05. アルマ・バンド4/8受信機の開発

(国立天文台ニュース 2010年11月号掲載)

我々はアルマ電波望遠鏡へ搭載されるALMA Band4(以下、B4)受信機とALMA Band8(以下、B8)受信機を開発、量産しています。総勢18名のメンバーです。

図1 国立天文台で開発された バンド4受信機(左)とバンド8受信機(右)。受信する電波の周波数が異なるため、受信機の構造も異なっている。

宇宙から来る非常に微弱な電波を検出するために、ALMAでは高感度の受信機が要求されています。B4/B8受信機は、いずれもカートリッジ型の超伝導ヘテロダイン受信機で、導波管型偏波分離器(Ortho-mode Transducer, OMT)と超伝導トンネル接合(SIS)を用いた2 つのサイドバンド分離型ミクサ(2SBMIX)を搭載しており、直交2偏波かつUpper sideband(USB)/Lower sideband(LSB)の計4 チャンネル同時観測が行えます。SIS ミクサは真空容器中で冷凍機によって絶対温度4K(−269℃)に冷却することで、微弱な信号を高感度に受信することができます。B4/B8で使用しているSIS ミクサは先端技術センターのSIS チームが製造しています。また、受信機部品の製造、3次元測定装置での光学系鏡面精度測定等は先端技術センターのME(mechanical engineering)ショップチームで行われています。

B4/B8の1号機受信機は既にチリのアルマ観測所で観測に供されています。今年6月には、天体からのスペクトル線の取得に初めて成功しました(ファイル 「04. 日本が開発した受信機で、初スペクトルを取得!」 参照)。出荷した受信機が順調に運用されている知らせに、開発チームは大いに励まされました。

表1 バンド4/8受信機の開発目標。
カートリッジ観測周波数観測波長雑音温度
バンド4125-163 GHz2 mm帯51K以下(観測帯域の80%)
バンド8385-500 GHz0.6 mm帯196K以下(観測帯域の80%)

受信機を出荷するには、総合試験(電気性能試験、機械性能試験)に合格しなければなりません。雑音温度は、受信機感度の重要な指標です。B4/B8受信機の雑音温度測定の結果、表1の仕様を満足しており、それぞれの周波数帯域における世界最高性能を達成しています。これ以外にも多くの仕様がありALMA受信機開発は非常にチャレンジングであり、意気に燃える仕事でもあります。図2はB8受信機4号機の機械性能評価を行う振動試験の様子です。加振テーブルに固定した受信機に水平方向(X,Y)および垂直方向(Z)の振動を加える試験ですが、丹精込めて製造した受信機に苛酷な荷重を与える瞬間は大層心痛みます。

図2 Band8受信機の振動試験(奥が加振機、手前の四角い板が加振テーブル)。

受信機の輸送にもチームのアイデアが生かされています。図3は輸送用コンテナです。輸送中に受信機を傷付けないように金属製の円筒容器(トランスポートチューブ)に受信機を組み込み、輸送用コンテナに梱包します。ペリカンケースと呼ばれているコンテナで、強固で防水・防塵性が高く、軍用にも使われているものです。また、国内と海外を含めた輸送中の取り扱いが適切であったかどうかは、トランスポートチューブに取り付けられたショックログで常時モニターされます。このコンテナはB4/B8受信機1号機の輸送で初めて使いましたが、輸送中の損傷もなく、無事受信機を北米のフロントエンドインテグレーションセンター(Front End Integration Center, FEIC)へ出荷することができました。

図3 輸送用コンテナ:黒色の輸送用コンテナの蓋を開けた状態。トランスポートチューブは防振のため青い緩衝材に固定する。コンテナは、最終的には輸送業者によりトライウオールと呼ばれる収容箱に緩衝材とともに梱包される。コンテナは、台内での落下テストをクリアした。

部品の国内調達、部品の輸入、受信機の輸出にも多岐にわたる作業があります。スタートは、年度単位で行う部品購入作業です。入札手続きは調達係に助けられながら進めています。また、ALMA 北米グループや欧州グループが開発・製造した部品も多く使われています。それらの部品を輸入し、受信機に組み込んで再度米欧および台湾のFEIC へ輸出しますので、再輸出免税を適用して輸入通関手続きを行います。完成品の受信機を出荷するためには、受信機およびWCA(Warm Cartridge Assembly)が輸出貿易管理令別表第1 の規制該当貨物であるため、一般包括輸出許可制度に基づく輸出許可を取得した上で税関に輸出申告を行います。これらの輸出許可申請書類の調整・審査には国際学術係の強力な支援を受けています。

我々は2010年11月現在、2号機から4号機の受信機出荷準備を進めています。計画では、バンドごとにそれぞれ73台の受信機を製造します。複数台の製品を同一仕様で繰り返し生産することは、企業では日常の作業ですが、国立天文台にとっては初めての経験です。そのために、筆者が衛星開発の経験で培ってきた安全管理、信頼性管理や品質管理の手法、特に製品の追跡調査(Traceability of products)を容易にするための記録システムを受信機製造に定着させたいと考えています。

最後になりますが、日々の受信機製造に絶大なるご支援、ご協力をいただいておりますALMA 推進室、先端技術センター、天文台事務部および関連メーカーの皆さまにこの場を借りて改めて感謝いたします。

※ 人物の所属や肩書き、組織の名称等は、執筆当時のものです。