特別インタビュー:アルマ、宇宙への視線

生まれた意味を探しに~アルマに感じた根源の写真Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). All rights reserved.

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生まれた意味を探しに~アルマに感じた根源

ロックバンドACIDMANのボーカル&ギターで作詞も手がける大木伸夫さんの宇宙愛は突出している。 TV番組で見たアルマ望遠鏡計画に触発されて「ALMA」という楽曲を作り、ミュージックビデオの撮影のために2010年、南米チリのアルマ望遠鏡へ。標高5000m、まだ数台しかない望遠鏡の前で熱唱したのだ。 彼はアルマ望遠鏡の、宇宙の何に惹かれるのか、音楽に込めた思い、天文学への期待を語って頂いた。 (インタビュー・文:林公代、写真:飯島裕)

「宇宙には果てがない」父親の言葉に眠れなくなった子供時代

そもそも宇宙に興味を持ったきっかけは?

大木伸夫さん(以下、大木):この世界はどうなっているか、「知りたい、知りたい」と常に考えている子供でした。宇宙に興味をもったきっかけは父親が語った一言。「宇宙には果てがないんだよ」という言葉が、僕の中で宇宙の始まりでした。

いくつぐらいの時ですか?

大木:小学校低学年だったと思います。「果てがない」というワードに僕はひっかかって、理解しようとして自分の中のカメラを(地上から宇宙へ)とずっと俯瞰させていくんですが、何かにたどり着かず、延々にカメラが上り続けるってどういうこと?と夜眠れなくなった。

それから宇宙に興味を?

大木:地元の埼玉県川越市の児童センターで1986年にハレー彗星を見るイベントがあって、連れて行ってもらいました。子供たちがずらーっと並んでいて、一人2秒ぐらいしか見られない(笑)。ハレー彗星はぼやーっとした像でしたが、75年に1度巡ってくるという壮大なスケールにわくわくしました。星座とかには詳しくなかったものの、「この宇宙はどうなっているのか」にはずっと興味があって、色々な本を読みふけっていましたね。

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). All rights reserved.

大学は薬学部に進学されたんですよね?

大木:薬剤師の資格を持っています。父親は薬局を経営している薬剤師家系です。でも高校生の時からミュージシャンになりたいと思っていた。音楽一本じゃ不安定だし、大学に行くなら一人暮らしをしていいと言われて。当時僕が頑張れたのは英語と化学と数学。 その3科目で薬学部が受験できたんです。不純な動機ですけど(笑)

テレビで見たアルマ計画に感動して作った曲「ALMA」

アルマ望遠鏡は2011年9月から科学観測をスタート、昨年10周年を迎えました。 大木さんはアルマの科学観測前に「ALMA」という楽曲を作り、2010年8月に現地でミュージックビデオを撮影されたんですよね。 ALMAという曲を作ったのはなぜですか?

大木:2009年頃だったと思うんですが、深夜のテレビ番組でアルマ計画全体が紹介されていたんです。めちゃくちゃ驚いて感動しました。

何に感動したんですか?

大木:まず富士山より高い標高5000mの場所に、あんなにでっかいアンテナを66台も並べるなんて、人類はすごいことを考えるんだなぁと。可視光でなく電波で観測するために大きなアンテナが必要だということも初めて知りました。宇宙開発の歩みって国同士が競争して進めてきたじゃないですか。それがアルマは欧州もアメリカも日本もみんなで協力しようという国際協力で進めることも素晴らしいと思って。宇宙の果てを知りたいというのは人類共通の欲望ですから、協力するのは当たり前。「なんて美しいんだ、人間は」と。

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). All rights reserved.

