今回はアルマ山麓施設から見る雲たちの表情をお伝えします。雲は天文観測の邪魔になりますが、毎日雲一つない澄んだ青空を見ていると、時には雲が恋しくなります。時々現れる珍しい雲は、仕事を離れれば大きな楽しみで、疲れた心を癒してくれます。
アタカマ高原は世界で最も乾燥した地域のひとつです。西側(太平洋側)では南極から北上するフンボルト寒流が空気を乾燥させ、また東側に位置する標高6000m級のアンデス山脈がボリビアやアルゼンチン側の湿った空気を雪として落としてしまうため、両者に挟まれたアタカマ砂漠一帯は極端に乾燥しています。アルマで観測するミリ波・サブミリ波の電波は大気中の水蒸気によって吸収されてしまうので、望遠鏡を設置するサイトとしては、年間にわたって乾燥した土地が必要となります。また沢山のアンテナを広範囲に設置するため、10km以上にわたって平坦な土地が要求されます。アタカマ高原にある標高5000m の候補地を長年にわたって詳しく調査した結果、この一帯が上記の条件を満たす世界的にも稀有な場所であると判断され、アルマの設置サイトとして選定されました。
この付近は、いつもは西風が支配的ですが、時々東のボリビア側から湿った空気が運ばれ、それらが雲を発生させる原因となります。山麓施設上空には、写真1のような真綿をちぎって敷き詰めたようなひつじ雲(高積雲)や空いっぱいに拡がる巻雲など、スケールの大きな雲が現れることがあります。これらの雲は、午後からさらに厚くなり、日没時には燃えるような夕焼け雲となります(写真2)。アタカマの大平原を覆うとても雄大な夕焼け雲は、短時間にその形と色がダイナミックに変化し、あっという間に消えてしまいます。その刹那的な風景は、例えようもないほどの美しさです。
チリとボリビアとの国境に、リカンカブール山(5916m)という富士山のような姿の山があります。ある朝、このリカンカブール山が写真3のようなレンズ雲の帽子をかぶっていました。いわゆるレンズ雲としては完全さに欠けま
すが、レンズ雲と言っていいと思います。じっと見ていると、レンズの右側(風下の方向)がお餅を伸ばしてちぎれるように変化するのが面白いです。レンズ雲は強風の前兆と言われていますが、この日は予測どおり午後には塵の嵐が吹き荒れました。
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写真3: リカンカブール山(5916m)にかかるレンズ雲 |
乾燥したアタカマ砂漠といえども、夏季にはときどき強雨や雷雨に見舞われることがあります。1月~2月はボリビアン・ウィンターと呼ばれ、東(つまりボリビア方面)からの湿った空気が入り込むため、不安定な天気となりやすく、ときには雪が降ります。「空が黒くなるほど青い」アタカマ砂漠の空はどこかへ消えてしまい、リカンカブール山も雪景色となります。真夏なのにウィンターというのはこのためです。今年の夏は、夕方になると雷を伴う強雨に見舞われることが多く、普段はカラカラに乾いているサンペドロ・デ・アタカマの町も泥んこ状態となり、歩くのが大変でした。