2021.02.09
赤ちゃん星が成長する仕組み:ガス円盤から回転の勢いを抜き取るガス流
HH 212は、オリオン座の方角に地球から約1300光年の距離にあります。中心の原始星は非常に若く、年齢は約4万歳(太陽の年齢の約10万分の1)、質量は太陽の約1/4と考えられています。原始星はまわりのガスを重力で引き寄せ、このガスが原始星を取り巻く円盤を作っています。また、円盤の中心付近から強力なジェットを噴き出しています。
チンフェイ・リー氏らは、アルマ望遠鏡を使ってこの原始星周辺に広がる塵(ちり)、一酸化硫黄(SO)分子、一酸化ケイ素(SiO)分子が放つ電波の観測を行いました。HH 212の周囲でSO分子が放つ電波の観測は過去にも行われていましたが、その解像度は60天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、約1億5000万km)であり、円盤から噴き出す「円盤風」の存在を示唆するにとどまっていました。今回のアルマ望遠鏡による観測では解像度は約5倍向上し、さらに感度も向上したことで、円盤風の空間的な広がりを描き出すこと、そして細く絞られた強力なジェットとの衝突のようすをとらえることができました。
リー氏は、「アルマ望遠鏡の高い観測能力のおかげで、HH 212のまわりで以前から知られていた円盤風を詳しく観測し、この円盤風が円盤部分から磁力によって巻き上げられているものであることが確認できました。さらに、ジェットと円盤風が相互作用していることも初めて確認することができました。相互作用によって作られた薄い殻がはっきりと見えています。この殻は、円盤風の根元の部分から、ジェットが作り出す遠く離れた衝撃波とをつないでいます。」とコメントしています。
この観測結果と理論モデルの比較によって、以下の3点が明らかになりました。
(1) 観測された円盤風は、円盤の半径4天文単位から40天文単位の範囲から磁力によって巻き上げられる「磁気円盤風」で説明できること、そして円盤風が円盤の回転の勢いを抜き取っていること
(2) ジェットは、円盤の最内縁部の塵がない領域から放出されていて、その根元からガスが原始星に落下していくこと
(3) ジェットは円盤風と衝突して衝撃波を形成し、円盤風の中に空洞を作っていること。そして、その空洞の外側にSO分子の薄い殻を作っていること
今回の観測結果に理論的なモデルを提供した、オランダ・ライデン天文台のブノワ・タボネ氏は、「私たちの磁気円盤風モデルが、HH 212から噴き出すガスの形と動きとよく合致していることがわかって驚きました。私たちのモデルは、アルマ望遠鏡によるより低解像度の観測結果を再現するために作ったものですが、高解像度の新しい観測結果によって磁気円盤風モデルをよりしっかりと検証し、角運動量が円盤風によって持ち去られていることを示すことができます。」と語っています。
ジェットと円盤風の相互作用及び円盤風の根元の形状から、原始星周囲の円盤における磁場の強さと分布を知る手がかりが得られたことも今回の大きな成果といえます。パリ天文台のシルヴィ・カブリ氏は、「ジェットと円盤風の相互作用に関する観測と理論モデルは、原始星を取り巻く円盤の大局的な磁場構造についての知見を得る重要で新しい道を切り拓いてくれます。これは、惑星形成の最初期段階の研究にも基本的なインパクトをもたらします。」とコメントしています。
論文情報
この観測成果は、Lee et al. “First Detection of Interaction between a Magnetic Disk Wind and an Episodic Jet in a Protostellar System,” として、2021年2月2日付で米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。