アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

「アルマ・いざよい」は、
新技術の塊です。

稲谷 順司 INATANI Junji
国立天文台教授。チリ観測所 ALMAアンテナチームリーダー。

Q1 アルマの仕事について教えてください。

私は、アルマの技術仕様に基づいて国立天文台が製作を引き受けているアンテナを、日本の製作メーカーである三菱電機さんといっしょに仕上げて、合同アルマ観測所に引き渡す仕事をしています。アンテナ作りは、アルマのルーツのひとつである野辺山の45m電波望遠鏡やミリ波干渉計の経験を活かしてということになりますが、今回は、求められるアンテナの精度がたいへん高いので、試行錯誤の連続ですね。たとえば、野辺山はミリ波がターゲットだったので、鏡面は100ミクロンの精度であればよかったものが、アルマではその5分の1の20ミクロン!ふつうの紙の厚さや髪の毛が100ミクロンですから、そのデリケートさがわかると思います。もっとも短い観測波長のバンド10は、300ミクロンほどの波だから、それくらいの精度がないといけない。電波の強さを測るだけなら、もっと粗くてもいいのですが、干渉計だから波として測らないといけない。そして、それを16台も作らないといけない。神経を使います。日本、欧州、北米のそれぞれが独自の技術で高精度のアンテナ製作に力を注いでいるわけですが、どこも過去20年くらい悪戦苦闘しながら生み出してきた技術の総決算として開発を進めている状況ですね。

Q2 アルマで苦労したことを教えてください。

うーん、すべてかな(笑)。開発のポイントを大きく分けると、まず先に述べた鏡面精度の追求、さらにポインティング精度の追求。そしてそのふたつの精度をAOSの過酷な温度変化や強風の影響を抑えて、いかに実現するのか、これらの問題を限られた開発費と期間で16台も作らないといけない。鏡面はアルミパネルの並べ合わせなので、1枚1枚その所定位置での放物面に合わせて作るのですが、パラボラ全体の精度を平均20ミクロン内に収めようとすると、パネル1枚1枚の精度は5ミクロン内が必要。NC(数値制御による機械加工)で時間をかければ作れますが、納期も短いので、高速で高精度のものを大量に、を可能とする製法を開発しないといけない。

つぎに、主鏡の骨組みの変形の制御ですが、要求仕様は、+20℃〜-20℃の間すべてで20ミクロン内。風については、秒速9mでも20ミクロン内...。温度変化に偏りが生まれれば、すぐに超えてしまいますから、とにかく全体として一様に温度が変化するようにして、放物面を維持する工夫が必要。ということで、12m鏡は、膨張係数が鉄とくらべてケタ違いに小さい炭素繊維強化プラスティック(CFRP)を使っています。で、これは定石通りなんですが、じつは12台作る7mの主鏡の骨組みは鉄なんですね。なぜか?まずはお財布の事情がありますが(笑)、むしろそれを逆手にとって、骨組みをすべて鉄パイプにして、その中に風を通して温度変形を抑えるという新技術を開発しました。常に温度が一定になるように徹底的に計算ずくで設計し、ファンで送風することで、全体の温度を0.5度以内に収めて鏡面精度を維持しています。これは、もうひとつ大きな理由があって、通常重い素材で骨組みを作るのはマイナスなのですが、アルマの受信機器は12mアンテナに装着されるように共通化されていて重い。つまり、7mを重い鉄で作って、ちょうどバランスがとれるわけです。この方法は、設計段階からデータが出るまでとてもエキサイティングな開発でしたね。

ポインティング精度については、やはり、+20℃〜-20℃の間で絶対値として2秒角という高い精度要求があります。架台部の本体は鉄で、日が当たるだけで失格なので、徹底的な断熱構造を施し、さらに熱変形を測定して補正する独自の能動制御システムを組み込んであります。なにしろアタカマの日差しは半端でない(笑)。また駆動には、リニアモーターによるダイレクトドライブを用いて、高速かつ滑らかなポインティングと追尾を可能としています。

Q3 アルマの今後に期待することを教えてください。

遅れをとっていた日本のアンテナが続々と仕上がって、今や欧米勢を凌ぎつつあります。新技術の塊である「アルマ・いざよい」が、バリバリ成果を挙げてくれることが、何よりの楽しみですね。

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