アルマ望遠鏡が、太陽系外惑星系の誕生と進化を理解するうえで重要な発見を成し遂げました。みなみのうお座の一等星フォーマルハウトを取り囲む塵の環が、その近くをまわる惑星によって整形されていることを明らかにしたのです。この結果は、昨年9月から開始されたアルマ望遠鏡初期科学観測に対して全世界から公募された観測研究のなかで、最初の成果となります。
フォーマルハウトは、地球からわずか25光年の距離にある星で、この星のまわりには塵でできた環があることがこれまでの観測から知られていました。アルマ望遠鏡はこの環を、電波望遠鏡としては過去最高の解像度で観測し、環の内側と外側の境界が非常にはっきりしていることを発見しました。研究グループは、アルマ望遠鏡による観測画像とコンピュータシミュレーションとを比較し、環の内側と外側に位置するふたつの惑星の重力によってこの環の形が保たれていると結論づけました(注)。これらの惑星そのものはアルマ望遠鏡による観測画像には写っていませんが、環に加わっているであろう重力の大きさからその質量を見積もることができます。結果は、火星の質量よりも大きく地球の質量の3倍よりも小さいというものでした。これは、研究者がこれまで考えていたこの惑星の質量よりもずっと小さいものです。
2008年にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影されたフォーマルハウトの画像には、環の内側に惑星らしき天体が写っていました。その惑星は、太陽系で2番目に大きな惑星である土星よりも大きいだろうと考えられていましたが、その後行われた赤外線の観測ではこの惑星を見つけることができませんでした。
赤外線観測でこの惑星が見えなかったことで、ハッブル宇宙望遠鏡による惑星の「発見」に疑いを持つ研究者も現れました。また、ハッブル宇宙望遠鏡の画像に写し出されているフォーマルハウトの環は非常に小さい塵でできたものですが、このように小さい塵は星が放つ光の圧力によって外側に押し広げられるため、環の構造もはっきりしませんでした。アルマ望遠鏡を使った観測では、ハッブル宇宙望遠鏡が観測する可視光よりも波長の長い電波をキャッチすることで、より大きな(直径1mm程度)塵の分布を明らかにすることができました。この程度の大きさの塵になると光の圧力では簡単には移動しないため、環が本来持っている構造を調べることができます。こうして、内側と外側の境界が非常にはっきりした環の姿が、アルマ望遠鏡の観測で初めて撮影されたのです。
「アルマ望遠鏡で観測した環の形とコンピュータシミュレーションを比べることで、環の近くを回っている惑星の質量とその軌道を良い精度で求めることができました。」と、研究チームを率いるアーロン・ボレイ氏(フロリダ大学セーガン・フェロー)は語ります。「その惑星の質量はきっと小さいはずです。そうでなければ、この環は惑星の重力によって破壊されてしまいます。」赤外線観測でこれらの惑星が発見されなかったのは、惑星が想定よりも小さかったからだろうと研究者たちは考えています。
フォーマルハウトを取り囲む塵の環の幅は太陽と地球の間隔(約1億5000万km)のおよそ16倍であり、その厚みは環の幅の約1/7しかないこともアルマ望遠鏡の観測から明らかになりました。「これまでに考えていたよりも、この環はずっと細くて薄いことがわかりました。」と、フロリダ大学のマシュー・ペイン氏は語っています。
この環の半径は、太陽と地球の間隔のおよそ140倍もあります。私たちの太陽系では、冥王星でさえ太陽との距離は太陽と地球の間の距離の40倍ですから、この環がいかに大きなものかがわかります。ボレイ氏は「この環の近くにあるふたつの惑星は小さく、彼らの「太陽」であるフォーマルハウトから非常に遠いので、これまでに発見された普通の星を回る惑星としては最も冷たい惑星といえるでしょう。」と語っています。
研究グループは、2011年9月から10月にかけてアルマ望遠鏡でフォーマルハウトを観測しました。アルマ望遠鏡は最終的には66台のパラボラアンテナを備えますが、今回の観測で使用されたアンテナの数はその1/4以下でした。アルマ望遠鏡の建設が完了すればその性能ははるかに高いものとなりますが、建設途上の現段階でも既に、これまでの電波観測では見ることのできなかった環の構造をはっきりと描き出すことに成功しています。
「アルマ望遠鏡は現在も建設中ですが、ミリ波・サブミリ波で宇宙を観測することのできる世界最高性能の望遠鏡であるということが今回の研究で明らかになりました。」と、今回の研究チームの一員であるスチュワート・コーダー氏(アメリカ国立電波天文台)は語ります。研究グループは、この研究成果をアストロフィジカル・ジャーナル・レターズに発表する予定です。
注
塵でできた環の形が惑星や衛星の重力によって保たれているという例は、1980年に惑星探査機ボイジャー1号が土星の環を詳しく観測したときに初めて発見されました。また、天王星が持つ環のうちの一本も、その内側と外側を回るコーディリアとオフィーリアという2つの衛星の重力によって形が保たれているということがわかっています。羊飼いが羊の群れを統率する様子に似ていることから、そのような働きを持つ衛星を『羊飼い衛星』と呼びます。今回アルマ望遠鏡で明らかになったフォーマルハウトの環も、同じような『羊飼い惑星』よって形が保たれていると考えられます。
『羊飼い惑星』は、環を構成する塵に重力を及ぼしてその運動に影響を与えます。環の内側を回っている惑星は、環を構成する塵よりも速く中心星のまわりを回っています。このため、環を構成する塵がこの惑星の重力によってエネルギーを受け取り、外側に押し出されます。一方で環の外側を回っている惑星は環の中の塵よりもゆっくりと中心星のまわりを回っているため、塵はその惑星の重力を受けてエネルギーを失い、内側に移動します。環をはさむふたつの惑星のバランスによって、環は細く保たれるのです。
惑星の重力を受けて環を構成する塵が掃き集められている様子。環の内側に位置する惑星は環の塵粒子より速く動き、塵粒子にエネルギーを与えて外側に移動させる。一方で環の外側の惑星はよりゆっくり動き、塵粒子からエネルギーを奪って内側に移動させる。この両方の効果で、環は細く保たれている。
論文・研究メンバー
この研究は、A. Boley et al.著 “Constraining the Planetary System of Fomalhaut Using High-Resolution ALMA Observations”として、 アストロフィジカル・ジャーナル・レター誌に掲載されます。
今回の研究を行ったグループのメンバーは以下の通りです。
A. C. Boley (University of Florida, Gainesville, USA), M. J. Payne (University of Florida), S. Corder (North American ALMA Science Center, Charlottesville, USA), W. Dent (ALMA, Santiago, Chile), E. B. Ford (University of Florida) and M. Shabram (University of Florida).
アルマ望遠鏡
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。