アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

システム・エンジニアは、
バランス感覚が大事。

杉本 正宏 SUGIMOTO Masahiro
国立天文台チリ観測所助教。合同アルマ観測所(JAO) システム・エンジニア。

Q1 アルマの仕事について教えてください。

私はシステム・エンジニア(SE)という仕事をしています。SEというと、日本ではコンピュータの仕事のイメージがあるんですが、アルマは非常に複雑で大きなシステムで、しかも世界中で開発している部品を組み合わせて初めて完成していきます。いろんな条件が性能に影響してくるので、評価してそこで見つかった不具合を出して、システムとして問題点があればそれを改良するよう提案、調整をする、という仕事です。システムとして、さまざまなコンポーネント(構成要素)があって、個々のアンテナや受信機にはそれぞれこういう性能を満たしなさい、という仕様があるのですが、さらにその上に全体の仕様というものがあって、ちゃんとシステムとして成り立ってますか、という検証も行ったりします。

これだけ大きな望遠鏡を作るとなると、どうしても、みんな自分の分担しか考えなくなりがちです。それを、より全体の立場から見て最適化する役割です。例えば、こういう性能とこういう性能、それが組み合わさってトータルの性能が出る、といったときに、システム全体の最適化の視点から、こっちをちょっと頑張ってこっちをちょっとリラックスしてみましょう、といったような調整をするわけです。これは、ハードの性能や技術的なことだけじゃなくて、予算や人といったマネジメント的な要素も多分に含まれてきます。とはいえ、これはケースバイケースのことが多く、微妙な匙加減が要求されることもしばしばなので、バランス感覚が問われます。

また、システム・エンジニアは、アルマ全体を見なければいけないので、例えば建物の空調だとか、電力設備に関する仕事も守備範囲です。理想としては全部を見るということなので、もうありとあらゆることを。逆に言うと細かいことはあまり気にせずに、全体をもう少しレベルの高いところで管理をしなさいというふうな仕事の仕方をしなきゃいけないんです。心がけていることは、とにかくバランスを見るということです。ただ何がバランスかっていうのは経験も必要なことだと思うので、苦労しています。

Q2 アルマで苦労したことを教えてください。

前は三鷹で開発をやっていたのですが、日本は予算を取るのが遅れて、開発もそれにあわせて遅れをとりました。米欧のほかのグループはジャンジャン進んでいたので、例えば後から「くっつけるところを作ってください」と穴ひとつ開けてもらうのにも物凄い苦労がありました。「いや、もう作っているからそんな変更はできない」とか言われて。一方で彼らが先に進んでいた分、いい性能のものを作っているというので、それに追いつこうというプレッシャーがあったからこそ、日本もいい受信機やアンテナができたのかなと。そういうところは、かえって良かったことなのかなと思っています。

もうひとつ、受信機室の温度を一定にするという、非常に大雑把な仕様があって、ずっと棚晒しにされてきたのです。でも受信機などを作っている人にとっては「当然受信機室の温度はどこでも一定ですよね」と。しかし、それを容れるとコストが膨大なものになる。そこで仕様を鵜呑みにするよりは、まず「本当にその温度の安定性は必要なんですか?」というところから入ったんです。全体としてシステムの安定性がキープできればいいでしょ、と。そして、実質的な評価をして、無駄な改良をしないようにしました。アルマのような巨大システムだからこそ、SEとして味わえることも多くて、とても勉強になります。

Q3 アルマの今後に期待することを教えてください。

アルマの建設が順調に進んでおり、その驚異的な性能が徐々に明らかになってきています。世界中の研究者がアルマをどんどん利用して、天文学研究の発展や新発見につながっていけばと期待してます。

システム・エンジニアを将来ずっと続けていくかは、ちょっと悩むところですが(笑)、私個人としては、今のところサイエンスというよりは装置開発に専念してやっていきたいという気持ちが強いです。まだ先の話ですが、アルマのあとに大きな望遠鏡をつくるという計画もあったりしますので、光学設計だとか、検出装置の開発を中心にして将来計画に関わっていきたいと思っています。

ページトップへ