0.01 秒角という超高空間分解能観測をすれば、どこで巨大惑星が誕生しつつあるか 直接描きだせるはずです。
木星質量の惑星が半径 5天文単位の距離に形成されている原始惑星系円盤のアルマ観測のシミュレーション画像。左下の円が分解能。上側のリングの内側に惑星が誕生していることがわかる(Wolf et al. 2005)。
● 宇宙の物質
私たち地球の生命はどこから来たのでしょうか? 地球上の化学反応でたまたま生まれたのでしょうか? それとも宇宙にその起源があるのでしょうか? その問いに迫るべく、宇宙空間にある生命関連物質のアミノ酸やピリミジン等の DNA前駆体の探査が何度も試みられました。残念ながら、今日現在までに確実な検出報告はありません。アルマの性能であればそうした物質からの微弱な電波も検出できるかもしれません。では、どのような天体をターゲットにするのがいいでしょうか?
私たちは太陽よりずっと重い大質量星がうまれつつあるホットコア(といっても温度はせいぜい摂氏マイナス100 〜 0 度)と呼ばれる天体が候補の 1つと考えています。ホットコアは比較的温度が高く、密度も高いため、化学反応が早くすすみ、複雑な有機分子が見つかっています。アルマの試験観測でも G34.26というホットコアから多数の分子起源の電波を受信することに成功しました。
ホットコアG34.26の100GHzの分子探査スペクトル。[Credit:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)]
もう 1つの候補はさらに密度の高い原始惑星系円盤です。こうした場所で生命関連物質が見つかれば、生命の材料は宇宙のいたるところにあり、宇宙のあちこちで生命が誕生する素地があるということが言えます。さらに彗星も面白いターゲットです。長周期彗星は太陽系がうまれたころの始原的な物質を保存していると考えられているからです。
● その他に
こうした期待される成果を支えるのは、日本が提供する装置やそのソフトウェアです。正確な画像には欠かせない ACA(アタカマコンパクトアレイ) 7mアンテナや ACA12mアンテナ、およびこれらのアンテナの信号を処理する ACA相関器などですね。さらに、バンド8、バンド10 といった星間物質の研究における新しい周波数帯の受信機や、星間物質の時計とも言われる重水素化合物の観測ができるバンド4受信機などにも期待がかかります。
まだまだ他にもいろいろあるのですが、紙面も尽きてしまうので最後にひとつ言いたいと思います。VLA (Very Large Array)というセンチ波を観測する大型干渉計は、完成後に調査したところ 計画段階で予想された観測プログラムの割合が全体の4分の1しかなかったそうです。言いかえると建設提案したときには予想していなかった研究テーマが、新たに出てきたということです。ミリ波サブミリ波を観測するアルマも予想を裏切る成果がきっと出てくるでしょう。そこが本当に面白いので楽しみにしてください。
※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。