望遠鏡を動かすのは人です

27. チリ観測所サンティアゴオフィス

(国立天文台ニュース 2014年3月号掲載)

日本から見ると、ほとんど地球の裏側にあたるチリ。そこには2014年3月現在19名の国立天文台職員が赴任し、7名のチリ人スタッフや日本から出張する職員とともに、国際共同運用のALMA望遠鏡や、日本独自のサブミリ波望遠鏡ASTEの運用にあたっています。これら国立天文台のチリにおける活動を縁の下で支えるのが、チリ観測所サンティアゴオフィス。今回はこの頼もしい仕事人集団(除く所長)をご紹介します。

ご存じのように、ALMA望遠鏡は日本を中心とする東アジアと、北米、ヨーロッパの3者が対等に協力して建設し、運用しています。チリ観測所サンティアゴオフィスは、このALMA特有の三極構造の、チリにおける国立天文台代表部の役割を担っています。国際ALMA観測所の運営方針は最高決定機関であるALMA評議会が決めますが、チリにおける日常的な運営で日米欧間の協議が必要になる局面(例えば人事や予算の執行、チリ政府との連絡など)では、チリ観測所長や事務長が、歩いて10分ほどの国際ALMA観測所本部に出向いて、北米、欧州及び国際ALMA観測所の幹部との会議に臨むことになります。このあたりは、国際交渉のフロントで日本の国益を守る外交的な側面もあるところです。

しかし、サンティアゴオフィスのより重要な役割は、人の生活に密着した部分にあります。例えば職員が新たにチリに赴任するとなれば、ビザの取得に始まり、住む場所の選定と契約、銀行口座の開設、現地の健康医療保険への加入、引っ越し荷物の輸入など、さまざまのことをスペイン語でこなさなくてはなりません。でも心配ご無用。サンティアゴオフィスの事務スタッフがてきぱきと書類を作り、本人の精神的・時間的負担は最小限で必要な手続きを済ませてくれます。家族でサンティアゴに住まれる方の場合、もちろんご家族についてもお世話します。生活していれば、どうしてもさまざまなトラブルが発生するもの。スペイン語の壁もあってなかなか自力で解決できないときも、サンティアゴオフィスのスタッフがサポートします。

チリ観測所が発足して2年、その間の出来事の中で、どうしても忘れることができないのが森田耕一郎教授を失った2012年5月の事件です。あの時は、日本側からの手厚いサポートのもと、チリ駐在の長い小笠原隆亮教授を中心にチリ当局に対応してもらいながら、サンティアゴオフィスとして精一杯のことをしました。このような事件を未然に防げなかった反省から、その後、職員とその家族の安心・安全に一層の注意を払い、いくつかの具体的な対策を導入しました。

ALMA望遠鏡は建設から科学運用へと移行し、次々にすばらしい発見をもたらしています。国立天文台は、米欧のパートナーとともに、その30年の運用に責任を持っています。しかし実際に望遠鏡を動かしていくのは人。国立天文台の人々がチリで安心してその能力を発揮し貢献できるよう、サンティアゴオフィスは今日も休むことなく活動を続けています。

末筆ながら、建設費概算要求時からALMAプロジェクトを支えてこられた千葉庫三さんには、この2年間ビジネスマネジャーとしてサンティアゴオフィスの運営にご尽力いただきました。長い間本当にありがとうございました。

チリ観測所サンティアゴオフィスの面々。左から、事務長の山口さん、秘書のガブリエラ、庶務の塚野さん、長谷川、所長秘書のロレーナ、アカウンタントの番田さん(2013年12月退職)、ビジネスマネジャーの千葉さん(2014 年2 月日本帰任)、会計の山本さん。ほかに、2013 年度に新たにチリアルマ部長の浅山さん、ASTE マネジャーの奥田さんもメンバーに加わっています。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。