宇宙開発では1960年代に米ソの月面レースもありましたね。 大木さんが作詞された曲には、争いや人と人が傷つけあう愚かさが書かれていますね。

大木:戦争によって科学技術が発展したという側面はあるかもしれない。戦争をしてきた人たちが最悪だと言っているわけでもない。でも100年後には僕らは過去の歴史を振り返って「野蛮だった」って震えているはず。生命は野蛮な時期を経て知性を得て、共通の思想や言語をもって星を見上げるんじゃないかなと思っています。 何より宇宙の長い時間スケールで物事を考えると長くて100年という一瞬の命を、争い合って落とすのはあまりにももったいない。それは宇宙から頂いた思想です。

確かに宇宙の138億年の歴史を考えると人間が生きる時間ってまばたきみたいなものですよね。

大木:そう。まばたきの一瞬を悲しみで終わるのはもったいない。でも、宇宙を見上げる時、僕は人間がちっぽけな存在だとは思わない。このちっぽけな感情や感覚の集まりが結局、宇宙だから。個であり全であり、全であり個である。個と全が一つに繋がる瞬間がある。それにいつも感動します。

生まれた意味を探すために

標高5000mの過酷な場所で人類の知を結集する素晴らしさ。そして電波で宇宙を見ることに注目されたのもさすがですね。

大木:最初は可視光で観測するのだろうと思っていました。ところがアルマ望遠鏡は電波を使う。びっくりしたのは電波を使えばアミノ酸の組成までわかると聞いたんです。それぞれの物質が発している電波を観測できるって、ぶっ飛んでいますよね。

アミノ酸に反応したんですね(笑)

大木:そこは薬剤師だから(笑)。宇宙の彼方にあるアミノ酸を発見できるかもしれない、しかも組成までわかるとはすごいなと。

アミノ酸は生命の材料で、私たちがどこでどのように生まれたかを探る手立てになりますよね。大木さんが作詞された「ALMA」に「君が生まれた意味を探しに 悠久の空を目指す」というフレーズがあります。アルマ計画からインスピレーションを受けたのでしょうか。

大木:「宇宙は皆さんの生まれたところだよ」という思いを込めました。ちょうど愛とか心をテーマに楽曲を作っていたんです。その時にTVで見たアルマ計画を思い出して、砂漠にアンテナが並ぶ風景とか、夜空を見上げている人々がすごくリンクした。さらにアルマ望遠鏡の「アルマ(alma)」はスペイン語で「魂」という意味でもある。「なんて美しくて素敵なんだ。絶対にこの曲は『ALMA』だ」と勝手に曲のタイトルに「ALMA」と名付けました(笑)。

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平松正顕(アルマ広報。以下、平松):アルマの公式キャッチフレーズは「In Search of Our Cosmic Origins (私たちの起源を宇宙に探る)」です。その意味で「ALMA」という曲を含めて大木さんの思いは、アルマ望遠鏡の存在意義と合致していますよね。

大木:それが宇宙を目指す「根源」じゃないですかね。どうやって僕たちは生まれて、なんのために生まれたのか。なぜここにいるのか。果たして知的生命体は僕らだけなのか。とにかく知りたくて、僕らは手を伸ばす。

南米の星空に大号泣

「ALMA」という楽曲が生まれた後、なぜ南米チリのアルマ望遠鏡に行くことに?

大木:南米に行くなんてまったくイメージしてなかったんです。ミュージックビデオ(MV)を監督してくれた仲間(柿本ケンサク氏)から、「ALMAってどういう意味?」と聞かれて話したら「じゃあ行こう!」と。レコード会社の人は「そんな予算ないですよ」とうろたえてました(笑)。柿本が「自腹でも行きますよ」と盛り上がってくれて、すぐ国立天文台の方に連絡したら協力して下さるということで。

行動力がすごいですね。今はアルマにそんなに簡単にはいけないらしいですよ。

平松:今は運用フェーズに入っていて望遠鏡も忙しくしていますが、当時は建設中でまだ余裕があったんだと思います。(アルマ広報の)僕より先に大木さんは現地に行かれたわけです。

大木:専門家より先に行っちゃった(笑)

現地に行ってみてどうでしたか?

大木:アタカマ砂漠に立つと、見たことがない景色が広がっていました。地球を見ている感じです。空の青さが尋常じゃない。

2009年9月に撮影したアルマ望遠鏡。 Credit: 水野範和, (ALMA ESO/NAOJ/NRAO)

望遠鏡に対峙したときは?

