アルマ望遠鏡、宇宙に満ちる謎の赤外線放射の起源を解明

東京大学宇宙線研究所の藤本征史氏と大内正己准教授をはじめとする研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、人類史上最も暗いミリ波天体の検出に成功しました(図1)。そして、これらの天体から放射される赤外線が、これまで謎だった宇宙赤外線背景放射の起源であることが分かりました(図2)。

さらに研究チームは、今回の研究で見つかった暗いミリ波天体をハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡の光赤外線の画像で調べました。その結果、暗いミリ波天体のうち約60%の正体は、これまで光赤外線の観測で知られている遠方銀河だと分かりました。一方で残りの約40%の天体は、光赤外線観測では姿が見えない天体でした(図3)。今回の研究によって、宇宙赤外線背景放射の起源が銀河などの天体であることが明らかになった一方で、これらのうち40%については正体不明の新しいタイプの天体である可能性が出てきました。

宇宙を望遠鏡で観測すると、星や銀河以外の場所は漆黒の闇に包まれているように見えます。しかし実際の宇宙からは、どの方向からも一様な弱い光(電磁波)が届いており、これを宇宙背景放射と呼びます。宇宙背景放射には可視光(COB)、マイクロ波(CMB)、赤外線(CIB)の主要な3つの成分があります。このうちCOBに関しては、宇宙に存在する銀河中の星が起源であることがわかっています。またCMBは、ビックバン直後の宇宙の熱いガスが放った光だとわかっています。一方CIBについてはこれまでのところ正体がわかっておらず、様々な観測で調べられてきました。特に、最高感度と高い空間分解能を誇るアルマ望遠鏡を用いた観測でもCIBが調べられてきましたが、その起源の約半分は明らかになっていませんでした。この原因は、これまで行われていたアルマ望遠鏡による個々の観測では感度や観測範囲に限界があり、暗い天体を十分に捉えることができなかったためです

こうした未知のCIB起源を解明するために、研究チームは公開されている約900日間に及ぶアルマ望遠鏡観測データをくまなく調べました。更に背景天体が重力レンズ効果で増光されることを利用して、これまで検出することができなかった、より暗い天体を網羅する探査を行いました。東京大学宇宙線研究所の大学院生である藤本征史氏は、「CIBの起源は宇宙から届く主要なエネルギーにおけるミッシングピースとなっていました。あらゆる手を尽くしてこの起源に迫ろうと、膨大なデータ解析に励んだのです。」と語ります。その結果、研究チームは133個の暗い天体を発見しました。その中には、これまで発見されていたものよりも最大で5倍も暗い天体が含まれています。その明るさと数を足し合わせるとCIBのほぼ全てに相当することが分かったのです(注)。

図1-1
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図1-2
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図1: (上)モヤモヤとしたCIBが、今回のアルマ望遠鏡を用いた研究により個別の天体に分解された様子のイメージイラスト。
Credit: NAOJ
(下)アルマで発見された個別の天体の明るさの総和が、CIBのほぼ全量に届いたことを表しています。
Credit: NAOJ, Fujimoto et al.

更に研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡の観測データと照らし合わせ、アルマで見つかった暗い天体(以下「暗いアルマ天体」と呼ぶ)の正体に迫りました。その結果、約60%の「暗いアルマ天体」は、これまでの光赤外線観測で捉えられていた遠方銀河であることもわかりました。

図2はアルマ望遠鏡が捉えた、遠方銀河中の塵からの放射の様子です。銀河中に存在する塵は、星からの可視光や近赤外線を吸収してより長い波長帯で再放射するため、アルマ望遠鏡によって観測できるのです。

図2
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図2:すばる望遠鏡の観測(カラー画像)により明らかになった、暗いアルマ天体(赤等高線)の正体。アルマ望遠鏡では、光赤外線で観測される銀河(2本の赤い線に挟まれた天体)に含まれる塵からの放射を捉えていると考えられます。
Credit: NAOJ, Fujimoto et al.

一方で、チームメンバーで東京大学宇宙線研究所の大内正己准教授は次のように語ります。「このようにして、光赤外線観測で見えた60%の暗いアルマ天体の正体はわかりましたが、残りの40%の天体の正体はまだ分かっていません。しかし、おそらくは塵に覆われた銀河だと思います。非常に暗いため、質量が小さい銀河でしょう。」さらに、大内准教授は熱を込めて語ります。「そうすると、質量の小さい銀河に多くの塵が含まれていることになります。逆に、これまでの研究で知られている銀河は、質量が小さいと塵が少ないです。つまり、これら40%の天体は、常識的に考えるとおかしな銀河なのです。もしかしたら、今回の観測は、これまでの常識に合わない銀河が遠方の宇宙にたくさんある可能性を示唆しているのかもしれません。何故こんなおかしな銀河があるのか、今後の観測で明らかにしていきたいです。」

研究チームは今後、アルマ望遠鏡を用いた詳細観測によって、こうした暗いアルマ天体の正体を明らかにすることを目指しています。

図3
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図3: 今回明らかになった暗いアルマ天体の正体と内訳。約60%の暗いアルマ天体は対応する光赤外線銀河が見つかった一方で、残り約40%は他の波長では姿の見えない、正体不明の天体であることが示されました。
Credit: NAOJ, Fujimoto et al.

注: CIBの1mm帯の成分です。サブミリ-ミリ波帯の成分は遠方からであっても見かけ上弱くならない特徴を持っており、CIBの中でも特に初期の宇宙まで見通したものになっています。

この研究成果は、Fujimoto et al. “ALMA Census of Faint 1.2 mm Sources Down to ~ 0.02 mJy: Extragalactic Background Light and Dust-poor, High-z Galaxies”として、2015年12月28日発行の米国の天文学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント』に掲載されました。この研究は文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム、日本学術振興会の科研費・基盤研究(23244025, 15H02064)、日本天文学会早川幸男基金、公共財団法人天文学振興財団からの援助を受けています。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA, “アルマ望遠鏡”)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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