アルマ望遠鏡 10年の成果

有機分子の写真Credit: ESO/Digitized Sky Survey 2/L. Calçada

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有機分子

私たちの体は、タンパク質でできています。そしてタンパク質は、アミノ酸でできています。では、アミノ酸は宇宙にどれほど存在するのでしょうか? 太陽系の外、星や惑星が生まれる場所にも、アミノ酸のような分子が浮かんでいるのでしょうか? 高い感度を持つアルマ望遠鏡は、生命の起源にも関連するさまざまな有機分子が特有の波長で放つ微弱な電波をとらえ、宇宙に浮かぶ雲の成分分析をすることが可能です。それは、「地球外に生命は存在するのか?」という人類の究極の疑問に挑むための、重要な手がかりを与えてくれます。

アルマ望遠鏡運用10周年 生命の「種」 有機分子の探究

Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF); NASA

土星の衛星タイタンに、膜を作る有機分子を発見

土星最大の衛星タイタンは、地球と同じく窒素を主成分とした大気を持ち、太古の地球に似た環境なのではないかと注目されています。アルマ望遠鏡は、このタイタンの大気に、アクリロニトリルという有機分子を発見しました。タイタンのようにメタンが豊富にある環境では、アクリロニトリル分子はきれいに整列して膜のような構造を作る可能性が指摘されています。外界と体内を隔てる膜は、生命にとっては欠かせない構造。タイタンを調べることは、生命誕生前の太古の地球で起きた、生命誕生と密接な関連を持つ化学反応を知ることにつながります。

観測成果:「原始地球大気を調べる手がかり:土星の衛星タイタンにアクリロニトリルを発見」

Credit: ESO/L. Calçada & NASA/JPL-Caltech/WISE Team

赤ちゃん星のまわりに糖類分子を発見

アルマ望遠鏡が科学観測を開始する前、試験観測の段階で得られたデータから、赤ちゃん星IRAS 16293-2422の回りにもっとも単純な糖類分子「グリコールアルデヒド」が発見されました。この星のまわりでは、将来的に惑星が 作られるかもしれません。この糖類分子は、惑星に取り込まれるのにちょうどよい場所に見つかったのです。赤ちゃん星の回りで糖類分子が発見されたのはこれが初めてのことで、しかも本観測開始前のデータからの発見であったことから、アルマ望遠鏡による「生命起源関連物質」探しには大きな期待が寄せられることになりました。

観測成果:『アルマ望遠鏡、赤ちゃん星のまわりに生命の構成要素を発見』

Credit: MPIfR/A. Weiß, University of Cologne/M. Koerber, MPIfR/A. Belloche

枝分かれした有機分子を星の誕生領域で発見

有機分子は、炭素原子が並んだ「背骨」に酸素原子や水素原子などがつながった構造をしています。地球に落下したいん石からはすでにアミノ酸が見つかっていますが、中には「背骨」が枝分かれした構造をもつものも見つかっています。アルマ望遠鏡は、こうした枝分かれ構造を持つ有機分子を、天の川銀河の中の星が活発に作られる場所で発見しました。電波強度から推定すると、枝分かれした炭素の背骨構造を持つ分子が豊富に存在していることもわかりました。これは、タンパク質のもとになるアミノ酸も宇宙で作られる可能性が高いことを示しています。

観測成果:『枝分かれした有機分子をアルマ望遠鏡が発見』

Credit: S. Lipinski/NASA & ESA, NAOJ, NRAO/AUI/NSF, B. McGuire et al.

日本開発の最高周波数受信機で、多数の有機分子を検出

アルマ望遠鏡には、参加各国が開発した電波受信機が搭載されています。最も高い周波数を観測する「バンド10」受信機を開発したのは、日本です。この受信機を使って活発に星が生まれる「猫の手星雲(NGC6334)」を観測し、有機分子を含む多種多様な分子が放つ電波を検出しました。欧州のハーシェル宇宙望遠鏡の観測結果と比較して、アルマ望遠鏡の検出数は10倍以上にもなります。この豊かなデータをもとに、星の誕生領域でどのような化学反応が進んでいるのか、どんな分子が作られるのかを明らかにするための研究が、今も進んでいます。

観測成果:『アルマ望遠鏡、最高周波数帯バンド10での初成果:巨大星誕生現場に見つかった糖類分子と宇宙噴水』

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al.

暖かい惑星誕生現場に、多数の有機分子を発見

オリオン座V883星は、時々急激に明るくなる若い星です。アルマ望遠鏡がこの星の周囲のガス円盤を観測したところ、メタノール、アセトアルデヒド、アセトンなどさまざまな種類の有機分子が発見されました。星が明るくなると、円盤内にあった氷が温められて解け、氷にわずかに含まれていたいろいろな分子が円盤内に出てきます。氷は惑星や彗星の材料のひとつですから、その成分を知ることは、この星のまわりで将来できるであろう惑星の成分を知ることにつながります。そこに有機分子がたくさん含まれていたということは、惑星に生命の材料がもたらされるかどうかを考えるうえで、重要な情報になります。

観測成果:『アルマ望遠鏡、急増光した若い星のまわりに多数の有機分子を発見』