大木:標高5000mには当時、6台しかありませんでした。それとは別に山麓施設(標高2900m)にある建設中のアンテナを、ヘルメットをかぶってコントローラーで操作させてもらったんです。傾きと回転の大きなボタンが2つあって、操作すると「ウィー、ガチャンガチャン」とメカニックな音がしました。TVで見たアルマ望遠鏡のCG映像では66台のアンテナがあった。これがあと60台も並ぶのかと思ったら「嘘だろ!」と。宇宙のすごさというよりも、人間の無限の想像力のすごさを感じましたね。

ミュージックビデオの撮影はどこで?

大木:標高5000mのアンテナの前で撮影しました。風速30mで体感温度がマイナス30度ぐらい。立っていられないぐらいの風でした。周りはみんな高山病っぽくなって危なかったですが、僕はたまたま元気で酸素ボンベも持たずに(注:現在は標高5000mに行く際には酸素ボンベの着用が義務付けられています)。ただ寒さが尋常じゃない。しかも軽装だったから、手を出すと感覚がなくなるし耳も痛くて。映像ではわからないと思いますけどね(笑)

平松:標高5000mの服装じゃないですね(笑)

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). All rights reserved.

星は見ましたか?

大木:星が多すぎて天の川も南十字星もわからない。アルマを訪問した後にウユニ塩湖に行って、じっくり一眼レフで星を撮りました。見渡す限りの星空で目の前に天の川銀河がずどーんとある。圧倒されて大号泣しました。こんなに美しい世界に生きているのに、人間は争っている。畏怖の念とかいろんな感情があふれてずっと泣いていました。

宇宙にミュージシャンを連れていかないとだめですね。その感情から生み出された作品が万人に伝わるわけだから。

大木:泣き続けているから意味ないかも(笑)。でも僕が嬉しかったのは、ALMAという曲を作った時の感覚と、現地で見た景色があっていたこと。先日、宇宙飛行士の油井亀美也さんに会ったとき「大木さんは宇宙に行ったことがないのに、なんで宇宙に行った感覚の歌が作れるんですか」と言って頂いて、「よかった~」と思いましたね。

Credit: Y. Beletsky (LCO)/ESO

ブラックホールを超える衝撃に期待

アルマ望遠鏡を訪問後、注目された成果はありますか?

大木:2012年12月にリリースした「新世界」という曲のアルバムジャケットにちょうこくしつ座R星の画像を使わせて頂きました。アルマの科学運用初期の大きめの成果で、年老いた星が一生を終える時の姿です。死にゆく星があり、新しい星が生まれるという内容が曲とリンクするなと思って。

生まれ変わる、輪廻みたいなキーワードがACIDMANの曲にはよく出てきますね。

大木:僕は無宗教なんですけど、仏教の思想は好きで輪廻転生は当たり前だと思っています。宇宙ではブラックホールがあらゆるものを吸い込むけど、その一方で星のもととなる物質を噴き出していることも美しく、壮大な輪廻を感じます。

私たちの身体もどこかの星が一生を終えた後のかけらかもしれない

大木:この水もどこかの誰かの涙だったかもしれない・・

詩的ですね~ほかに気になる観測成果は?

大木:驚いたと言えばやっぱりブラックホールですね。イベント・ホライズン・テレスコープの観測にアルマ望遠鏡が参加して、映画や漫画の世界だったブラックホールを、生きている間に直接観測できてあんな感動が得られるとは。ため息が出たし拍手だし、素晴らしかった。

Credit: EHT Collaboration

ブラックホールは快挙でしたね。

大木;いやぁ、ノーベル賞ものですよね。子供の頃、誰もが思い描いたものを可視化するってすごいことだと思うんですよ。次はアルマの観測ではないですが、ヒッグス粒子の発見かな。ニュースで「ヒッグス粒子が発見されました」と聞いた時には椅子から崩れ落ちそうになりましたよ(笑)。「神の粒子」と言われていましたから。「うそー!」と思わず叫びました。ブラックホールやヒッグス粒子を超える衝撃がほしいですね。

