アルマ望遠鏡がシャープにとらえた惑星誕生20の現場

宇宙には、太陽系のような惑星系が数多く発見されています。その数は4000にも迫るほどで、太陽系とは似ても似つかぬ惑星系があることも判明しています。では、そもそも惑星とはどのようにできるのでしょうか? 多様な惑星系はどのように作られ、どんな場所であれば地球のようなサイズ・環境の惑星ができるのでしょうか? 太陽系外惑星の研究は、私たちが住む地球のルーツにも謎を投げかけています。

この謎に答えるには、惑星系誕生現場を詳しく調べる必要があります。今回、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのショーン・アンドリュース氏らのチームは、アルマ望遠鏡を使って惑星系誕生現場の大規模観測に挑みました。DSHARP(Disk Substructures at High Angular Resolution Project: 高解像度による原始惑星系円盤構造観測プロジェクト)と名付けられたこの大規模観測計画 [1] では、20個の若い星をアルマ望遠鏡の高い解像度で観測し、星のまわりにある塵の円盤(原始惑星系円盤)の姿をとらえることを目的としています。これにより、原始惑星系円盤の構造や惑星が誕生するのにかかる時間など、惑星系誕生に関わるさまざまな情報が得られます。

アルマ望遠鏡がとらえた20の惑星系誕生現場

アルマ望遠鏡がとらえた20の惑星系誕生現場
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Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Andrews et al.; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

観測の結果を総合すると、太陽系の天王星や土星に似た大きさ・組成の比較的大きな惑星は、現在理論的に提唱されているよりもずっと短い時間で作られるのではないか、と研究チームは考えています。そして、こうした大きな惑星たちは、中心星から遠く離れた惑星系の外側で作られることが多いようです。

アンドリュース氏は「この観測計画のゴールは、たくさんの原始惑星系円盤を観測して類似点と相違点を探すことでした。今回の観測では、さまざまな質量の若い星をターゲットにして、そのまわりの円盤の詳細な構造をはっきりと描き出しています。アルマ望遠鏡の圧倒的な高解像度により、これまで見えなかった構造や予想もされていなかった複雑なパターンも見えてきました。細かな構造がいろいろと見えていますが、これは円盤の中に既に惑星が作られていて、その重力によって円盤物質の分布が影響を受けているのではないかとも考えられるのです。」

惑星形成の標準的なシナリオでは、原始惑星系円盤の中で小さな塵やガスが次第に集まって惑星になるとされています。最初の段階では塵はマイクロメートルサイズですが、これらが合体しあって小石サイズになり、さらに合体して岩くらいの大きさになり、さらに合体を繰り返して微惑星、原始惑星、そして惑星になるのです。こうした段階的な成長は、何百万年もかかると考えられます。
一方で、原始惑星系円盤にはさまざまな構造があることがわかってきています。同心円状の隙間(塵が少ない部分)やリング構造、三日月形に塵が集中している場合や渦巻構造を持つ場合もあります。これらの成因はまだはっきりしていませんが、すでに円盤の中に作られつつある惑星の重力によってさまざまな構造ができるのではないか、と考える研究者もいます。

もし惑星の誕生に何百万年もかかるとしたら、さまざまな構造はより進化した原始惑星系円盤の中で見つかるはずです。しかし今回の観測結果は、かならずしもそうではないことを示しています。今回観測された天体の年齢はおよそ20万歳から1300万歳と幅広いですが、若い段階の原始惑星系円盤でも惑星の存在を示唆する構造が見えているのです。

「これまでの観測で、惑星によって作られたものかもしれない構造を原始惑星系円盤の中に見出せたことは、とても驚くべきことでした。そして、この構造が一般的なものなのか例外的なものなのかを調べることが重要になります。」と、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターで学ぶ大学院生のジェーン・ファン氏はコメントしています。

アルマ望遠鏡を使ってこれまでに人類が手にした原始惑星系円盤の高精細画像は数個しかなかったため、そこから包括的な結論を導き出すことはできませんでした。もしかしたら、例外的な天体だけを観測していたのかもしれないからです。より多くの原始惑星系円盤を観測することが、その構造の成因を議論する上では必要でした。そこで、今回のDSHARPでは20個の原始惑星系円盤がターゲットとなったのです。

アルマ望遠鏡の高い解像度により、DSHARPでは円盤の数天文単位(1天文単位は地球と太陽の距離およそ1億5000万キロメートルに相当)のスケールを見分けることができるようになりました。その結果、同心円の隙間構造や細いリング構造はほぼすべての円盤に見られるのに対し、渦巻構造や三日月状構造は一部の円盤にしか見られないことがわかりました。また隙間やリングの大きさはさまざまで、星から数天文単位のところにあるものもあれば、100天文単位以上遠い場所にあるものも見つかりました。100天文単位は、太陽系で言えば海王星軌道の3倍にも及ぶスケールです。

