ちょうこくしつ座R星の不思議な渦巻き

アルマ望遠鏡が見つけた不思議な渦巻き星
- 新たな観測でさぐる、死にゆく星の姿

欧州南天天文台のマティアス・メーカー氏をはじめとする国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使った観測で、年老いた星であるちょうこくしつ座R星のまわりに不思議な渦巻き構造とそれを取り囲む球殻構造を発見しました。赤色巨星のまわりにこのような渦巻き構造と球殻構造が一緒に見つかったのは今回が初めてのことです。また、今回初めてその渦巻き構造の3次元情報を得ることもできました。

この不思議な渦巻き構造は、ちょうこくしつ座R星の周囲をまわる小さな星によって作られていると考えられています。この成果はアルマ望遠鏡の初期科学観測で得られたもので、10月11日発行の英国の科学誌「ネイチャー」に掲載されます。

ガスの渦巻き構造

世界で最も強力なミリ波・サブミリ波望遠鏡であるアルマ望遠鏡を使った研究チームが、赤色巨星 ちょうこくしつ座R星の周囲に驚くべきガスの渦巻き構造を発見しました(注1、2、3)。この渦巻き構造は、この星をまわっている見えない星によって作られたものと考えられています(注4)。また研究チームは、ちょうこくしつ座R星から予想以上に大量の物質が周囲にまき散らされていることも発見しました。

ちょうこくしつ座R星の不思議な渦巻き

ちょうこくしつ座R星の不思議な渦巻き
アルマ望遠鏡は、星から噴き出したガスに含まれる一酸化炭素分子が出す電波を観測しました。星を取り囲む球殻状のガスと渦巻状のガスがはっきりととらえられています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

動画1. アルマ望遠鏡が観測したちょうこくしつ座R星の3次元データ
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), L. Calcada
この動画は、アルマ望遠鏡が観測したちょうこくしつ座R星のまわりのガスが放つ電波を異なる周波数ごとに画像化し、連続画像としたものです。この映像では、ガスの輪が大きくなったり小さくなったりするように見えますが、これはそれぞれ異なる速度で動くガスから出る電波がドップラー効果によって少しずつ周波数がずれることによっておこるもので、シャボン玉を輪切りにしてみているようなものです。
これを詳しく解析することで、この球殻状のガスの3次元構造を調べることができます。連続画像の真ん中あたりには、今回初めて発見された渦巻き構造が見えています。

動画2. ちょうこくしつ座R星の3次元コンピュータモデル
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Mohamed (SAAO), L. Calcada
アルマ望遠鏡の観測結果をもとに、ちょうこくしつ座R星のまわりにどのようにガスが分布しているかをコンピューターシミュレーションで再現した図。

動画3. ちょうこくしつ座R星からガスが噴き出す様子のコンピュータシミュレーション映像
Credit: ESO/ S. Mohamed
画像右上の時刻が t=0(年)になったときに星の内部で爆発的な核融合反応が発生し、大量のガスが吹き出します。R星の周囲を回る見えない星の重力によって、噴き出したガスは渦巻き構造を作ります。

「私たちは、このような赤色巨星のまわりをシャボン玉のように取り囲むガスはこれまでたくさん知っていました。しかし球殻構造のほかにこんな渦巻きを見つけたのは今回が初めてです。」と、研究グループを率いるマティアス・メーカー氏(欧州南天天文台、ボン大学アルゲランダー天文学研究所)はその驚きを語っています。

ちょうこくしつ座R星のような赤色巨星は非常に大量の物質を周囲にまき散らしており、そうして宇宙に散らばったガスや塵から次の世代の星や惑星、さらには生命が生まれてきます。このため、赤色巨星がどのように、どれくらいのガスや塵をまき散らしているかはこれまでも盛んに研究されてきました。

アルマ望遠鏡は、一部のアンテナを用いた「初期科学観測」の期間にも関わらず他のサブミリ波望遠鏡の性能を大きく凌駕しています。これまでに行われたちょうこくしつ座R星の観測で球殻状の構造は発見されていましたが、今回発見されたような渦巻き構造やR星のまわりを回る星は見つかっていませんでした。

「私たちがアルマ望遠鏡でこの星を観測した時、設置されていたアンテナは半分にも満たない数でした。2012年度から始まるアルマ望遠鏡の本格運用ではどんなにすばらしい観測ができるのかと楽しみでなりません。」と、研究チームの一員であるウーター・フレミング氏(スウェーデン、チャルマース工科大学)は語っています。

星の最期

太陽の8倍よりも小さな質量をもつ星は、その一生の最後に「赤色巨星」と呼ばれる赤く膨らんだ姿に進化し、自分自身を構成するガスを放出します。また赤色巨星段階にある星では、星の中心のまわりにあるヘリウム原子核の層が周期的に激しい核融合反応を起こすことがあります。この爆発的な反応によって大量の物質が放出され、星を包むガスと塵の殻のような構造が作られます。爆発的な核融合反応が収まると、星の表層からのガスの流出も元に戻ります。

このような爆発的な核融合反応は1万年から5万年に1回起こると考えられており、一回の爆発的な反応はせいぜい数百年しか続きません。アルマ望遠鏡を用いたちょうこくしつ座R星の観測によって、この星の中で1800年前に爆発的な核融合反応が発生し、200年間続いたということが明らかになりました。そしてこの星をまわる見えない星が、放出されたガスを渦巻きの形にしたのだと考えられます。

