アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

アルマのシステムを
全部理解するまで帰れません。

浅山 信一郎 ASAYAMA Shin'ichiro
国立天文台チリ観測所助教。合同アルマ観測所(JAO) アルマ・シニア・RF・エンジニア。

Q1 アルマの仕事について教えてください。

赴任時から2年間は天文学者の立場で、天体観測によるアンテナの立ち上げ調整試験を行ってきました。現在はエンジニアの部署に移り、天体観測所の安定運用に向けた取り組み等が主な仕事ですが、今でもアンテナ立ち上げ調整試験には関わっています。具体的にはアンテナの鏡面パネルの精度の追い込みから、駆動試験、受信機を載せ信号を受けて実際に電波望遠鏡として動くところまで仕上げていきます。そして最後に結果をまとめ、「アンテナを山頂に上げていいか」のレビューを行うまでが一つの流れです。日本では受信機の開発を行っていましたが、こちらに来てシステム全体を見るようになって、日々新しい発見があり、努力の毎日です。その分、充実感もありますし、まだまだ満足し足りないくらいです。今は8日間山麓施設(OSF)に滞在して業務を行い、6日間サンティアゴに帰って休むというシフトで働いています。人によっては体力的に厳しいようですが、私はできる限り、ここで何が起きているかを常に知っておきたいという気持ちが強いので苦になりません。目標としてはアルマのシステムを全部理解するまではちょっと帰る気がないです。それくらい、ここOSFは魅力的で刺激的なところです。

Q2 アルマで苦労したことを教えてください。

恥ずかしながら一番の苦労は英語でした。最初の頃は議論についていけず、思ったことをリアルタイムに提案できずにずいぶん悔しい思いをしました。日本にいたときのように、メールを受け取って考えて送り返すのとは、まさに雲泥の差でしたね。このままではいけないと、分からないことは聞き返し、伝えたいことや提案は相手が理解してくれるまで粘り強く話し続けるように心がけました。不完全な英語でも後は勢いで。向こうも困っている訳ですから、窮すれば通ずなんですね。時間はかかりましたが、着実に問題解決等に貢献することで信頼が生まれてくると、みんな話を聞いてくれるようになりました。こちらの公用語のスペイン語は今のところ全然ダメです。休暇中にレストランで、「ビール一つ...おまけに一つ」ぐらい(笑)。OSFに8日間ずっといるので、英語で済んでしまうところもあります。休みも6日間まとまっているので、その間にイースター島やパタゴニアに行ったりして、こちらの自然や歴史に触れています。食事が合わない人もいるようですが、私は問題ないです。うどんや蕎麦などの日本食材も手に入りますよ。

Q3 アルマの今後に期待することを教えてください。

今までは初期運用に向けてがむしゃらに走ってきました。新しい部署では、本運用に向けて運用の枠組みを確立することに現在取り組んでいます。例えばアンテナが66台あるわけですが、年1回として月5台のレベルでメンテナンスが入るんです。1つのアンテナを保守するのとはまったく違ったコンセプトでやらないといけない。またもうアルマの性能を100%引き出すことも、非常にチャレンジングではありますが達成しなければらない目標です。これらは、もう新しい研究テーマそのものです。そしてアルマには将来的な「アップデート・プラン」もあります。もし私がシステムを全部理解できていれば、そのプランに意見やアイデアを織り込めるかもしれないと思っています。国際プロジェクトの中にいて常々感じることですが、米欧勢は実にシビアです。つねに向上して変わろうとする。私はサイエンティストから初めて、今はエンジニアに移りましたが、次にマネジメントに移るのか、それとももっと奥深くエンジニアの道を進むのかは今のところ分かりません。今は目先のことで精一杯ですね。少なくとも、このアルマのすべての分野である程度のレベルまで理解ができるようになれば、きっと次が見えてくると思っています。若い人にもどんどんアルマに来ていただき、このホットな現場で何かを得て欲しいと思います。エンジニアとして立ち上げを行いながら常々思っていますが、アルマは本当にすごい性能を持っています。アルマの性能が100%引き出されたとき、どんな素晴らしい結果を天文学者の皆さんが引き出してくれるか本当に楽しみです。

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