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アルマ望遠鏡がとらえたAS209、HD143006、おおかみ座IM星、AS205。AS209は地球から約400光年の距離にある年齢約100万歳の天体で、幾重もの塵のリングが写し出されています。HD143006は地球からの距離約540光年、年齢約500万歳で、円盤の2重のリング状構造の外側には左下に明るい部分が見えています。ここには塵が集中していると考えられます。おおかみ座IM星(IM Lup)は地球からの距離約515光年で、円盤には渦巻模様が刻まれています。渦巻きは、見えない惑星の重力によって作られたか、あるいは円盤自身の重力的な不安定性によって作られたものかもしれません。AS205は地球から距離約420光年にある連星系を成す若い星で、それぞれの星のまわりに塵の円盤ができています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) S. Andrews et al.; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

「アルマ望遠鏡がおうし座HL星の原始惑星系円盤を高解像度でとらえたとき(2014年)は、この円盤は知られている中でも非常に明るく重いものだったので、これが平均的な惑星誕生現場の姿であるかどうか私たちは断言できませんでした。今回の観測を通して、おうし座HL星が特別変わった星ではないこと、むしろ一般的な惑星の誕生現場であるかもしれないということがわかったのです。」と、チリ大学のラウラ・ペレス氏はコメントしています。

DSHARPで写し出された円盤内の隙間やリング構造は、地球サイズの岩石惑星がどのようにして作られ、成長していくのかという謎に迫るヒントにもなります。これまでの理論では、塵が合体して数センチメートルくらいになると、周囲のガスとの摩擦によって公転の勢いが失われ、中心の星に落下してしまうという問題が指摘されていました。これでは、地球のようなサイズの惑星を作ることはできません。一方で、今回のアルマ望遠鏡による観測で見えてきた高密度の塵のリングは、塵が長期間安定して成長できる場所かもしれないのです。

DSHARPがもたらした豊富なデータには、まだまだ新発見が眠っているに違いありません。さらに研究チームは、DSHARPがアルマ望遠鏡によるさらなる高解像度原始惑星系観測の土台になることを期待しています。

論文・研究チーム
この観測成果は、以下の一連の論文として、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されます。
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): I. Motivation, Sample, Calibration, and Overview: S. Andrews, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): II. Characteristics of Annular Substructures,” J. Huang, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): III. Spiral Structures in the Millimeter Continuum of the Elias 27, IM Lup, and WaOph 6 Disks,” J. Huang, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): IV. Characterizing Substructures and Interactions in Disks around Multiple Star Systems,” N. Kurtovic, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): V. Interpreting ALMA Maps of Protoplanetary Disks in Terms of a Dust Model” T. Birnstiel, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): VI. Dust Trapping in Thin-Ringed Protoplanetary Disks,” C. Dullemond, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): VII. The Planet-Disk Interactions Interpretation” S. Zhang, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): VIII. The Rich Ringed Substructures in the AS 209 Disk,” V, Guzmán, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): IX. A High Definition Study of the HD 163296 Planet Forming Disk” A. Isella, et al.
・“The Disk Substructures at High Angular Resolution Project (DSHARP): X. Multiple Rings, a Misaligned Inner Disk, and a Bright Arc in the Disk around the T Tauri Star HD 143006,” L. Pérez, et al.

研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Sean M. Andrews (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics), Jane Huang (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics), Laura M. Pérez (Universidad de Chile), Andrea Isella (Rice University), Cornelis P. Dullemond (Heidelberg University), Nicolás T. Kurtovic (Universidad de Chile), Viviana V. Guzmán (Joint ALMA Observatory/Pontificia Universidad Catolica de Chile), John M. Carpenter (Joint ALMA Observatory), David J. Wilner (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics), Shangjia Zhang (University of Nevada), Zhaohuan Zhu (University of Nevada), Tilman Birnstiel (Ludwig-Maximilians-Universität München), Xue-Ning Bai (Tsinghua University), Myriam Benisty (Universidad de Chile/CNRS), A. Meredith Hughes (Wesleyan University), Karin I. Öberg (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics), Luca Ricci (California State University Northridge)


 
1 DSHARPは、「アルマ望遠鏡大規模観測計画 (ALMA Large Program)」に位置づけられています。これは、50時間以上の長い時間を投じて行う観測プロジェクトで、2016年10月に始まった「科学観測サイクル4」で初めて導入されました。DSHARPの他、遠方銀河や爆発的星形成銀河、銀河系内の星形成領域など、いくつもの大規模観測計画が進行中です。

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