「高い解像度を持つアルマ望遠鏡によって星を取り囲む球殻状のガスと渦巻き構造がどのようにできたのかを知ることができれば、ちょうこくしつ座R星で爆発的核融合反応の前、最中、その後に何が起きたのかをより正確に理解することができます。」とメーカー氏は語ります。 「アルマ望遠鏡によって新しい宇宙の姿が明らかになるだろうと私たち天文学者はずっと期待してきましたが、観測が始まってすぐにこんな予期せぬ発見をすることができ、とても興奮しています。」

ちょうこくしつ座R星を取り囲む構造について説明するために、研究チームは連星のまわりでどのようにガスが動くかというシミュレーション研究も行いました(注5)。その結果は、アルマ望遠鏡の観測結果とよく一致していました。

「アルマ望遠鏡で見つかった構造をきちんと理論的に説明するのはとても難しいことですが、私たちのコンピューターシミュレーションはそれをよく再現しています。そしてこの研究によって、数十億年後の太陽に何が起きるのかを予測することもできるのです。」と共同研究者であるシャズレネ・モハメド氏(南アフリカ天文台)はその意義を語ります。

「今後アルマ望遠鏡を使ってちょうこくしつ座R星や同様の年老いた星を観測することで、私たちの体を作っている元素がどのようにして宇宙にばらまかれたのか、ということをよりよく理解することができるようになるでしょう。そして、私たちの太陽の未来の姿を知るヒントも与えてくれるでしょう。」とメーカー氏は語っています。

[1] ちょうこくしつ座R星は漸近赤色巨星(AGB星)と呼ばれる種類の星で、太陽の0.8倍から8倍の質量をもった星が年老いた姿です。このような星は太陽よりも低温で、大量のガスや塵が宇宙空間に流出しています。これを恒星風と呼びます。またAGB星は周期的に明るさが変わるという性質も持っています。このような星は炭素原子や酸素原子でできた小さな中心核を持ち、その周りに水素原子とヘリウム原子の層が取り囲んでいて、さらにその外には対流を起こす分厚い水素の層があります。私たちの太陽も、やがてこのような星に進化していきます。

[2] AGB星の周囲には、星から噴き出した大量のガスや塵が存在しています。小さな塵の粒は遠赤外線やミリ波を出しているため、これを観測することで塵の分布を知ることができます。またガスの中に含まれる一酸化炭素分子は波長が1mm程度の電波であるミリ波を出すため、これを観測することでAGB星から噴き出すガスの分布をみることができます。高い感度を持つアルマ望遠鏡によって、AGB星のまわりのガスや塵の構造をこれまでにない精度で直接描き出すことができるようになりました。

[3] ちょうこくしつ座R星で見つかったような渦巻き構造は、ハッブル宇宙望遠鏡によるペガスス座LL星の観測でも見つかっています。ただし、ペガスス座LL星には渦巻き構造を取り囲む球殻状の構造はありません。またハッブル宇宙望遠鏡は塵が散乱した光を観測しているので塵の運動を調べることができませんが、アルマ望遠鏡による観測では一酸化炭素分子が出す電波のドップラー効果を測ることでガスの運動を調べることができ、その3次元構造も推測することができます。

[4] AGB星よりもさらに進化の進んだ段階にある惑星状星雲の中にも不思議な形をしたものがあり、この成因を説明するためにも連星のはたらきが注目されています。AGB星まで進化した星は、さらに自分自身を構成するガスを宇宙空間に噴き出して一生を終えます。中心に残った星の芯は強い紫外線を出しており、AGB星段階で放出したガスがその紫外線によってイオン化され輝いているのが惑星状星雲です。多くの惑星状星雲は複雑な形をしていて、連星の重力や星から出る恒星風、連星が持つ磁場の作用などによってこの複雑な形が作られていると考えられます。

[5] このシミュレーションでは、爆発的なヘリウムの核融合反応を起こすAGB星とそれを回る小さな星が仮定されました。二つの星の間隔は60天文単位(1天文単位は太陽と地球の平均距離で、約1億5000万km)、二つの星の質量の合計は太陽質量の2倍、二つの星の公転周期は350年とすると、アルマ望遠鏡の観測とよく一致しました。

論文・研究メンバー

この研究は、M. Maercker et al. 著 “Unexpectedly large mass loss during the thermal pulse cycle of the red giant star R Sculptoris”として、科学雑誌ネイチャーに掲載されます。

今回の研究を行ったチームのメンバーは、以下の通りです。
M. Maercker (ESO; Argelander Institute for Astronomy, University of Bonn, Germany), S. Mohamed (South African Astronomical Observatory), W. H. T. Vlemmings (Onsala Space Observatory, Sweden), S. Ramstedt (Argelander Institute), M. A. T. Groenewegen (Royal Observatory of Belgium, Brussels, Belgium), E. Humphreys (ESO), F. Kerschbaum (Department of Astronomy, University of Vienna, Austria), M. Lindqvist (Onsala Space Observatory), H. Olofsson (Stockholm University, Sweden; Onsala Space Observatory), C. Paladini (Onsala Space Observatory; University of Vienna), M. Wittkowski (ESO), I. de Gregorio-Monsalvo (Joint ALMA Observatory, Chile) L. A. Nyman (Joint ALMA Observatory).

アルマ望遠鏡

アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。

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