三つ子星のまわりで見つかった、互い違いの原始惑星系円盤

カナダ・ビクトリア大学のジャーチン・ビー氏、工学院大学の武藤恭之氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡を使って若い3連星オリオン座GW星を観測し、その周囲に3連の塵のリングが存在していることを明らかにしました。もっとも外側のリングの半径はおよそ340天文単位であり、原始惑星系円盤の中で発見されたリングとしては観測史上最大のものです。また、それぞれのリングには巨大惑星の種になるのに十分な量の塵が含まれていることがわかりました。さらに、中心の3連星の軌道面と3本のリングは同一平面上に無く、特に最も内側のリングが大きく傾いていることが明らかになりました。3連星の重力だけでは傾いたリングを作ることはできないと研究チームは考えており、リングの間に惑星などの天体がすでに存在している可能性もあります。これまで数多くの太陽系外惑星が発見されていますが、3連星のまわりではひとつも発見されていません。オリオン座GW星を取り巻く塵のリングの性質や成因を探ることで、連星系のまわりでの惑星形成や、星から遠く離れた場所での惑星形成を理解する手がかりが得られると期待されます。

太陽は単独の星ですが、天の川銀河の星の過半数は2個以上の星が互いに回りあう「連星系」として生まれることが知られています。これまでに4000個以上が発見されている太陽系外惑星でも、2個の太陽を持つものはいくつも存在しますが、3連星の周囲を回る惑星は発見されていません。3連星のまわりでは惑星は作られにくいのでしょうか?惑星は、若い星のまわりを取り巻いていた塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)の中で作られます。つまり、連星系のまわりの原始惑星系円盤を調べることで、連星系周囲での惑星の形成について理解することができるはずです。

ビクトリア大学のジャーチン・ビー氏、ルオビン・ドン氏、工学院大学の武藤恭之氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、オリオン座GW星を観測しました。地球から約1300光年の場所にあるオリオン座GW星は、1天文単位(地球と太陽の間の平均距離に相当)の間隔で互いに回りあうA星とB星、そこから8天文単位離れた場所を回るC星からなります。これまでの観測で、これら3つの星を取り囲む大きな原始惑星系円盤があることが知られていました。研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってこの原始惑星系円盤の構造を調べることにしました。

観測の結果、オリオン座GW星を取り巻く原始惑星系円盤は3本のリングでできていることがわかりました。リングの半径は、内側から46天文単位、188天文単位、338天文単位でした。太陽系でもっとも外側の惑星である海王星の軌道半径が30天文単位であることと比べると、オリオン座GW星の原始惑星系円盤が星からいかに遠い場所にあるかがわかります。これまで数多くの原始惑星系円盤にリング構造が見つかってきましたが、オリオン座GW星のもっとも外側のリングは、これまで発見された中でももっとも巨大なリングとなりました。

 

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アルマ望遠鏡が観測した若い星オリオン座GW星のまわりの原始惑星系円盤。3本のリング状構造がはっきりと写し出されています。もっとも内側のリングはほぼ円形に見える一方、外側の2本のリングは縦に伸びた楕円に見えます。リングが実際は円形に近いと仮定すると、内側のリングはほぼ正面から、外側の2本のリングはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なることがわかります。この画像には写っていませんが、中心に若い3連星があります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

 
研究チームは、それぞれのリングの電波強度から、リングに含まれる塵の質量も導き出しました。その質量は、内側のリングから順にそれぞれ地球質量の75倍、170倍、245倍と見積もられています。「これは、巨大惑星の種をオリオン座 GW 星の周囲に作るのに十分な量であると考えられます。」と研究チームの武藤恭之氏は指摘します。

3本のリングをさらにくわしく分析したところ、中心の3連星の軌道面と比べてリングは3本とも大きく傾いていることも明らかになりました。特に、もっとも内側のリングは他の2本のリングとは大きく異なった傾きを持っていました。ビー氏は、「内側のリングがこれほど傾いていることがわかったときには非常におどろきましたが、アルマ望遠鏡で同時に観測した円盤内のガスのデータでも、円盤の内側がねじれていることが確認できました。」とコメントしています。

