アルマ望遠鏡(オレンジ)とハッブル宇宙望遠鏡(青)で撮影したフォーマルハウトを取り巻く環。アルマ望遠鏡でもフォーマルハウト本体から発せられる電波が検出されています。ハッブル宇宙望遠鏡の可視光写真では、星のまわりを鮮明に写し出すために、「コロナグラフ」を使って星の光を隠しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. MacGregor; NASA/ESA Hubble, P. Kalas; B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

アルマ望遠鏡、1等星フォーマルハウトの環をふたたび観測

アルマ望遠鏡が、1等星フォーマルハウトを取り巻く環をふたたび撮影しました。塵とガスからなるこの美しい環は、フォーマルハウトを回る彗星どうしが衝突して作られたのではないかと考えられています。
アルマ望遠鏡が新たに撮影した、フォーマルハウトを取り巻く環。

アルマ望遠鏡が新たに撮影した、フォーマルハウトを取り巻く環。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); M. MacGregor

フォーマルハウトを取り巻く環は、2012年、アルマ望遠鏡の初めての科学成果として大々的に発表されました。このとき環は半分しか観測されていなかったにもかかわらず、その詳細な画像からは環の性質や起源に関するさまざまな手がかりが得られ、まさにアルマ望遠鏡による天文学新時代の幕開けを告げるにふさわしい成果でした。

今回、国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってフォーマルハウトのまわりの環の全体像を描き出すことに成功しました。完全な環の画像は、単に美しいだけでなく、その化学的な特徴が太陽系の彗星と似ていることも示唆していました。

今回新たに出版されたフォーマルハウトの環に関する論文は、ふたつあります。そのうちのひとつの論文の筆頭著者であるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのメレディス・マグレガー氏は、次のように語っています。「アルマ望遠鏡によって、環のようすをおどろくほど鮮明に写し出すことができました。くっきりとした環の形がより良く見えたことで、環に影響を及ぼす惑星系について多くのことを知ることができるのです。」

フォーマルハウトは、地球から約25光年の場所に位置する、ご近所の星です。しかも、周囲の惑星が直接撮影されている20個ほどの星のひとつです。フォーマルハウトの年齢は4億歳ほどと考えられており、太陽系のおよそ1/10の年齢しかない若い星です。

アルマ望遠鏡による新しい観測から、環の幅は約20億km、フォーマルハウトからの距離は約200億kmであることがわかります。

アルマ望遠鏡(オレンジ)とハッブル宇宙望遠鏡(青)で撮影したフォーマルハウトを取り巻く環。

アルマ望遠鏡(オレンジ)とハッブル宇宙望遠鏡(青)で撮影したフォーマルハウトを取り巻く環。アルマ望遠鏡でもフォーマルハウト本体から発せられる電波が検出されています。ハッブル宇宙望遠鏡の可視光写真では、星のまわりを鮮明に写し出すために、「コロナグラフ」を使って星の光を隠しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. MacGregor; NASA/ESA Hubble, P. Kalas; B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

アルマ望遠鏡はこれまでに、数百万歳~1千万歳という非常に若い星のまわりの円盤も数多く観測していますが、フォーマルハウトはそれよりもやや進化が進んでおり、太陽と同じように水素の核融合反応で輝く一人前の星です。こうした大人の星を取り巻く塵の環は、デブリ円盤(残骸円盤)と呼ばれます。デブリ円盤は、これから惑星ができていく現場ではなく、ある程度出来上がった惑星系の中であとからばらまかれた塵でできていると考えられます。つまり、惑星系の外縁部で彗星や小天体が互いに衝突した名残の塵なのです。こうした「残骸」の塵が星からの光を吸収し、わずかに温まることで、アルマ望遠鏡が観測する微弱なミリ波を出すのです。

アルマ望遠鏡の新しいデータとコンピュータモデルを使った解析から、環の位置と幅、そして形状を詳細に求めることができました。マグレガー氏によれば、この解析から、この細い環が惑星の重力の影響下で作られたことが確認できたということです。

さらにこの観測から、環の中でも星から遠い位置が明るく輝く現象が初めて確認されました。これは、マサチューセッツ工科大学のマーガレット・パン氏が2016年に論文で予測した現象です。天体の周囲を楕円軌道で回る物体すべてに当てはまることですが、星から最も遠い場所では、物体はゆっくりと動きます。フォーマルハウトの環の場合も、星から遠い場所では塵の公転速度が落ちるため、塵が渋滞し、密度が高くなることで強い電波を出すのです。

一方で、分子ガスが放つ電波に注目すると、一酸化炭素ガスが塵の環と同じ場所に分布していることがわかりました。今回発表されたもう一つの論文の筆頭著者であるケンブリッジ大学のルカ・マトラ氏は、「新しいデータによって、フォーマルハウトの一酸化炭素と二酸化炭素を合わせたガスの相対存在量が、太陽系の彗星における値と似ていることがわかりました。これは、フォーマルハウト惑星系の外縁部と太陽系で、彗星の形成条件が似ていた可能性を示すものです。」と語っています。研究チームは、このガスの起源について、継続的に起きたたくさんの彗星の衝突によって供給された、あるいはヘール・ボップ彗星の何百倍も大きな巨大彗星の衝突が1度だけ起きたことによって供給された、という2つの可能性を挙げています。

フォーマルハウトのまわりにこれほどはっきりとした環があり、その組成が太陽系と似ているということは、太陽系の「後期重爆撃期」と似た現象がいまフォーマルハウトのまわりで起きているのかもしれません。太陽系ではおよそ40億年前、太陽系形成時に作られてその時期まで残っていた大量の小惑星や彗星が、すでに形作られていた地球やほかの惑星に雨のように降り注いだと考えられており、この時期を「後期重爆撃期」と呼びます。

「20年前、当時最高性能のミリ波望遠鏡を使った観測で、フォーマルハウトのまわりに塵が広がっている様子がぼんやりと見えてきました。そして今、アルマ望遠鏡の素晴らしい性能によって、その環全体を見ることができたのです。」と、一連の研究を率いたカリフォルニア大学バークレー校のポール・カラス氏は語っています。「いつの日か、環を形作るちりの軌道に影響を与える惑星そのものを見つけたいと思っています。」

研究論文

この研究成果は、M. MacGregor et al. “A complete ALMA map of the Fomalhaut debris disk”と L. Matra et al. “Detection of exocometary CO within the 440MYR-old Fomalhaut belt: A similar CO+CO2 ice abundance in exocomets and solar system comets” として、アメリカの天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。

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