アルマ望遠鏡バンド1受信機、ファーストライトを達成

国際協力の下で開発を続けてきたアルマ望遠鏡のバンド1受信機が、チリのアルマ望遠鏡山麓施設でアンテナに搭載されました。そして2021年8月14日に、月からの電波を初めて受信する「ファーストライト」に成功しました。アルマ望遠鏡の受信機の中でも最も低い周波数帯の電波を観測できるバンド1受信機を用いることで、冷たい宇宙の観測がより大きく前進することが期待されます。

アルマ望遠鏡では、観測する電波を10の周波数帯(バンド)に分け、それぞれのバンドに特化した専用の受信機を開発しました。これまでにバンド3からバンド10まで(84 GHzから950 GHz)の8種の受信機が搭載され、世界中の天文学者に使われてきました。今回ファーストライトに成功したバンド1受信機は、周波数35 GHz~50 GHz(波長では6mmから8.5mm)の電波を観測するために開発されました。バンド1受信機の開発は、東アジア・アルマ開発プログラムの一環として、台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)を中心に国立天文台およびカナダ・ヘルツベルグ天体物理学研究所、アメリカ国立電波天文台、チリ大学の国際協力で行われました。

 

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ASIAAで組み立てられたアルマ望遠鏡バンド1受信機
Credit: ASIAA

 

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アルマ望遠鏡山麓施設でアンテナ搭載前の最終組み立てが行われるバンド1受信機
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)


 

どのような観測装置にとっても、天体からの電磁波を初めて受ける「ファーストライト」は、特別な瞬間です。望遠鏡(アンテナ)で集めた電磁波を受信機に取り込み、それを電気信号に変換し、データ処理システムを通してディスプレイにデータが表示されるまでの、一連の仕組みを試験することができるからです。およそ10年にわたるバンド1受信機開発ののちに、2021年8月14日、月からの電波を初めて受信しました。その後、8月17日に受信機を搭載した2台のアンテナでの初めての干渉計試験、8月27日に初めての天体電波スペクトルの取得に成功しました。これら一連の試験観測では、金星や火星、星が誕生する現場「オリオンKL領域」や、年老いた星「おおいぬ座VY星」、遠方クエーサー「3C 279」といった、近距離から遠距離にわたるさまざまな天体からの電波を観測し、この受信機の性能が確認されたのです。

 

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バンド1受信機の試験観測で得られた、年老いた星おおいぬ座VY星のスペクトル。43GHz付近の3本の輝線スペクトルが、一酸化ケイ素(SiO)分子が放出した電波スペクトルです。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)


 

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう中、受信機をアルマ望遠鏡アンテナに搭載し試験観測を行う過程には今までにない困難が伴いました。合同アルマ観測所シニアエンジニアのジョルジオ・シリンゴ氏は「最も困難だったことは、関連するスタッフの調整をすべてリモートで行う必要があったことです。ファーストライトに向けた調整は、パンデミック下にある異なる大陸をつないで行いました。」と語っています。

今回ファーストライトを迎えたバンド1受信機が全アンテナに搭載されれば、さまざまな天文学分野で研究の大きな進展が見込まれます。アルマ望遠鏡の全受信機の中で最も周波数が低い電波を観測できるバンド1受信機を使えば、遠方銀河から届く大きく赤方偏移した電波をとらえることができます。また、星が誕生する領域での磁場の測定や惑星誕生現場の観測などでも活躍が期待されます。

ASIAAでバンド1受信機のプロジェクトサイエンティストを務めるシーウェイ・ヤン氏は「バンド1受信機は、惑星形成の現場に散らばっている数センチメートルサイズの塵や小石のようなものから放射される電波を検出することができます。これによって、塵が成長して惑星が出来上がる過程を研究することができるのです」と語っています。

ASIAAのパトリック・コック バンド1受信機プロジェクト主任研究者は、「バンド1受信機の実現は、天文学における電波観測装置開発の最先端を行く台湾の優れた技術力を示すものであり、最も先進的な観測施設の重要なコンポーネントに貢献できています。」とコメントしています。

東アジア・アルマプロジェクトマネージャを務めるアルバロ・ゴンサレス国立天文台准教授は、「バンド1受信機のファーストライトは、東アジアのアルマ開発プログラムにおける大きな到達点のひとつといえます。多くの研究者が期待している新しい受信機が科学観測で使用できるようになるまで、あと一歩のところまで来ました。また、これはアルマ望遠鏡における国立天文台とASIAAの長期にわたる協力関係にとっても大きな成果です。」とコメントしています。

台湾でのバンド1受信機の製造は最終段階に入っており、2023年に開始されるアルマ望遠鏡科学観測サイクル10で世界中の研究者への共同利用に供することを目指しています。

アルマ望遠鏡について
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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