アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

細かく見つつ全体を俯瞰、
単一鏡もアルマの魅力。

小麥 真也 KOMUGI Shinya
国立天文台チリ観測所助教。合同アルマ観測所(JAO) CSV サイエンティスト。

Q1 アルマの仕事について教えてください。

CSVチームに所属しています。アルマは干渉計ですが、個々のアンテナがそれぞれ一つの望遠鏡として観測する機能もあります。広がった観測対象は干渉計では見えにくくなってしまうのですが、アンテナを単一の望遠鏡として使うことで広がった天体の情報を補ってあげることができます。アルマに観測提案する際に、この「単一鏡」からのデータを必要とするか、選ぶ事ができるようなっています。私は、単一鏡観測モードの立ち上げの仕事をしています。12mアンテナを単一鏡として実際に天体の観測をして、データが仕様を満たしているか、質の良いデータを得るにはどうしたらいいかを調べています。単一鏡独特の観測方法などの開発もしています。

単一鏡は干渉計に比べて大気の影響を受けやすいという特徴があります。大気は天体よりも我々にずっと近い分、広がって見えます。干渉計では広がったものは見えにくくなるから大気が無視できていいのですが、そもそも広がったものを見るための単一鏡モードは大気と天体の区別がつきにくいのです。それが理由で実はアルマの単一鏡観測の仕様は、干渉計としての仕様よりも厳しいものもあります。天体と大気の混ざった場所と、その隣の大気だけの場所を切り替えながら観測することで天体から来た電波を切り出しますが、切り替えの頻度や距離を最適化する作業が大切です。バグ取りや最適化はまだまだ終わっていませんが、すでに世界のどのサブミリ波単一鏡よりも質のいい絵が出ています。

Q2 アルマで苦労したことを教えてください。

ここ(OSF:山麓施設)に来て仕事をするのは月に1回です。普段はサンティアゴのオフィスでデータ解析や研究をしています。アルマでの仕事は日本に比べてやりやすい部分とそうでない部分がありますね。大規模な国際プロジェクトなので、コミュニケーションが大切です。それぞれのお国柄で仕事に対する考え方が違うので、日本のように何も言わなくても仕事が進んでいく、というふうにはなりません。「協力して一緒にやろう」という雰囲気にすればみんなで仕事ができて捗りますが、何も言わないと何も起きません(笑)。仕事を進めるために人の尻を叩くことも必要ですが、逆に叩かれることも多いです。いい部分は、休みがしっかりとれることですね。OSFで仕事をした後には6日間休むんですが、そういうまとまった休みを毎月とれるのは日本ではあり得ないでしょうね。

生活面は、けっこう大変です。まずはOSFの食事ですね。食堂のごはんが美味くないですね...え、うまいって言ってたって?それ誰ですか?(笑)

Q3 アルマの今後に期待することを教えてください。

星を作るガスの性質を研究しています。アルマの強みは感度と分解能、そして同時にさまざまな原子や分子からの電波を分光する力にあります。このおかげで、星をつくるガスの状態をいっぺんに細かく知ることができます。すると、銀河の中で、ガスがどういう温度、密度、組成だと何年経ったら星がいくつできるか、といったことがわかってきます。

銀河内の場所によってガスの性質や星に違いがありますが、星がうまれる過程は基本的には同じはずです。私たちは、星の作り方をまだよく知らないので、まずは、その違いをよく見比べることが大切です。たとえば、私たちの銀河系の近くにある渦巻銀河のM33は、渦巻きの面がちょうど私たちの方に真正面に向いていて、渦巻のようすがよく見えます。これを観測すれば、銀河全体の構造の中でどういうところで星が作られているかがわかり、そこにクローズアップしたときにガスがどんな状態になっているかを調べられます。つまり、俯瞰しながら要所を細かく見ていくこともできるわけです。これまでの電波観測では干渉計だけだと細かいものしか見えない、単一鏡だけだと広がったものしか見えないという問題がありました。つまり、同時に全体を見て、かつ細かく見るということは基本的には両立しなかったんですが、アルマならこれができます。そういう意味では、装置がやっと追いついてきて、一気に新しい研究分野が花開くのではないかと大いに期待しています。

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