巨大氷惑星の形成現場を捉えた—アルマ望遠鏡で見つけた海王星サイズの惑星形成の証拠—

2016年11月18日:図3の海王星軌道の大きさに誤りがありましたので、
図を差し換えました。また、「研究の背景」にも一部誤った記述があり
ましたので、修正しました。

概要

近年、太陽以外の星のまわりにも、多様性に富む数多くの惑星が発見されてきました。しかし、それらの形成過程は謎のままであり、天王星・海王星のような巨大氷惑星の形成過程も、いまだによく分かっていません。

うみへび座TW星は、年齢が約1000万歳と若く、星のまわりには塵とガスの円盤があると知られています。茨城大学の塚越崇 助教を中心とする研究チームは今回、円盤内の塵が放つ電波をアルマ望遠鏡で捉え、円盤のようすを詳しく描き出すことに成功しました。円盤には何本かの暗い隙間が刻まれており、特に半径22天文単位の隙間では、周囲に比べて小さな塵が豊富に存在することがわかりました。理論的研究から、円盤内に惑星が存在すると、こうした特徴が現れることが提唱されており、今回の観測成果はこの理論予測と合致します。隙間の特徴を考慮すると、ここには海王星程度の大きさの惑星ができていると考えられます。この発見により、どんな大きさの惑星が、どこでいつごろ作られるかが明らかにできると期待されます。

研究の背景

惑星系が形成される土台:原始惑星系円盤
近年、太陽以外の星のまわりで、多様性に富む数多くの惑星が発見されてきました。しかし、それらの形成過程は謎のままであり、特に、天王星・海王星のような巨大氷惑星の形成過程は、よく分かっていません。

このような謎を解くためには、「原始惑星系円盤」と呼ばれる、若い恒星を取り巻く円盤状の天体を、望遠鏡を使って観測することが重要です。この円盤は、冷たいガスや塵で構成されており、惑星の材料になると考えられています。原始惑星系円盤を詳しく調べることで、多様な惑星系がどのように生まれてくるのかを調べることができます。

うみへび座TW星
うみへび座TW星(図1参照)は、水素核融合反応を起こす前の段階にある、年齢およそ1000万歳の若い恒星です。地球から175光年ほどの距離にあり、このような若い恒星の中では最も太陽系に近い恒星です。うみへび座TW星は太陽と同じくらいの重さで、地球が属するこの太陽系と直接比べることができるため、太陽系がどのように形成されたのかを調べるための良い観測対象といえます。

この恒星の周囲に原始惑星系円盤が存在することは過去の観測から知られていました。最近になって、この円盤に複数の「隙間」があることが発見されました。原始惑星系円盤内に惑星が形成されると「隙間」ができることは理論的に予想されており、観測された隙間の位置は、太陽系における地球や天王星、冥王星の軌道とよく似ています。そこでは、太陽系にあるのと似た惑星が形成されていることを伺わせます。したがって、このような隙間がどんな構造をしているのか詳しく調べれば、惑星が形成される過程やその様子を明らかにすることができるはずです。

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図1:うみへび座の姿とTW星の位置。

観測の特徴

アルマ望遠鏡による2周波数での電波観測
茨城大学の塚越崇 助教を中心とする研究チームは、うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤の構造を詳しく調べるため、大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」(図2)を使用した観測を行いました。円盤内にある極低温(氷点下250℃程度)の塵は目に見える光では輝いていませんが、電波では輝いていることが知られています。アルマ望遠鏡を用いて電波で観測することにより、光では見ることのできない円盤内の冷たい塵を見ることができます。

今回の研究では、145GHzと233GHzという異なる二つの周波数の電波で観測をしています。異なる周波数の電波の強度は塵の大きさに関係しているため、二つの周波数の電波強度を比較することで、円盤内で塵の大きさが場所によってどのように異なっているのかを調べることが出来るのです。

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図2:今回の観測で使用したアルマ望遠鏡
クレジット:国立天文台

観測の結果

円盤の隙間には小さい塵が満ちていた
今回、我々が行ったアルマ望遠鏡による観測でも、これまで見つかっていた隙間があることが確かめられました(図3、[1])。今回の研究では、最も顕著な22天文単位にある隙間に着目しました。この隙間における2つ周波数の電波強度の比(強度比)は、隙間の周囲に比べて有意に高くなっていることが分かりました(図4参照)。塵が小さいほど、それが放つ電波の強度比は高くなるので、強度比が高いところでは、大きい塵が少なくなっていることを示しています。つまり、着目した隙間では大きい塵が少なくなり、小さい塵だけが多く残っていることが明らかになりました。一般的に、大きい塵は数ミリメートル程度、小さい塵は数マイクロメートル程度の大きさだと考えられていますが、今回の観測だけでは具体的な塵の大きさを精度よく決定することは出来ません。この点を明らかにする観測が、今後計画されています(「今後の研究の発展」の項を参照)。

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図3:アルマ望遠鏡による 観測によって得られたうみへび座TW星の画像。画像を見やすくするために、ここでは観測した二つの周波数での電波強度を足し合わせたものを示す。比較のため、同じ距離から太陽系を見た場合の木星と海王星の軌道に相当する大きさを右下に示す。
クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.

