アルマ人 新しい宇宙の姿を求めて

全然知らなかったものが
発見されるでしょう。

リチャード・ヒルズ Richard Hills
合同アルマ観測所 プロジェクト・サイエンティスト。ミリ波電波干渉計に創成期から携わり、ハワイの15mサブミリ波望遠鏡JCMTのプロジェクトサイエンティスト、ケンブリッジ大学教授も務めた。
いよいよアルマ望遠鏡の初期観測がスタート。プロジェクト・サイエンティストとして観測部門のトップに立つリチャード・ヒルズさんも大忙し。アルマ望遠鏡によって、いったい何が見えてくるのか?アルマの観測が拓く新しい宇宙を語っていただきます。(インタビュアー/平松正顕)

Q1 まず、アルマ望遠鏡を作る目的について教えてください。

アルマ望遠鏡は、電磁波のうち波長が数ミリ前後の電波(ミリ波サブミリ波)を観測します。これまでの天文学の歴史を見ても、新しい波長域を観測すると新しいものが見えます。それは、それまで全く予見されていなかったものである場合もあります。だからアルマ望遠鏡でも最も面白いのは、これまで私たちが全然知らなかったものが見つかることでしょうね。でも、そんなこと言っていたら望遠鏡建設にかかる多額のお金を出してもらうことはできません。アルマ望遠鏡ができる前から、この波長域はたとえば野辺山宇宙電波観測所などで先駆的な観測がなされてきました。

その結果、私たちは星々の間の空間にガスがあることを知りました。最初は、それらのガスはとても単純な組成、つまり水素原子と、少量の炭素や酸素原子があるだけと考えられていましたが、研究が進むにつれてそのガスの化学組成は複雑で、様々な化学反応が起きていることがわかってきました。つまり、原子はたがいに結びついて複雑な分子を作るのです。これまでの望遠鏡でもこのように複雑な化学組成をしていることはわかっていましたが、どうしてそのような化学組成を持つのか、場所によって化学組成がどのように違うのかというのはまだ明らかにはなっていません。

アルマ望遠鏡をつかえば、そういったガスの雲の詳しい画像を取得することができ、より詳しい分析をすることができます。この研究はとても重要で、そういったガスの雲から星や惑星が生まれてくるので、私たちの太陽系がどのように作られたかを理解する手掛かりになるのです。このような星や惑星を作るガスの研究が、アルマ望遠鏡に期待されている成果の一つですね。ただこれだけでは、アルマ望遠鏡のような高価な装置をつくるのには十分ではありません。

他にどんな発見が期待されているかという話をしましょう。私たちの銀河系の中では、そうしたガスの雲から星や惑星が生まれています。しかしアルマは、宇宙の中で最も遠くにある天体も観測することができます。数十億光年のかなた、宇宙が誕生して間もないころの銀河からの電波もすでに観測されています。このような天体は、実は可視光や赤外線で見ることはできません。しかしサブミリ波では観測できるので、このような天体を「サブミリ波銀河」と呼びます。サブミリ波銀河は、宇宙が誕生した後にガスがそこかしこに集まってきてできたもので、きっと中では既に星が作られ始めていて、その熱でガスや塵が温められているのです。私たちが住む天の川銀河などは立派な銀河ですが、そのような銀河も昔はサブミリ波銀河のようなものだったと考えられています。そういう天体は、可視光では見えないのです。

サブミリ波銀河で何が起きているかを調べるには、ミリ波サブミリ波で観測することが必要で、アルマ望遠鏡はそのための重要な道具です。これまでに作られているほかの望遠鏡、たとえば野辺山の望遠鏡でもサブミリ波銀河を見つけることはできますが、サブミリ波銀河の画像を取得して詳しく調べるには、アルマ望遠鏡が必要なのです。アルマ望遠鏡なら、サブミリ波銀河でどんなふうに星が作られているかを見ることができるでしょう。私たちの銀河の中でも星は作られていますが、銀河の近所を見渡しても形成途中の銀河はありません。銀河の間の空間はとても空虚で、銀河の材料になるものがないのです。すべての銀河は、宇宙初期に作られたのです。サブミリ波銀河はとても遠くにあるので電波もとても弱く、また見かけのサイズもとても小さいので、これを観測するにはアルマ望遠鏡のようなパワフルな望遠鏡が必要なのです。

Q2 アルマはとても強力な望遠鏡ですが、この大きな望遠鏡を作るのに大変だったことは何ですか?

なかなかひとつには絞れませんね。その中で、アルマ望遠鏡のほとんどの部品について、アルマ望遠鏡建設以前には存在しなかった技術を使ったり、これまで達成したことのない性能を持たせる必要があった、というのは特筆すべきことでしょう。たとえば、電波を集めるためのアンテナ。アルマ望遠鏡のアンテナは現存する他のどの電波望遠鏡をも凌ぐ表面精度と指向精度が要求されます。このためアンテナの開発は難しく、多くの努力を必要としました。またアルマ望遠鏡のアンテナは他のほとんどの望遠鏡よりも標高が高く、風が強く、温度の低い環境で動作せねばなりません。これも難しい点の一つでした。

次に、電波を受信して電気信号に変換する「受信機」ですが、アルマ望遠鏡の受信機はたいへん広い周波数帯域を観測しますし、観測周波数そのものも高く、要求される感度も既存の受信機に比べて非常に高いものです。ですので、受信機の開発にもたいへんな力が注がれました。そして多くのアンテナに搭載された受信機で得た信号を一つにするために、光ファイバーの技術が使われています。これも、アルマ望遠鏡が当初構想された当時にはほとんど実用化されていなかった技術ですが、情報通信技術の発展とともに私たちもそれを応用できるようになってきました。光ファイバーを通ってきた信号をひとつにするには、それぞれのアンテナで得られた信号の時刻を、これまでにないほど非常に精密に合わせなくてはいけません。その精度は、10-14秒にもなります。

そして実際に信号をひとつにする相関器ですが、アンテナで得られる電波のほとんどは雑音で、その中から天体の情報を含む部分を抽出しなくてはいけません。これも相関器の仕事です。相関器は2台あり、そのうち1台は日本で作られたとてもパワフルな装置です。

そして最後に、望遠鏡システム全体をコントロールし、データを処理し、電波写真を作るソフトウェアも必要です。このソフトウェア開発にも、アルマ望遠鏡ではたいへんな労力がかけられています。つまり、アルマ望遠鏡に関わる開発の全てが難しかったといえるでしょう。何百人もの研究者やエンジニアが必死で何年も開発に当たりました。そのおかげで、こうしてアルマ望遠鏡は観測開始にこぎつけられたのです。

Q3 アルマ望遠鏡での研究について、あなたが一番関心を持っていることは?

国立天文台ニュース3月号に同封の『アルマーの冒険』(プロローグ編)を手に、左から平松さん(英語版)、ヒルズさん(日本語版)、藤井さん(特製スペイン語版)。

私がアルマ望遠鏡の成果として最初に見たいのは、生まれ来る星とその周りにあるガスの円盤でしょうか。惑星が作られているところを見たいですね。これまでのデータでは直接そういった天体を見るのが難しかったのですが、アルマ望遠鏡を使えば鮮明な画像が撮れるはずです。そして、もっと遠くの、生まれたての銀河の素晴らしい画像も見てみたいですね。

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