スタイリッシュな広報も目指したい

21. 頭と心に届く広報を目指して

(国立天文台ニュース 2012年10月号掲載)

人は人に興味を持つ
既に20回を超えたこのコラム”Bienvenido a ALMA!”、お楽しみいただけていますでしょうか? 2010年6月号掲載の連載第1回を紐解くと、「本格運用を前にした今、研究者や開発者は何をしているのかを皆様にお伝えしたいと思います」とその狙いが書かれています。天文学者だけではなく、観測装置・ソフトウェアの技術者、品質管理、物流管理、安全管理、翻訳、会計、その他もろもろの事務作業まで含めて100人を超えるスタッフが関わる国立天文台のアルマプロジェクト。そのスタッフがどんなことを思いながらどんな仕事をしているのかをご紹介する、言い換えれば「人を見せる」ということは、このコラムに限らずアルマ望遠鏡広報全体の大きな柱だと私は考えています。

「科学を伝えるのに、なぜ人を見せる必要があるんだ?」これは天文広報・コミュニケーションに関わる国際研究会で、私が日本におけるアルマ望遠鏡広報の方針について発表した時に受けた質問です。曰く、「面白い科学的成果を伝えることが大事なんじゃないの?」。はい、それはまさにその通り。抜群の感度と解像度を誇るアルマ望遠鏡をもってすれば、これまで想像もしなかった面白い成果がどんどん出てくることでしょう。銀河の誕生、惑星の形成と進化、宇宙における生命誕生の可能性。科学に関心のある人なら聞いただけでワクワクしてしまうような研究テーマが並んでいます。これを伝えていくことは、もちろん重要。でも、別にそれほど宇宙に関心のない人にとっては? 一見して望遠鏡に見えない望遠鏡を使って、地球の反対側で、目に見えない電波を観測して宇宙を調べるアルマ望遠鏡。この幾重にも重なる「わかりにくさ」を拭い去るカギはふたつ。ひとつ目は観測画像の見た目の美しさ、ふたつ目はそういう一見よくわからない手段で宇宙の深淵を探っている研究者の、人としての面白さ。小難しい(ように見える)研究テーマだけでなくその裏側に脈々と流れる「人々の物語」を伝え、たくさんの人と一緒に宇宙の謎解きに挑みたい。そう思いながら広報の仕事をしています。

六本木・アカデミーヒルズでの講演。ビジネスパーソンにも宇宙は人気。20人から2000人まで、様々な規模の講演会でお話をしています。

多様なアプローチで多様な人に
そんな目標の下での広報活動は、ウェブサイトでのニュース掲載、観測成果プレスリリース、建設記録映像の製作、講演会、取材対応、文章執筆、グッズ製作など様々。テレビ取材の対応のために現地に行くことも年に何度かあり、そんな時には写真撮影も重要な仕事です。「アンテナがXX台になりました!」という建設進捗報告と青空に映える白いアンテナの写真は徐々に育っていくアルマを見せるにはいい素材でしたが、昨年開始された初期科学観測の成果が続々と出始めた今はそれに加えて実際の観測画像もよい素材。フォーマルハウトをまわる塵の環やちょうこくしつ座R星の周りのガスの渦巻きなど、電波天文学者も唸ってしまうほどの素晴らしい画像が届いていて、アルマ望遠鏡の性能の高さを実感します。これまでの電波天文画像はなんだかパッとしない(失礼!)ものが多かったのも事実ですが、アルマ望遠鏡の画像は波長の違いを気にせずに楽しめるものになりそうです。

最近利用が広まっているTwitterも @ALMA_Japan というアカウントで昨年4月から活用しています。アルマ望遠鏡に関わるニュースの投稿が主ですが、星空情報なども投稿しながら幅広く宇宙へのきっかけづくりを心掛けています。「星空情報は関係ないのでは?」と言うなかれ。これまで1年半のTwitter利用の中で、最も反響(転送:RTやお気に入り登録の数)が大きかったのはジャコビニ流星群の話題。その次は西の空に金星と木星と月が並んだ話題、その次は秋分の日の決め方。アルマの話題はというと、残念ながら上から26番目。圧倒的に「普段の星空」に関する情報の人気が高いのです。であれば、それに乗っからない手はない。夜空に輝く惑星の話題のあとには、そんな地球の兄弟たちもアルマのターゲットであることを。金星の太陽面通過の話題のあとには、トランジット法を用いた太陽系外惑星の検出とアルマが狙う惑星誕生現場観測の紹介を。天の川の話題のあとには、系外銀河に関するアルマの研究紹介を。日頃見上げる夜空の中にもこんなに謎が潜んでいる、そしてアルマはそれに挑もうとしている。いろんな意味で遠くにあるアルマをぐっと身近に引き寄せる、そんな場にしていきたいと思っています。

国際協力も重視して…
国際プロジェクトであるアルマでは、広報活動も国際協力が大切。例えば欧州の研究者が素晴らしい研究成果を出したら日本でもプレスリリースを行いますし、逆もしかり。ESO広報チームは毎回リリースに動画をいくつもつけて公開しますし、NRAOはVLAとアルマの画像を合成して素晴らしい画像を作ります。日本でも、すばる望遠鏡等とのタイアップで迫力あるリリースを出したいと思っていますので、今後のニュースにぜひご期待ください。

アンテナ製造工場の熟練溶接工、台湾の受信機統合センタースタッフ、 受信機ファーストライトを喜ぶ在チリのスタッフ。顔が見える画像には力があります。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。