今回はアルマ山麓施設(OSF)の夜景をお届けします。南半球の夜空で有名なのは、何と言っても南十字星と大小マゼラン星雲です。写真1の天の川の真ん中付近に横向きになった南十字星があり、その下の黒く抜けているように見えるのがコールサック(石炭袋)と呼ばれる暗黒星雲です。写真中央の鉄塔の頂上には、アンテナの鏡面誤差を電波ホログラフィーという方法で測定するための送信機が設置されています。鉄塔のすぐ左側斜め上に大マゼラン星雲、鉄塔半ば左側に小マゼラン星雲が見えます。どちらも星と違ってボヤーッとしているので、頭を左右に振ると見つけやすくなります。マゼラン星雲は肉眼で見える、我々の銀河にもっとも近い銀河です。中央下端で明るく輝いているのは、測定中の日本のアンテナ群です。
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写真1:アルマ山麓施設(OSF)で見る天の川と大小マゼラン星雲。 |
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」では、南十字星は銀河鉄道の終点で、天上への入り口とされています。「見えない天の川のずうっと川下に青や橙や、もうあらゆる光でちりばめられた十字架が、まるで一本の木というふうに川の中から立ってかがやき、その上には青白い雲がまるい環になって後光のようにかかっているのでした」という表現どおり、美しい星たちの集まりです。南十字星のすぐ横には、カムパネルラが「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ」と言って指さしたのがコールサックです。南十字星を見上げる時、「けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう」というジョバンニの言葉が頭をかすめます。
ノーベル文学賞受賞詩人でチリの国民的英雄であるパブロ・ネルーダ(1904~1973)が作った「百の愛のソネット」の86番目にも、「おお 南十字星よ 香りたかい燐のクローバよ」(大島博光訳)という書き出しで南十字星が登場します。
南十字星(英語ではSouthern Cross、スペイン語ではCruz del Sur)は「みなみじゅうじ座」の中にあり、α、β、γ、δの4つの星で構成されています。星が4つあれば、なんでも十字にみえるので、慣れない人にとっては南十字星をみつけるのは結構難しく、「さんざん苦労す」と言いたくなります。近くに良く似た「にせ十字」があり、南十字星と間違えやすいからです。写真2は、夜間に試験観測を行っている日本の12mアンテナ達です。いちばん手前の12mアンテナの主鏡中央右側に南十字星が見えます。南十字β星(真下の星)の下方には明るいケンタウルス座のβ星とα星があり、それらがほぼ一直線にならぶので、南十字星を見つける手助けとなります。
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写真2:試験観測中の日本の12mアンテナと南十字星(手前のアンテナ主鏡すぐ右側)。 |
日本の夏季になると、南半球では銀河系の中心方向が良く見えるようになります(写真3)。インカ文明の人々は、暗黒星雲に川の水を飲みに来る動物の姿を想像し、リャマ(両目がケンタウルス座α星およびβ星)、狐、蛇などの動物の名前をつけました。ちなみにコールサックはうずらと呼ばれています。これらの事実は、当時の人々が、天の川に浮かぶ暗黒星雲を単に星のない暗い空ではなく、実体がある存在として認識していたことを示しています。また、インカ帝国の象徴であるChakanaマークは階段状の十字形をしており、南十字星を模したものであると考えられています。
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写真3:天の川に横たわる暗黒星雲
(右端にあるのが南十字星とコールサック、2008年7月23日撮影) |