双子の赤ちゃん星を育むガスの渦巻き

概要

アルマ望遠鏡を使った観測で、双子の赤ちゃん星のまわりにガスと塵の渦巻きが発見されました。またこの渦巻きのあいだを通って、ガスが赤ちゃん星に向かって落下していく様子も初めて観測されました。宇宙に数多く存在する双子の星の誕生と成長の様子に迫る、重要な観測成果と言えます。

台湾中央研究院天文及天文物理研究所の高桑繁久 副研究員が率いる研究チームは、アルマ望遠鏡を用いておうし座にある生まれたばかりの双子星(原始連星)L1551 NEを観測しました。その結果、ふたつの星を取り囲むガスの円盤(周連星円盤)を発見しました。また研究チームは、スーパーコンピュータ「アテルイ」を使ってこの円盤に含まれるガスの分布や運動をシミュレーションしました。その結果と観測データと比較することで、この円盤は単純な環ではなく、円盤から中心のふたつの星に向かって渦巻き腕が伸びていることがわかりました。さらに円盤からふたつの星に向かってガスが流れ込んでいることもわかりました。これは、原始連星が円盤を揺さぶり、円盤のガスが連星に落下し始めている様子を世界で初めてとらえた成果です。

研究の背景

宇宙に輝く星々は、宇宙に豊富に存在するガスや塵が自らの重力で集まり、収縮することによって誕生します。その過程については、理論研究やさまざまな望遠鏡を使った観測的研究により、大まかなシナリオが描けるようになってきました。しかし、未解明のまま残されている謎も数多く存在します。

そうした謎の一つが、ふたつ以上の星が互いのまわりを回っている「連星系」の誕生の仕組みです。太陽は単独で輝く星ですが、天の川銀河に存在する太陽程度の質量の星の半数以上は連星系を成していることがわかっています。連星系の誕生の仕組みについても盛んに研究が行われていますが、例えば原始連星にどのようにガスが降り積もって成長していくのかなど、基本的な事柄についてもまだ論争が続いています。

連星系が誕生して間もない頃には、その連星のまわりにガスや塵が取り巻き、円盤状の構造を作ります。こうした円盤に含まれる物質が連星に落下することで連星が成長していくのですが、円盤を構成する物質には「回転の勢い」(角運動量)があるため、そのままでは連星に向かって落下することができません。実際の双子の赤ちゃん星のまわりで「回転の勢い」がどのような仕組みで減衰しているのか、さまざまな理論が提案されていますが、これまではそのどれが正しいのかはっきりわかっていませんでした。それは、これまでは解像度不足のために原始連星の周囲を詳細に調べることができず、観測的な裏付けが不十分であったためです。

アルマ望遠鏡による観測

生まれたばかりの連星系(原始連星系)の周囲のガスや塵の分布と動きを詳しく調べるため、台湾中央研究院天文及天文物理研究所の高桑繁久 副研究員が率いる研究チームは、アルマ望遠鏡を用いておうし座にある原始連星系L1551 NEを観測しました(注1)。研究チームはL1551 NEをこれまでもハワイにあるサブミリ波干渉計SMAなどを用いて観測してきましたが、アルマ望遠鏡による今回の観測ではSMAに比べて1.6倍高い解像度と6倍高い感度を実現し、原始連星系の周囲の様子が詳しく調べられるようになりました。

アルマ望遠鏡による観測の結果、L1551 NEを構成するふたつの原始星の各々を取り囲むガスや塵の円盤と、それらの外側を大きく取り巻く円盤(周連星円盤)が写し出されました。周連星円盤の半径は300天文単位であり、これは太陽系の最も外側を回る惑星である海王星の軌道のおよそ10倍の大きさに相当します。

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画像1:アルマ望遠鏡で観測した、L1551 NEを取り囲む円盤。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Takakuwa et al.