研究チームは、3連星が原始惑星系円盤にどのような重力的影響を与えるかを調べるために、シミュレーションを行いました。その結果、3連星の重力だけでは内側のリングの大きな傾きを再現することができませんでした。研究チームは、円盤内に惑星が存在する可能性を指摘しています。「惑星によって円盤にすき間が作られ、内側のリングと外側のリングが作られたのかもしれません。」と、ビクトリア大学のニンケ・ファン・デル・マレル 氏は考えています。

「連星の周囲で惑星形成がどのように起こるかという問題は永く議論されてきましたが、今回の観測によって、3連星というより複雑な系における惑星形成を観測に基づいて調べる道筋が切り拓かれました。今後、系外惑星の多様性の研究がますます進展していくでしょう。」と武藤氏は指摘しています。

ビー氏らのチームとは独立に、イギリス・エクセター大学のステファン・クラウス氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡と欧州南天天文台の光学赤外線望遠鏡VLTを使って同じくオリオン座GW星を観測しました。近赤外線観測では、最も内側のリングの影が外側に伸びていることが初めて見出されました。これは、内側のリングが大きく傾いていることを裏付ける結果といえます。また、クラウス氏らのチームもリングの形成に関するシミュレーション研究を行い、大きく傾いたリングが3連星の重力だけでも作られうるとしています。リングの成因について、ビー氏らとクラウス氏らは異なる説を提唱していることになりますが、まだ決着はついておらず、議論は続いています。いずれにしても、オリオン座GW星は連星のまわりの複雑な環境下における惑星形成を理解するための、重要なサンプルとなりました。

 

ALMA and SPHERE view of GW Orionis (superimposed)

アルマ望遠鏡とVLTで観測したオリオン座GW星のまわりの原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡が観測した塵の分布を青、VLTが観測した近赤外線をオレンジ色で示しています。中心から左下と上の方向に黒い筋がのびており、これが内側のリングの影であると考えられています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ESO/Exeter/Kraus et al.

 

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今回の研究で明らかになった、オリオン座GW星のまわりの原始惑星系円盤の構造。中心に3連星があり、そのまわりを3本のリング状に塵が分布しています。最も内側のリングは他のリングに比べて大きく傾いています。リングの間に分布する低密度の塵の分布を薄い色で示しています。
Credit: Kraus et al., 2020; NRAO/AUI/NSF

 
論文・研究チーム
この研究成果は、J. Bi et al. “GW Ori: Interactions between a Triple-star System and Its Circumtriple Disk in Action”として、天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2020年5月20日付で出版されました。なお、独立な研究成果はS. Kraus et al. “A triple star system with a misaligned and warped circumstellar disk shaped by disk tearing” として、科学誌「サイエンス」に2020年9月3日付で出版されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Jiaqing Bi(ビクトリア大学)、Nienke van der Marel(ビクトリア大学/カナダ国立研究機関)、 Ruobing Dong(ビクトリア大学)、武藤恭之(工学院大学)、Rebecca G. Martin(ネバダ大学)、Jeremy L. Smallwood(ネバダ大学)、橋本淳(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター)、Hauyu Baobab Liu(中央研究院天文及天文物理研究所)、 野村英子(国立天文台/東京工業大学)、長谷川靖紘(ジェット推進研究所)、高見道弘(中央研究院天文及天文物理研究所)、小西美穂子(大分大学)、百瀬宗武(茨城大学)、金川和弘(東京大学)、片岡章雅(国立天文台)、小野智弘(プリンストン大学/大阪大学)、Michael L. Sitko(シンシナティ大学/宇宙科学研究所[アメリカ])、高橋実道(国立天文台/工学院大学)、富田賢吾(大阪大学/東北大学)、塚越崇(国立天文台)

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 19K03932, 18H05441, 17H01103 16H05998, 18H05440)、国立天文台ALMA共同科学研究事業(No. 2016-02A, 2017-05A)、カナダ自然科学・工学研究会議Discovery Grant、アメリカ航空宇宙局(NNX17AB96G)、台湾MoST(108-2112-M-001-002-MY3)の支援を受けて行われました。

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