ALMAアンテナは太陽へ向けても燃えません。

19. ALMA de 太陽

(国立天文台ニュース 2012年2月号掲載)

ALMAで太陽!?
「ALMAで太陽観測するの!?アンテナは燃えないのかい?」、ALMAによる太陽観測の実現を模索し始めてから何回聞いた台詞でしょうか。聞きたくなる気持ちもよくわかります。私も最初に聞いたときは、「本当ですか?」と聞き直したぐらいです。

ALMAでの太陽観測はALMA計画の当初から考えられていたようで、特に野辺山にも頻繁に来所されていたアメリカ・メリーランド大学Mukul R. Kundu教授がご尽力されたと聞いています。一方、ALMAによる太陽観測の実現のため、日米欧のアンテナ開発チームに大きな負担を強いてしまった事は容易に想像できます。表面を鏡のように磨いたアンテナを太陽に向け、なおかつ鏡面精度をsub-mm波の観測に耐えうる範囲に押さえなければならなかったのですから。ALMAを使って太陽観測する研究者は、観測中でも燃えださずにデータをもたらしてくれるアンテナとアンテナ開発チームへ、特に感謝しなければいけないでしょう。

ALMAの観測波長域であるミリ波サブミリ波での太陽観測は、1960年代から単一鏡による観測が始められましたが、その後の発展はそれほど大きくありません。ALMAのような干渉計観測になるとさらに観測例は少なく、2003年頃にBIMA望遠鏡による80GHz帯での太陽の干渉計観測が行われましたが、その後この波長域での干渉計観測はなされていません。決して科学的に意味が無いからではなく、観測および干渉計データからの像合成が一筋縄ではいかないからです。

近いから苦労する?
言うまでもなく、太陽は我々に最も近い恒星です。その近さゆえ、他の天体観測に比べると膨大な量の電磁波が太陽から届きます。天文学の他の分野からは羨ましがられる状況ですが、近ければ近いなりの苦労があります。すでに紹介したアンテナの加熱は可視光・赤外線が主な原因ですが、ミリ波サブミリ波もとんでもない量がアンテナに入ります。もともとミリJy(注) とかマイクロJyという微小な電波を捉える為の受信機に、フレア時には数万Jy という電波を入力させることになり、受信機の感度特性でも非線形の領域で電波を受ける事になります。これを防ぐため減衰フィルター、簡単に言えばALMA用のサングラスをかけさせます。しかし、フィルターによる影響が観測データに入ってしまうため、補正してやらなければなりません。その補正値を求めるため、フィルターのプロトタイプを使って試験観測を行い、現在データ解析をしている最中です。

近いという事は、干渉計観測の特色である像合成にも大きな影響を及ぼします。干渉計観測では、個々のアンテナで受けた信号をコンピュータで処理を行い、天体の像を合成します。その画像の視野は、基本的にアンテナの指向性に依存し、ALMAでは100GHzの観測で直径約60秒角の円となります。図1に巨大フレアの画像と60秒角の円を示してみました。一目瞭然ですが、太陽に比べてALMAの視野はとても狭く、大きな黒点程度の大きさしかありません。これは、干渉計が苦手とする視野全面に構造がある画像を合成しなければならない事を意味します。この問題を解決する為に太陽専用の像合成法を確立しなければなりませんが、力強い味方がいます。それは日本が建造したACAです。ACAは太陽のように広がった電波源の画像を合成する時に威力を発揮します。小さいながらも強力なACAの威力を太陽画像によって皆さんに示したいものです。

図1 ひので衛星(カラー)・野辺山電波ヘリオグラフ(緑線)・RHESSI衛星(青線)が捉えた巨大フレアの画像とALMAの視野@100GHz(黄破線)

Alma de Sol
"Alma de Sol" =「太陽(物理学)の魂」は、もっとも近い恒星である太陽での現象を物理的に理解し、天体現象のプロトタイプを作る事だと思います。ALMAで達成できる0.1秒角以下の空間分解能は、今後10年間に建造される予定の太陽望遠鏡では達成できない値です。この性能により、これまで約10秒角の電波観測データで研究されてきたフレア時の粒子加速の理解が、一挙に前進する事は火を見るより明らかです。一方、ALMAによって開拓される研究分野があります。それはmm/sub-mm波による彩層の研究です。ひので衛星により彩層が想像以上に活発である事が判明し、彩層加熱をこの活動性と共に物理的に理解する事が重要なりました。太陽から届くmm/sub-mm波のほとんどは彩層下部からの熱放射であるため、競争相手が絶対届かないALMAの空間分解能で彩層に迫る事ができます。ALMAによる太陽研究により、宇宙のいたる所で起きている粒子加速やプラズマ加熱の問題へ、衝撃を与える結果が出ることを期待しています。

筆者は、2010年に亡くなられたKundu教授とようこう衛星や野辺山電波ヘリオグラフのデータを基に、共同研究をさせて頂きました。星の巡り合わせで筆者がALMAの太陽観測に関わる事になりましたが、先人の努力に応えるためALMAによる太陽研究が成功するように貢献していきたいと思います。

図2 OSFから見たアタカマ砂漠に落ちる夕日


(注) Jy ( ジャンスキー):天体からの電波を発見したカール・ジャンスキーにちなんで名付けられた電波強度を示す単位。太陽電波観測ではこれとは別に SFU(Solar Flux Unit)という単位を用いており、1 SFU が 1万Jy に対応する。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。