また研究チームは、この円盤に含まれる一酸化炭素分子が放つ電波を解析し、円盤のガスの動きを詳細に調査しました。一般に質量の大きな天体の周囲を回る物体は、天体の質量と物体が回る軌道の大きさで決まる速度で運動しますが(ケプラー回転)、今回の観測からは、周連星円盤に含まれるガスがケプラー回転よりも速い速度で動いている場所があることが初めて突き止められました。さらに、円盤に沿って回転するだけではなく、原始連星に向かって落下していくガスも発見されました。このようなガスの運動が発見されたのは今回が初めてのことで、双子の赤ちゃん星がまさに成長していく様子を見ていることになります。研究チームを率いる高桑氏は、「アルマ望遠鏡の高い解像度のおかげで、連星の赤ちゃんの生きている鼓動を捉えることができました。」と語っています。

研究チームは、発見された周連星系円盤の成因やケプラー回転よりも速い速度でガスが動いている理由を調べるために、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」(注2)を用いたシミュレーションによって原始連星の周囲で重力を受けるガスや塵の流れを計算し、円盤がどのような構造になるかを調べました。その結果、L1551 NEを構成するふたつの原始星の各々から1本ずつ渦巻きの腕が伸びており、これが周連星円盤となって見えていることがわかりました。この腕に含まれる物質は周囲の物質よりもやや速い速度で回転しており、観測で得られた結果に一致します。また、2本の腕の隙間を通ってガスが連星に向かって落ちていく様子もシミュレーションでは再現されていました。これは、連星の公転が「回転の勢い」の大きい腕を作る一方で、腕の隙間では「回転の勢い」が小さくなり、円盤の物質が星に向かって落下することができるようになった、ということを示しています。研究チームの一員としてコンピュータシミュレーションを実行した松本倫明氏(法政大学)は、「連星が周連星円盤を揺さぶって、周連星円盤のガスが連星に落下しはじめる様子をアルマ望遠鏡による観測で初めてとらえることができました。理論の予測とも驚くほど一致しています。」と語っています(注3)。

動画:スーパーコンピュータ「アテルイ」を用いて計算した、原始連星の周囲のガスの運動。2つの星から1本ずつ渦巻きの腕が伸びている様子がよくわかる。
字幕なし動画(36MB / MP4)
Credit: 松本倫明(法政大学)

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画像2:スーパーコンピュータ「アテルイ」を用いて計算した、原始連星の周囲の円盤(右)。実際のアルマ望遠鏡観測成果(左)と特徴がよく一致している。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Takakuwa et al.
ラベル無し画像 (67KB/JPEG)

研究チームの一員である西合一矢氏(国立天文台)は「これほど高い精度で円盤の構造や運動を直接に捕えることができたのは、アルマ望遠鏡ならではのことです。今後の星形成研究の大きな流れとして、アルマ望遠鏡による高解像度観測と数値シミュレーションの直接比較が重要になってきます。今回の成果は、その先駆けと言えるでしょう。」と、今後の研究の展望を語っています。

[1] 地球からL1551 NEまでの距離は、およそ460光年です。L1551 NEは、約145天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の平均距離:約1億5000万kmに相当)離れた、重さが太陽の0.67倍、および0.13倍のふたつの原始星で構成されています。またこの観測の解像度はおよそ0.5秒角(1秒角は角度の1度の3600分の1)でした。

[2] スーパーコンピュータ「アテルイ」(Cray XC30)は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用しており、天文学専用スーパーコンピュータとしては世界最高の計算性能を誇ります。

[3] 今回観測された原始連星よりも進化の進んだ段階の連星SR24のまわりでは、すばる望遠鏡により渦巻き構造が既に発見されています。SR24では星の成長はほぼ完了していて星を取り囲む物質はほとんど散逸していますが、今回のアルマ望遠鏡の観測ではまさに活発に成長している最中の原始連星でも渦巻き構造が重要な役割を果たしていることがわかりました。
『すばる望遠鏡、双子の若い星の星周円盤を直接観測—星周円盤に外部からの物質流入を初めて検出—』

論文・研究チーム

この観測結果は、Takakuwa et al. “Angular Momentum Exchange by Gravitational Torques and Infall in the Circumbinary Disk of the Protostellar System L1551 NE”として、2014年11月発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

  • 高桑繁久(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)
  • 齋藤正雄(国立天文台野辺山宇宙電波観測所/総合研究大学院大学)
  • 西合一矢(国立天文台チリ観測所)
  • 松本倫明(法政大学)
  • Jeremy Lim(香港大学)
  • 花輪知幸(千葉大学)
  • Paul T. P. Ho(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)

この研究は、以下の助成を受けています。

  • Ministry of Science and Technology of Taiwan (MOST 102-2119-M-001-012-MY3)
  • GRF grants of the Government of the Hong Kong SAR under HKU 703512P
  • 日本学術振興会科学研究費(24244017、23540270)

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
上図を拡大する
アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA, “アルマ望遠鏡”)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。
アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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