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図4:アルマ望遠鏡で観測した二つの周波数間での電波強度比。半径22天文単位のところ(赤い点線)で強度比が優位に高くなっていることがわかる。

円盤の隙間では巨大氷惑星が生まれているかもしれない
これまでに成された理論的な研究によると、円盤の中に惑星が存在し、それが隙間を作っている場合、円盤のガスと塵の相互作用によって大きめの塵が隙間の中からはじき出され、隙間の中には小さい塵のみが残ると予想されています。今回の観測では、それとよく一致した結果が得られました。

では、どのくらいの重さの惑星が存在するのでしょうか?別の理論的な研究(例えば、2015年に示された金川らの研究)では、隙間の幅と深さ(周囲の明るい部分との光度比)と、それを作った惑星の重さとの関連が予想されています。この研究結果を利用し、今回の観測結果から、隙間を作っている惑星の重さを見積もります。画像から分かる明るさの分布は、実際の塵の分布とは厳密には異なりますが、今回の場合、これらはほぼ同一のものとして考えることができます。観測で得られたこの隙間の幅はおよそ5天文単位でした。また、隙間の中と外とでの明るさの比は、平均で0.5程度でした。よって、今回の観測結果と、上述の理論研究とを比較してみると、図5のように、データは理論研究による予想線上にあり、惑星の重さが海王星より少し重いくらいであることが分かりました。加えて、中心星から22天文単位という距離は、太陽系では天王星と海王星の軌道の間に相当します。うみへび座TW星が太陽とほぼ同じ重さであることを考えると、ここで誕生している惑星は天王星や海王星とよく似た巨大氷惑星である可能性が高いと我々は考えています。

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図5:金川ら(2015,2016年)の理論研究に基づいた、隙間構造と惑星質量の関係の予想線

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図6:今回の観測に基づいた、うみへび座TW星の想像図
クレジット:国立天文台

今後の研究の発展

本研究によって、うみへび座TW星の原始惑星系円盤で発見された半径22天文単位の隙間は、その中に惑星が存在する可能性が極めて高いことがわかりました。一方で、異なる方法で惑星形成のさまざまな可能性を探ることも重要です。我々の研究グループでは、本研究結果を受けて、アルマ望遠鏡の次期観測に繋げています。

一つは電波偏光を捉える観測です。最近の理論計算では、電波偏光を観測することで、塵の大きさをより正確に見積もることが可能であることが示されています。したがって、電波偏光が観測できれば、本研究とは別の方法で塵の大きさを調べることができます。もう一つは、隙間でのガスの量を調べる観測です。円盤のほとんどはガス成分であり、形成される惑星の性質もガスの量に依存します。ガスの分布を調べることで、より正確に惑星質量を見積もることができるでしょう。

[1] うみへび座TW星はこれまでにもアルマ望遠鏡で観測されてきました。たとえば2016年3月には、米国のグループがアルマ望遠鏡を用いて高い解像度で、うみへび座TW星を観測し、円盤に複数の隙間を発見したことを発表しました(参考:2016年3月31日 最新情報「地球に似た軌道を持つ惑星の誕生現場を若い星のまわりで初めて観測」)。しかし、この観測は1周波数のみを用いたものであり、塵の大きさまではわかりませんでした。

用語説明

【天文単位】 距離や大きさの単位。1天文単位は太陽と地球の距離で、約1億5000万kmに相当する。

【アルマ望遠鏡】 日本をはじめとする東アジア、北米、欧州などが協力して南米チリに建設した、巨大電波望遠鏡です。66台のパラボラアンテナを結合させてひとつの巨大な電波望遠鏡として機能させることができ、星や惑星の材料となる冷たい塵やガスが放つ電波をこれまでにない感度と解像度で捉えることができます。

【周波数】 電波や赤外線、我々の目で見える可視光線などは総称として「電磁波」とよばれ、電場と磁場が振動する波が空間を伝わっていきます。この波が1秒間に振動する回数を「周波数」と呼び、単位Hz(ヘルツ)で表します。電磁波はこの周波数の違いによって異なる性質を示します。電波は電磁波の中でもっとも周波数が低く、国際電気通信連合による定義では周波数3THz(テラヘルツ、1秒間に1兆回の振動に相当)よりも周波数が低いものが電波と呼ばれます。

【電波偏光】 電磁波の振動の方向はその進行方向に対して垂直であり、一般的な電磁波ではさまざまな方向の振動面の電磁波が重なり合っています。振動面がある方向に偏った状態を「偏光」と呼びます。塵が放つ電波や塵によって散乱される電波は特定の偏光を持つことが知られており、塵の性質を調べる重要な手がかりになります。

論文・研究チームについて

この研究成果は、2016年日本天文学会秋季年会の以下の講演にて発表されます。
星惑星形成 P124a 「TW Hyaの原始惑星系円盤に対するALMAを用いた高分解能多周波観測」塚越 祟(茨城大学)ほか

この研究成果は、Tsukagoshi et al. “A Gap with a Deficit of Large Grains in the Protoplanetary Disk around TW Hya” として、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に受理されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

  • 塚越崇(茨城大学)
  • 野村英子(東京工業大学)
  • 武藤恭之(工学院大学)
  • 川邊良平(国立天文台)
  • 石本大貴(東京工業大学/京都大学)
  • 金川和弘(University of Szczecin)
  • 奥住聡(東京工業大学)
  • 井田茂(東京工業大学)
  • Catherine Walsh(University of Lees)
  • T.J. Millar(Queen’s University Belfast)

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 24103504, 23103004, 23103005, 25400229, 26800106, 15H02074, 16K17661)、ポーランド国立科学センターMAESTRO grant DEC-2012/06/A/ST9/00276からの支援を受けて行われました。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA, “アルマ望遠鏡”)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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