アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

アルマ望遠鏡が拓く
新しい宇宙像。

平松 正顕 HIRAMATSU Masaaki
国立天文台チリ観測所助教。教育広報主任。

見えてくるもの

アルマ望遠鏡は、世界の同種の望遠鏡に比べて感度も解像度も100倍という高い性能を誇ります。アタカマという素晴らしい建設地と様々な技術革新によってもたらされたこの性能をもってすれば、宇宙にある多様な天体を観測対象にできます。身近なところでは太陽や惑星、その衛星など太陽系の星たちもターゲットですし、130億光年かなたの生まれたての銀河もターゲットです。惑星や恒星の起源、銀河の誕生、宇宙の中での化学物質の進化など、アルマ望遠鏡での観測は私たちのルーツを宇宙に探る旅でもあるのです。

銀河の誕生と進化の謎に迫る

私たちを照らす太陽は、1000億の星とともに「天の川銀河」を構成しています。宇宙にはこのような銀河がさらに1000億個ほどもあるといわれていますが、銀河がいつごろどのように生まれたのかははっきりわかっていません。137億年前のビッグバンのあと、どのようにガスが集まって銀河や最初の星々が生まれたのか、原始銀河の中でどんなペースで星ができて銀河が成長していくのか、あるいは銀河どうしの衝突はその進化にどんな役割を果たすのか。星や銀河のもとになるガスが放つ電波をキャッチすることで、アルマ望遠鏡はその謎に迫ります。

太陽系や惑星の誕生の謎に迫る

私たちの住む太陽系には8つの個性豊かな惑星が存在しています。また夜空に見える星のまわりにも、1995年の最初の発見以来すでに800個近い多様な惑星が見つかっています(2012年12月現在)。惑星たちはどのようにして作られ、その多様性の原因は何なのでしょう?一般に星や惑星は非常に冷たい(-260℃程度)ガスや塵の雲から生まれてきます。このような低温の物質は光を出さないために、すばる望遠鏡などの可視光・赤外線望遠鏡では観測することができません。一方でそんな低温の物質からも電波は出てくるので、アルマ望遠鏡はこの電波を抜群の感度と解像度で観測し、惑星誕生の現場をまさに「目撃」できると考えられています。第二の地球はどのようなところで生まれるのかという謎にも、答が見つかるかもしれません。

宇宙に浮かぶ生命の材料物質に迫る

私たち生命の誕生は、単に地球上だけで起きた化学反応の結果なのでしょうか。太陽系誕生の際に生命の種を持っていたのでしょうか。もしかすると、生命の素は宇宙空間に漂っていたのかもしれません。生命の誕生にはさまざまな説がありますが、アルマ望遠鏡では、その有力な証拠をつかむことも目的としています。特に期待されているのは、私たちの身体を作るたんぱく質のもとになるアミノ酸の発見です。すでに太陽系内をめぐる彗星や地球に落下した隕石の中にアミノ酸が発見されていますが、高い感度を持つアルマ望遠鏡なら、太陽系外に浮かぶアミノ酸が放つ微弱な電波も捉えられると期待されています。たとえば惑星が作られている領域にアミノ酸が豊富にあれば、のちの生命の種になるかもしれません。天文学と生物学をつなぐ大きな役割が、アルマ望遠鏡に託されているのです。

今後のアルマ望遠鏡のタイムライン

2011年に始まった初期科学観測「サイクル0」は順調に進んでいます。データは順次研究者に配布されており、既にこのデータを元にした研究成果も出始めています。2013年1月からは、12mアンテナ32台と日本が製造を分担したアタカマ・コンパクトアレイ(ACA)の一部(7mアンテナ9台と12mアンテナ2台、ACA相関器)を使った次の観測シーズン「サイクル1」が開始されます。サイクル1に向けた観測提案の募集では、サイクル0よりも200件ほど多い1100件以上の提案が提出され、世界の天文学者の高い期待がうかがえます。アンテナ全66台がそろうのは2013年の予定です。またアルマ望遠鏡の性能をさらに高めるための新たな技術開発も検討されており、観測周波数帯を拡大する新受信機や観測精度向上のための新手法の開発などが挙げられています。アルマ望遠鏡は少なくとも30年間運用を行いますが、その間の天文学の進歩に合わせて性能を向上させていくことによって常に素晴らしい成果を出し続けることを目指します。30年後に人類が抱く宇宙観にアルマ望遠鏡の成果が大きく寄与することは間違いないでしょう。それこそが、アルマ望遠鏡の使命でもあるのです。

ハッブル宇宙望遠鏡が可視光でとらえたフォーマルハウトの周囲の塵の環(青)に、アルマ望遠鏡が電波でとらえた画像(オレンジ)を重ねた画像。アルマ望遠鏡の観測データから、この塵の環の内側と外側の縁が非常にはっきりしていることがわかりました。コンピュータシミュレーションとの比較により、この環の内側と外側にそれぞれ惑星が回っていればこのような環の構造を作れることがわかりました。惑星の重力が環を構成する塵の粒子の軌道に影響を与え、その環の形を整えているのです。その惑星の質量は、火星の質量よりも大きく地球の質量の3倍よりも小さいと見積もられています。なおアルマ望遠鏡の観測結果が右上に偏っているのは、アルマ望遠鏡がこの円盤の上半分しか観測していないためです。

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