アルマ相関器を
仕上げるための交通整理。
- 澤田 剛士 SAWADA Tsuyoshi
- 国立天文台チリ観測所助教。合同アルマ観測所(JAO) コミッショニング・サイエンティスト。
Q1 アルマの仕事について教えてください。
CSVというチームで働いています。"Commissioning and Science Verification(科学的評価試験)"ですね。アンテナとか受信機とか相関器とか、そういったものを組み合わせてちゃんと天文学に使えるレベルの性能が出ることを確認する仕事です。機能・性能の確認やバグ出しをして、実際にサイエンスに使える品質のデータが取れることを確かめるということです。その中で、いま私は相関器グループのまとめをやっています。相関器は、それぞれのアンテナに搭載された受信機で受けた電波を集めて「相関処理」ということをする、いわば干渉計の焦点にあたる機械なんですけれども、その機能を確認したり、バグが見つかったらそれを担当者に「直してください」とお願いしたりする仕事です。
CSVチームは、全員月に1回 8日間山麓施設(OSF) に行って実際に測定をするのですが、「この機能を確認したいからこういう測定をしよう」と決めるところから始まって、実際にOSFに行って一通り測定プログラムを流して、出てきたデータを解析し、最終的に結果をレポートにまとめることになります。その過程でなにか問題が見つかったら、それを担当者に報告して、調査と対応をお願いします。今は、1日16時間が試験観測の時間で残りがエンジニアリングの時間ということになっていて、その中で、この機能の試験をするためにこの観測をやろうという優先度リストのようなものを順番にこなしている感じです。相関器は、最終的にはアンテナ64台分の信号を処理できるようになるのですが、2011年現在は山頂施設にあるアンテナ17台-18台が接続されています。「サイクル 0」のEarly Science(初期科学運用)ができないような大きなバグは、たぶんもう無いところまできました。「サイクル 1(サイクル0の次の観測期間、科学運用)」はソフトのバージョンがまたちょっと上がって、できることが増えます。それを試験して、どの機能をサイクル 1に提供できるかというのを調べる作業が、またすぐ始まります。
建設途中の望遠鏡ですから、できることがどんどん増えていきます。相関器もそうで、ソフトのバージョンが上がると新しい機能が追加されたりします。そういう意味ではずっと試験を続けている感じですね。
Q2 アルマで苦労したことを教えてください。
個人的なことでいうとやっぱり、英語があまり得意じゃないので、それが大変ですね。こちらに来て3年になるんですけれども、なかなか喋れるようにならなくて。ちょっと込み入った話になると全部は聞き取れないのが困りものです。
相関器のまとめ役のようなことをしていますけど、そんなにエキスパートというわけでもないので、詳しくないなりに何とかしないといけない。基本的には、交通整理みたいな感じですかね。ハードやソフト本体が問題になると私たちは手が出せないので、担当者になるべく早くお願いしますと依頼するわけですが、向こうも仕事をたくさんかかえていて、なかなか直してくれないといったことは結構あります。全体スケジュールに関わるような大きなことは「優先順位を上げて早くやってください」と強くお願いします。ずっと問題だったことの原因が分かってそれが解決すると、やれやれというか、ほっとしますね。
私はもともと野辺山に居て45m電波望遠鏡の仕事をしていたので、干渉計については日々勉強です。やはり単一鏡と比べると、干渉計はいろいろとややこしいですね。アルマの場合だと、さらに高い精度を出すために、普通の干渉計よりもいろいろ高度なことをやっていて...。だからギャップが大きくて大変です。
Q3 アルマの今後に期待することを教えてください。
私が3年前にチリに来た当時は「ほんとにできるのかな」とちょっと思っていたので(笑)、ここまでできあがってくると、感慨深いといえば感慨深いですね。これから「サイクル 0」があって「サイクル 1」があって、まあ、これで「完成」というところまでは面倒を見たいと思っています。システムを分かれば分かっているほど、トラブルが起きたときに「これは何処の不具合だ」って言うのがすぐ分かるので、そうなりたいとは思っていますけれども、なかなかアルマのような巨大なシステムだと手ごわいですね。野辺山での仕事は、まあ45mの"お守り"をしているような感覚だったんですけど、アルマは、まだそこまで全然面倒見切れていませんね(笑)。