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22. ALMA地域センター(ARC)

(国立天文台ニュース 2012年12月号掲載)

6月中旬から8月中旬まで、2か月にわたってチリの山麓施設で当番天文学者(Astronomer on Duty、AoD)を担当したオーストラリア人のARCスタッフErik Muller特任助教が、出張を終えて日本に戻ってきた。以前も試験観測(Commissioning & Science Verification、CSV)のための出張を経験しているが、共同利用のためのALMA運用のAoDを初めて経験したことにより、いろいろ現地の人々と知り合いになり、現地の様子もわかって、晴れ晴れした顔である。すばる望遠鏡などと異なり、ALMAの観測のために研究者はチリに行く必要がない。その代わりに、必要なユーザーサポートを行うのがALMA地域センター(ARC)である。現地での運用は、天文学者の目でしっかり実行できているかどうかを確認しつつ行う必要があり、このためにチリ現地にARCから当番天文学者が交代で派遣される。

日本では7月12日のサイクル1の締め切りに向けて、「お祭り」のように(?)忙しい日々が続いた。特に、ユーザーからの質問に対応するヘルプデスク・スタッフ、西合一矢特任助教と河村晶子研究員は、正確な回答をタイムリーに返すべく頑張った。間違った回答はARCとしての問題にもなりかねないので責任重大である。締め切りは、7月12日の深夜24時であったために、西合さん、ならびに他のスタンバイ可能なARCスタッフは夜遅くまで待機していただいた。プロポーザルは最後の1時間に投稿数が140件に達して、サーバーが15分間ダウンする残念な事態になり、締切が急遽1時間延長された。サイクル0でもサーバーがダウンして事前準備にストレステストを行って準備していたのにもかかわらずである。反省しきり。サイクル2では失態を繰り返さない所存である。サイクル1締切には投稿がうまくいかないユーザーからの問い合わせ等で、ばたばたしたが、西合さんには頑張って対応していただいた。ARCスタッフ自身もALMAのユーザーであり、忙しいさなか、観測プロポーザルを主研究者、あるいは共同研究者として準備していただいたことも書き記しておきたい。

ALMAは、チリに行かずに観測できるという運用をしているので、観測手順書の作成が重要である。野辺山やその他の観測では、観測コンソールから指示書を流して、クイックルックを見て、失敗に気づき、「おっとっと」ということが非常にしばしばあるが(であっては本当はいけないが)、ALMAではこのような不十分な準備は許されない。非常に高い競争率(サイクル0では競争率9倍!)を勝ち抜いてきてもぎ取った観測時間をケアレスミスで無駄に使うわけにはいかないのである。このためのARC活動が観測指示書作成(Phase 2 Generation、P2G)担当者と観測者とのやり取りを行うコンタクト・サイエンティストである。コンタクト・サイエンティストは、ARCスタッフが手分けして行うが、P2G担当者はALMA観測所から免許皆伝をもらっている限られたスタッフしか実行できない。日本では、現在、スペイン人スタッフのDaniel Espada特任助教と黒野泰隆研究員がその任についている。現地の状況に応じて、指示書を適宜変更しなければいけなかったり、いろいろ大変であるが、しっかりと臨機応変に進めていただいている。

ALMAは、本来パイプライン解析ソフトウエアで自動的に生データから画像までのデータ解析がなされるはずであるが、ソフトウエアがまだできていないサイクル0では、スタッフが手作業でデータ解析を行い、品質保証をした後、研究者にデリバーする。このデータ解析がじつは現在のARCの結構大きな仕事になっており、Daniel Espada特任助教をリーダーとして、前出のARCスタッフ、永井洋研究員など、総出で対処している。実際、人海戦術であり、データ解析に思いのほか時間がかかっていることは申し訳ない。新人の秋山永治研究員は、ALMAの科学評価観測のデータ解析などを通じて科学運用で活躍している。

ARCは、ALMA-Jのサイエンス・チーム(リーダーの伊王野大介准教授、松田有一助教)や、ALMAでの太陽電波観測準備をリードしている併任教官の下条圭美助教とも連携している。彼らも含めて、週1回、ARC-サイエンス定例を開いている。外国人2名ということもあり、会議は当然英語で行っている。ALMAであるから当然であるが、インターナショナルな雰囲気である。ALMAの新しい観測モードの実現に向けても、ARCスタッフは、中心的役割を果たしており、黒野泰隆研究員はACAを含めたイメージング処理の開発、Daniel Espada特任助教はACA、特にシングル・ディッシュ観測のための準備会議をリードしている。また、下条圭美助教と永井洋研究員には、それぞれALMAにおける太陽観測、偏波観測の共同利用に向けて、チリ現地へコミッショニング観測のためにたびたび出張していただいている。

小杉城治准教授が率いるALMAコンピューティング・チームも広い意味のARCの一部となっている。コンピューティング・チームでは、機器制御プログラムの開発、ALMA用データ解析ソフトCASAの開発、アーカイブ・システムの運用、ユーザーの窓口のサイエンス・ポータル・ソフトの運用、データ解析用計算機の運用など、ALMAにかかわるソフト開発・計算機運用を担っていただいている。スペースの関係で紹介できないが、これまでのBienvenido a ALMA!の過去記事にもいくつかの紹介があるので参照されたい。

ARCの責任は重大である。国民の血税で運用させていただいているALMAから、科学成果がしっかり出されることが重要である。研究者の皆さんに、さすがALMAと言われる成果を出していただけるようにユーザーサポートを頑張っていく所存である。乞うご期待!

ARC とサイエンス・チームのメンバー。左から、黒野泰隆研究員、秋山永治研究員、伊王野大介助教(サイエンス・チーム・リーダー)、立松、アンテナ模型を挟んで、Daniel Espada特任助教、松田有一助教(サイエンス・チーム)、永井洋研究員、河村晶子研究員、Erik Muller特任助教。左上は、海外出張中だった西合一矢特任助教。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。