若い星のまわりのスノーラインを直接撮像

アメリカの研究者を中心とする研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて若い星を取り巻くガスと固体間微粒子の円盤を観測し、史上初めて「スノーライン(snow line)」を画像としてとらえることに成功しました。このスノーラインは、惑星の形成やその化学組成の起源を考えるうえで非常に重要な役割を持っています。

地球上では、標高が高くなって温度が下がり、空気中の水分が凍ってしまう境界のことをスノーラインと呼びます。星のまわりでも同様に、星からの距離がある程度以上遠くなると温度が下がり、物質が凍りつき始める領域が存在します。また、生まれたばかりの星のまわりには、多種多様な分子を含んだガスや固体微粒子が円盤状に広がっています。これを原始惑星系円盤と呼びます。その円盤に含まれる物質の種類によって凍り始める温度、すなわち星からの距離は異なるので、星のまわりのスノーラインの位置は物質ごとに異なります。

星から一番近い位置で凍り始めるのが、私たちになじみ深い水です。そしてその外側には、順に二酸化炭素、メタン、一酸化炭素が凍り始めるスノーラインが存在すると考えられています。このような物質が凍ると、原始惑星系円盤に含まれる固体微粒子の上に霜が降るように降り積もっていきます。こうした固体微粒子が集積することで、惑星や彗星が作られます。

アルマ望遠鏡による今回の観測により、地球から175光年の距離にあるうみへび座TW星のまわりで、一酸化炭素のスノーラインが始めて写し出されました。研究グループは、うみへび座TW星は私たちの太陽系が誕生して数百万年しか経っていない頃の様子によく似ていると考えています。この成果は、2013年7月18日発行のScience Expressで公表されました。

「アルマ望遠鏡により、若い星のまわりのスノーラインを写し出すことに初めて成功しました。これは私たちの太陽系の若かりし頃を知る大きな手掛かりになるので、私たちはとても興奮しています。」と、ハーバード・スミソニアン天体物理学研究センターで研究チームを率いるチュンファ・チー氏は語ります。「アルマ望遠鏡を使うことで、これまで謎に包まれていた原始惑星系円盤の外側の領域を調べることが可能になりました。私たちが住む太陽系も、生まれてから1000万歳に満たないころにはこんな姿をしていたはずです。」

画像1. うみへび座TW星の想像図

画像1. うみへび座TW星のアルマ望遠鏡観測画像。
中心部にうみへび座TW星があるが、アルマ望遠鏡による観測では見えていない。今回の観測では、星を取り巻く原始惑星系円盤の中に含まれるN2H+分子が放つ電波をとらえた。青い円は太陽系における海王星の軌道の大きさを示している。
Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
青い円のない画像1

これまで、スノーラインはスペクトルの解析から間接的に存在が示されていただけで、その様子が直接写し出されたことはありませんでした。ですので、スノーラインの正確な位置はこれまで明らかにされていませんでした。

スノーラインの観測が難しかった理由の一つは、それが原始惑星系円盤の中央面(赤道面)の狭い範囲でしか形成されないからです。この平面の上下の部分には中心の星からの光が当たるので、ガスが高い温度に保たれ、凍りつくことがありません。円盤の中央面では、大量のガスや固体微粒子が星の光を遮ることで温度が下がり、一酸化炭素や他のガスが凍り始めます。しかし、その上下にある温かいガスが邪魔をして、ガスが凍っている中央面をみることは難しかったのです。共同研究者のカリン・ウーベル氏(ハーバード大学/バージニア大学)はその様子を「濃い霧の中で、ごくわずかな晴れ間を探すようなものです。」と表現しています。

研究グループは、一酸化炭素の霧を見通すために、原始惑星系円盤内にわずかに含まれるN2H+という分子が出す電波を観測しました。N2H+は一酸化炭素分子と化学反応を起こしやすいため、一酸化炭素が豊富にあるガスの中ではN2H+が存在できません。一方で一酸化炭素が固体微粒子表面上に凍りついてしまえば、ガス中のN2H+と化学反応を起こすことはありません。つまり、N2H+からの電波が観測されるということは、そこでは一酸化炭素が凍り付いているということになります。N2H+は波長数ミリメートルの電波(ミリ波)を放射するので、アルマ望遠鏡のよい観測対象になります。

アルマ望遠鏡による観測では、その高い感度と解像度のおかげで、N2H+の分布がきれいに描き出されました。そして、中心星から約30天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離、約1億5000万キロメートル)のところに内側の端があることがわかりました。

「この方法で、うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤に含まれる一酸化炭素の氷の「ネガフィルム」を取得することができました。」とウーベル氏は語ります。「これによって、理論研究で予測されていた一酸化炭素のスノーラインをはっきり見ることができました。」

スノーラインは、惑星の形成にとても重要な役割を果たしていると考えられています。スノーラインより外側では、星間微粒子のまわり様々な物質が氷となって付着し、粘着性が上がります。そうすると、星間微粒子同士が衝突しても壊れることがなく、むしろ合体してより大きな微粒子に成長していくことが可能になります。こうして惑星の材料が豊富に供給されることになり、惑星形成のスピードが上がります。スノーラインより内側と外側では惑星の材料の量が異なるので、形成される惑星のタイプも変わってくると考えられています(注)。


画像2. うみへび座TW星の想像図。
星を取り巻く原始惑星系円盤の内側(4.5~30天文単位)では水の氷が固体微粒子を包んでおり(青色で描画)、30天文単位より外側では一酸化炭素の氷が固体微粒子を包んでいる(緑色で描画)。青から緑に変わるところが、一酸化炭素のスノーラインとなる。
Credit: B. Saxton & A. Angelich/NRAO/AUI/NSF/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

太陽程度の質量の星のまわりでは、水分子のスノーラインは火星軌道と木星軌道の間に、一酸化炭素のスノーラインは海王星軌道のあたりに存在します。一酸化炭素が凍り始める位置は、彗星や冥王星のような氷が主成分の小天体が作られ始める位置とも一致しています。

ウーベル氏は、一酸化炭素のスノーラインは別の意味でも重要だと主張しています。一酸化炭素の氷はメタノールを合成する際に欠かせない物質であり、メタノールは生命誕生の素になるような複雑な有機分子が合成される材料になります。一酸化炭素のスノーラインより遠くで形成された彗星や小惑星が、より内側で作られつつある地球のような惑星に衝突すれば、こうした有機分子が惑星に持ち込まれて生命誕生のきっかけになるかもしれません。

今回の成果は、アルマ望遠鏡の一部の装置を使った初期科学観測で得られたものです。性能が向上するアルマ望遠鏡の本格観測により、いろいろな物質のスノーラインを明らかにし、惑星の形成と進化をさらに詳しく調べることができるだろうと研究チームは期待を寄せています。



たとえば、水のスノーラインより内側では氷が存在しないため、固体微粒子だけが合体成長して地球のような岩石惑星ができると考えられます。一方で一酸化炭素のスノーラインよりも外側では、様々な物質の氷が大量に取り込まれるため、天王星や海王星のような巨大氷惑星が作られると考えられています。

この研究は、Chunhua Qi et al. “Imaging of the CO Snow Line in a Solar Nebula Analog” として、科学雑誌Scienceの電子速報版 Science Express 2013年7月18日号に掲載されました。

Tags : 観測成果

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