アルマの運用は始まりましたが、将来拡張計画はこれからです!

29. アルマ将来拡張計画

(国立天文台ニュース 2014年9月号掲載)

早いもので、2009年7月に私がチリの合同アルマ観測所( JAO:Joint ALMAObservatory)に赴任して5年が立ちました。赴任当時は山麓施設(OSF:OperationsSupport Facility)で2台のアンテナを用いた干渉計実験が終わったばかりという状況で、本当にアルマが実現できるのだろうか思ったものです。それから約4年間の間、チリ現地の仲間および各地域の関係者と協力してがむしゃらにアルマの立ち上げを進め、初期運用開始および観測所開所式が執り行われ、遂に本格運用が始まるに至り非常に感慨深いものがあります。私個人としても、開発に関わったバンド4受信機や、日本の受信機(バンド8および10)のファーストライト、ファーストフリンジをと成し遂げた経験は何事にも代え難い自身の財産となりました。

JAOで一仕事をやりおえた今、私はJAOからNAOJに戻り(といってもチリ在住です)、「東アジア・アルマ将来拡張計画マネージャ」という肩書きでアルマに貢献しています。読者の皆様には、「本格運用が始まったばかりなのに、もう将来拡張計画?」と思われる方も多いかと思います。確かにニュースや新聞等でも連日報道されている通り、アルマは初期運用の限定された性能でも驚くべき成果を出し続けています。アルマがその真の性能を発揮することで、今後10年で我々の宇宙観を覆すような想像もできない成果がどんどん出てくる事は間違い有りません。しかし、今後の天文学をリードしていくためには将来的な観測装置のアップグレードは欠かせません。現在アルマで採用されている装置の開発には、その当時の最新鋭の科学技術を結集しその完成までおよそ10年を要しました。ですので10年後の天文学を見越して、その時代にどんな天文学が展開されていて、そこにアルマ望遠鏡で切り込むには、まさに今その検討開発を進める必要があります。このためアルマの将来計画の議論が北米、欧州、東アジアの各地域で活発に行われており、またいくつかの開発プログラムが実際に進め始めています。

アルマ受信機が納められた冷却チャンバー。日本が開発したバンド4、8、10 もインストールされています。この中に将来バンド1 やバンド11が搭載されるよう計画を進めています。

天文学研究において、世界最高水準の観測装置の開発は、もはや一国で遂行することはできず、国際協力で進めなければなりません。東アジア地域においても、2013年7月に東アジア・アルマディベロップメントワークショップを開催して、日本と台湾、韓国から研究者が集まり、今後のアルマ望遠鏡の機能増強について議論しました(国立天文台ニュース2013年9月号参照、および http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/alma/2013/0719post_503.html 参照)。

東アジアでの将来拡張計画の状況ですが、バンド1(45GHz帯)受信機の開発が台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA:Academia Sinica Institute of Astronomyand Astrophysics)が国立天文台のサポートの下主導し、カナダ(Herzberg Instituteof Astrophysics of the National ResearchCouncil of Canada, NRC-HIA), 米国(NationalRadio Astronomy Observatory, NRAO)、チリ大学(Departmentod e A s t r o n o m i a ,Facultad de CienciasFisicas y Matematicas,Universidad de Chile(UCh)とコンソーシアムを形成して進められています。また国立天文台主導で、バンド10よりもさらに高い周波数であるバンド11(1.3 THz 帯)受信機の基礎研究を東京大学と一緒に進めています。また広視野化のためのマルチビーム受信機の検討は、韓国も議論に参加して精力的に進められています。その他にも小規模開発ということで、日本のフォトニック技術を用いた電波校正用信号源を開発し、JAO に提供しています。

私のマネージャとしての主な役割は、バンド1やその他の新規開発プロジェクトの調整や交渉等です。アルマは国際プロジェクトですので、新規開発計画はアルマパートナー間の合意の下に進める必要があります。またアルマの運用に影響を与えないよう、新機能、新装置をどのようにアルマに組み込むかについても慎重な議論と計画立案が必要になります。私はチリ在住の地の利を生かして、JAOとの情報共有や各地域の開発状況の進捗確認等を行っています。

またバンド1計画では、コンソーシアムは台湾、日本、カナダ、米国と地球上で跨がっているため、隔週の電話会議による互いの進捗確認に参加し、必要があれば各チームが抱える技術的課題等について議論するため各パートナーを訪問したりします。他にも米欧の新規開発プロジェクトに審査員として参加するために、チリを起点として世界中に飛び回る事が増えました。そのかわりOSFに出張する機会が少なくなってしまったので寂しい思いもありますが。

まだ新規開発プロジェクトは始まったばかりですが、アルマが今後20~30年と天文学をリードしていく観測所になるように、世界の仲間を協力しながら今後も進めていきます。数年後には、将来拡張計画の立ち上げにOSFで参加できればと思っています。

バンド1 開発会議の後の食事会。チリから来日した研究者には、すき焼きの生卵は初めての体験だったそうですが、美味しかったとのこと。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。