アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

宿題をがんばるのは、
やりたい観測があるから。

中西 康一郎 NAKANISHI Kouichiro
国立天文台チリ観測所助教。合同アルマ観測所(JAO) CSV サイエンティスト。

Q1 アルマの仕事について教えてください。

今は、CSVグループの一員です。2011年7月までは、国立天文台のスタッフとして12mと7mのアンテナが仕様を満たしているかを試験し、合同アルマ観測所に渡す方の仕事をしていましたが、2011年の8月1日からチリに移って、今度は合同アルマ観測所の職員として、納められたアンテナを受け取って、干渉計として運用していく側の立場になりました。さまざまな干渉計の基本性能を確かめる仕事、たとえば、アンテナを干渉計に組み込むときに、正しい方向を向いているか、信号が正確に来ているか、干渉計の一部としてちゃんとフリンジ(干渉縞)が出ているか、などなど、干渉計のシステム全体に目を配りながら、最適な調整や運用方法を追求し、必要に応じて装置の調整にまで踏み込んだ仕事をしています。

ALMAはこれまでに携わった電波望遠鏡、野辺山ミリ波干渉計やアステ望遠鏡と比べると桁違いに大きなシステムです。知っておかなければならないことがとても多い上に、日々新しい情報が加わります。CSVグループに加わったのが遅かったのでまだ勉強中ですし、他のメンバーに助けてもらう場面も多々あります。これまでACAアンテナに関わってきた経験がありますから、今もACAに関連した試験や解析を行う機会が多いですね。異動する前に行っていたアンテナの試験は内容も期間もごく限られていました。アンテナが山頂施設に設置されてからが本当にその性能が試されるときです。以前はそれがやや他人事のように感じられることもあったのですが、立場が変わったおかげでブーメランが戻ってきたかのように再び私の課題となっています。これが大きな仕事ですが、新しい課題にもチャレンジしていきたいですね。

Q2 アルマで苦労したことを教えてください。

実際、たいへんなときって本当にたいへんなんですよ(笑)。時間足りなくて寝ていられなくなりますね。たとえば、科学観測が始まるので、いついつまでにアンテナが何台納められてなきゃいけない、そのためには審査会をこの日までにやらないといけない、それにはこの日までにデータを取ってレポートを書かなきゃいけない、そのためには...そのためには...、っていうことになるんですね。本当に宿題に追われている夏休みの子どもと同じ気分です。

そして、もちろん予定通りにコトは運ばなくて、いろいろと問題が出てくるんですね。アンテナが思い通りに動いてくれなくて、「うーん、それ、どうしてなんだろう」って考え、実験するんです。条件を変えてデータを取り直してみるとか、気象データやアンテナの振る舞いのデータなどをもう一回掘り出してきて「あ、やっぱり、ここが間違ってた」って。ようやくクリアしたときは、爽快感というよりは「ほっ」。やっぱり、宿題なんですよね。「やった」というよりは「これでやっとアンテナを納められる」。

Q3 アルマの今後に期待することを教えてください。

アルマは共同利用観測を前提とした世界中の研究者から使われる装置です。そこで「こんなすごいことができます」「何分間観測すればこういう宇宙の果ての天体からの信号が受かります」って華々しく予告をしてしまっている(笑)。だから、装置を提供する側は、それを実現しないといけません。プレッシャーにはなるわけですが、それは、自分の研究のためにもそうあって欲しい部分なので、目指すところは一致します。あとは、頑張って宿題をこなしていくわけですね。

私は、今まで系外銀河の研究をやってきました。興味があるのは活動的な銀河ですね。銀河の活動性を大きく分けると二つあって、一つがスターバースト、爆発的な星形成。もう一つが活動銀河核AGNです。おもにスターバースト銀河の研究をしてきましたが、両者は排他的でなくて、両方が共存している銀河もあるんです。むしろ、爆発的星形成のある銀河には、必然的に活動銀河核があるケースも多々あって、それらの間には深い関係があるらしいと考えられつつあります。宿題を提出し終わったら、ぜひアルマで、その謎解きに挑戦したいですね。装置をよくしていくことは、最終的にやりたい観測があるからなのですから、その下準備の宿題レベルのところで留まっているわけにはいかないのです。

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