広報のデザインも、まだまだ勉強中です。

26. アルマ望遠鏡モリタアレイ、グッドデザイン賞受賞

(国立天文台ニュース 2013年3月号掲載)

図1. アルマ望遠鏡モリタアレイのアンテナ模型とグッドデザイン金賞のトロフィー(右下)

望遠鏡にグッドデザイン賞?
「デザイン」という言葉に、どんな印象をお持ちでしょうか。見た目のカッコよさや日用品の使いやすさなど、良いデザインが発露する場はたくさんあります。「設計」という日本語訳を当ててみると、さらにその意味は広がるかもしれません。高い性能を持つ望遠鏡を作り上げる時にも、よい設計は欠かせません。そうした広い意味で世界を豊かにする「よいデザイン」を顕彰するために毎年開催されているのが、グッドデザイン賞です。赤丸の中に角張った「G」の文字がレイアウトされたそのロゴマークに見覚えがある方もいらっしゃるでしょう。このグッドデザイン賞で、日本が開発を担当したアルマ望遠鏡モリタアレイは2013年度グッドデザイン大賞候補ならびにグッドデザインベスト100に選ばれ、最終的にはグッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)を獲得しました。2000年にすばる望遠鏡が金賞を受賞して以来、国立天文台としては2度目の受賞でした。

今回の対象は「アルマ望遠鏡モリタアレイ」ということで、いつも目立つアンテナだけではなく、その中の受信機や信号を処理する相関器まで含めての受賞となりました。もちろん見た目のデザインにとどまらず、その高い性能や使いやすさ、それを実現した全体設計と開発まで含めて高い評価をいただきました。審査委員から届いたコメントによれば、「標高5000mという過酷な高地において、100億光年もの彼方からやってくる微弱な電波を検出するという課題に、天体追尾性を可能にする鏡面精度を持つアンテナ、高効率化された受信機、高い演算性能をもつ計算機を統合し、全ての開発において、厳しい精度を追求し実現させている」点、そして「日本の研究者、メーカーらの技術の粋を結集し、日本らしい総合的なデザイン、精度の高いものづくりの力が、世界レベルによる人類の知の探求の営みに大きく貢献することを力強く示している」点が特に高く評価されたとのこと。まさに私たちの狙いや想いをくみ取っていただけたコメントで、チーム一同とてもうれしく思っています。

図2. グッドデザイン・エキシビションでのモリタアレイ展示。バンド10 超伝導受信機が六本木に降臨。

グッドデザイン賞の反響
グッドデザイン賞を獲得したアイテムが一堂に会するグッドデザイン・エキシビションが、六本木の東京ミッドタウンで11月に開催されました。ベスト100を獲得したアルマ望遠鏡モリタアレイはミッドタウン地下1階のホールに展示物を出し、10分間のプレゼンテーションを行う機会を得ました。残念ながらアンテナ実物は展示できないので、デザイン・開発のポイントをまとめた展示パネルと現地の映像、そして受信機開発グループの協力を得てバンド10受信機カートリッジの展示モデルや超伝導受信素子の実物を出展しました。モリタアレイの展示の両隣には洋上潮力風力発電装置と医療用ガーゼが並び、グッドデザイン賞の幅広さを印象付けます。ベスト100プレゼンテーションでは、作りこまれた映像を見せる自動車メーカーや外資系IT企業らしい身振り手振りの大きなプレゼンを見せたGoogleMap開発チームに混じって私が登壇し、アルマ望遠鏡が挑む宇宙の謎や技術的なポイントをコンパクトに解説しました。都心のおしゃれな場で世界最高性能の望遠鏡の展示に出会うという意外性は来場者に強いインパクトを残したはずで、普通の広報活動では手が届かないところにアプローチできたと思います。

グッドデザイン賞のアルマ望遠鏡プレゼンテーション (Youtube)

知名度の高いグッドデザイン賞に望遠鏡という異色のアイテムが選ばれたということで、メディアからの取材もいくつかありました。テレビのニュースやワイドショーで取り上げられたほか、科学ニュースを普段あまり取り上げないようなメディアにも「アルマ望遠鏡モリタアレイ」の文字と青空が印象的なアンテナの写真が踊りました。「こんなものもグッドデザイン賞取るんだ」といった驚きの声もネットでは上がっていたり、科学よりデザインに強い関心を持つような方々にもアルマ望遠鏡を知っていただけたりと、これまた普段の活動とは少し異なった層に手が届いたことを実感しました。

グッドデザイン賞への応募やエキシビションへの出展にはある程度のお金がかかりますが、広報の費用対効果という観点ではかなり高い成果を挙げられたと思います。実直に科学成果をお伝えすることはもちろん欠くことのできない広報の王道ですが、それでは手が届かないところにボールを投げ込む飛び道具的広報も時には重要。そうした飛び道具を使うことで、今回で言えば展示やプレゼンの工夫など広報担当者自身が学ぶところもたくさんあります。地道にヒットを積み重ねてここぞというときにホームランが打てる、そんな破壊力のある広報打線を今後も目指します。

図3. グッドデザイン特別賞表彰式で表彰状を掲げる長谷川哲夫 国立天文台チリ観測所長と2013 年度グッドデザイン賞審査委員長 深澤直人氏(右)。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。