アルマ望遠鏡は今後、解像度を2倍に、一度に観測できる周波数帯を2倍にする計画を掲げています。そうなるとアミノ酸とか有機分子とか生命の元になった物質を観測できるかもしれない。実はもうキャッチしている可能性もあるそうですが。

平松:色々な物質からの電波が大量にあって、アミノ酸を観測できていてもまだ我々が気づいていないだけかもしれない。データ解析のイノベーションが必要になります。

大木:すごい!こわ~!鳥肌立ちましたよ。有機物はすぐ見つけるでしょうね。もう見つかっている可能性もあってあとは解析のスピードなんですね。楽しみだ~。僕は地球外知的生命体はいて欲しい派だし、信じていますが、宇宙にまったく生命の根拠がなかった時の驚きも凄いと思うんですよ。どっちにせよ感動すると思う。僕らが生まれた意味を少しでも解明してくれるといいですね。すごく期待しています。

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). All rights reserved.

人が宇宙に向き合う意味

どういう思いで今後も宇宙や音楽と関わっていきたいですか?

大木:音楽の究極はエンターテイメントなので、楽しんで頂くことが大前提です。宇宙から受ける感動と、曲を作るときやお客さんの反応から受ける感動は、すごくリンクするんです。先ほど、(国立天文台内で)撮影の時に双眼鏡で木星の周りの衛星、ガニメデやエウロパを見た時のうわーっていう感動と音楽で得られる感動は似ている。知らないものを知った瞬間、見えないものを見た喜びは音楽でも伝え続けていきたいと思っています。

「最後の星」という歌に「あの青い星の音 命の音だろう」という詩がありますね。音は空気がないと伝わらない。命の証みたいなものかなと感じました。

大木:そうだといいなと思います。音って1秒で世界が変えられるんです。低音の音がブーンって鳴ったらどきっとするし、明るい音がふわーっと鳴ったら、はっと気分が変わる。魔法みたいなもので、その魔法をポジティブに変換していくことはやり続けたい。

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). All rights reserved.

一つの宇宙を生み出すようなものですね

大木:大げさに言えば、音楽は一つの宇宙を創ることだと思うし、一つの音が生まれる瞬間はビッグバンの瞬間でもある。音楽と宇宙ってすごく似ている。宇宙に17種類ある素粒子が大元は一つだったんじゃないかという超弦理論を信じていて。弦という言葉だけでギターの弦を連想しますよね(笑)。17種類の素粒子は響き合って共鳴し合っている。ギターを鳴らして音を出す瞬間は宇宙とリンクしやすい。

ひも理論を考えながらギターを弾いている?

大木:そういう感覚でやっているミュージシャンは僕ぐらいしかいないと思いますが(笑)

最後に、人が宇宙と向き合うことの意味をどう思いますか?

大木:自分はどこから来たのか、どこへ行くのかっていう命題は人間の究極の本能として備わっていると思う。この世界の仕組みを知りたい。宇宙を感じることは生命を感じることだと思います。みんな、命や宇宙に感動したいんですよ、きっとね。

大木伸夫(おおきのぶお)

ロックバンドACIDMANのVo,G。1997年ACIDMANを結成。“生命”“宇宙”をテーマに掲げ、幅広いサウンドで音楽の可能性を追求し続けている。数々の音楽フェスの大トリを務め、現在までに12枚のオリジナルアルバムを発表、6度の日本武道館公演、2017年には結成20周年の集大成として故郷埼玉県、さいたまスーパーアリーナにて「SAI」を主催。

薬剤師の資格を持ち、所属事務所の代表も務める。
幼少期より宇宙への関心が高く、その知識や、宇宙視点からの思想などを反映した唯一無二の世界観を作り出している。

国立天文台副台長、教授・渡部潤一、宇宙飛行士・油井亀美也、理学博士・吉川真、宇宙科学研究所助教・春山純一など、宇宙航空分野の人物との対談も多い。

2022年には25周年イヤーの集大成として5年ぶりに「SAI 2022」を開催する。

http://acidman.jp/