アルマ望遠鏡、形成途上の星の周囲の豊かな化学進化と予想外のメーザー放射を発見

アルマ望遠鏡による大規模なサーベイ観測を進める国際研究チームは、形成途中の若い星の周囲で有機分子がどのように作られるかについて新たな知見をもたらしました。その結果、極めて珍しいメタノール分子の検出や、太陽のような恒星へ成長する若い星の周囲にもメーザー放射が広く存在することを発見しました。
(この記事は、2026年10月7日に米国立電波天文台から発表されたニュースに基づくものです。)

アルマ望遠鏡による大規模観測プロジェクトCOMPASS(Complex Organic Molecules in Protostars with ALMA Spectral Surveys:原始星周辺の複雑な有機分子に対するアルマ望遠鏡分光探査)は、デンマーク・コペンハーゲン大学のイェス・ヨルゲンセン氏を筆頭に欧州、北米、そして韓国、日本、台湾を含む東アジアの研究者も参加する国際共同研究プロジェクトです。太陽のような小質量星へと成長する11個の近傍原始星を対象に、その化学組成を系統的に調査しています。アルマ望遠鏡は、非常に微弱な分子の「指紋」を捉え、それぞれの分子が原始星の周囲にどのように分布しているかを、太陽系と同程度のスケールで詳しく描き出すことができます。100時間を超える観測によって得られたデータは、小質量星形成の初期段階における最も詳細な分子組成の記録の一つとなっています。今回、7編の論文として発表されたCOMPASSの初期成果は、若い星の周囲の化学環境が従来考えられていた以上に多様で活発であり、原始星の周囲にある、将来惑星の材料となる可能性のある物質には、すでに豊富な分子が含まれていることを示しました。

COMPASSの最初の成果の中で、中心的なテーマとなったのがメタノールです。メタノールはもっとも単純なアルコール分子で、宇宙空間でより複雑な有機分子を作り出す重要な鍵を握ると考えられます。低温の星間空間では塵(ちり)粒子の表面に凝結した氷の中で効率よく形成され、やがて若い星が周囲を温め始めると、メタノールは気体として放出されます。そのためメタノールは星形成領域の化学変化のトレーサー(追跡指標)であると同時に、より複雑な有機分子の成長の出発点でもあります。
大きな成果の一つは、通常のメタノールに含まれる水素原子がすべて重水素に置き換わった「完全重水素化メタノール(CD₃OD)」の検出です。宇宙にある重水素は通常の水素よりはるかに少ないため、CD₃ODを検出することは非常に困難です。COMPASS観測は、地球から約1000光年の距離にあるペルセウス分子雲の原始星IRAS 4A2の周囲でこの分子を発見しました。この成果は、星や惑星が形成される以前の段階から、氷に覆われた塵粒子表面の化学反応によって希少で複雑な分子が効率よく生成されることを示す強力な証拠となります。

もう一つの重要な発見は、小質量原始星の周囲においてメタノールメーザー放射が従来考えられていたよりもはるかに一般的に見られることです。メーザーは、特定の条件下で分子が電波を増幅することで生じる天然の「電波ビーコン」です。これまでメタノールメーザーは主に大質量星形成領域で発見されていましたが、COMPASSでは観測対象となった小質量原始星の半数以上でメタノールメーザーを検出しました。これは、十分な感度で観測すれば、メタノールメーザーを生み出す環境が、星形成初期の比較的一般的な特徴である可能性を示しています。この発見は、ソウル大学校の大学院生であるチョン・ジェホン氏が主導しており、COMPASSの共同研究、そしてアルマ望遠鏡による科学研究における東アジア研究者の重要な貢献を示しています。

「今回の成果は、恒星形成のごく初期段階がすでに豊かな化学組成を持っていることを示しています。」とCOMPASSプロジェクトの共同研究代表者でソウル大学校のイ・ジョンウン氏は述べています。「アルマ望遠鏡によって、非常に弱い分子や希少な分子、さらには他の多くのスペクトル線に埋もれていた分子の信号まで検出できるようになりました。COMPASSによって、惑星が誕生する以前の段階で化学的複雑さがどのように発達するのかが見え始めています。」

アルマ望遠鏡の高い感度と広い周波数帯域は、希少な同位体分子やメーザー放射を含む微弱な分子輝線の特定を可能にします。また、個々の天体や特定の分子だけを対象とした従来の研究とは異なり、COMPASSは複数の原始星に対する統一的なサーベイです。系統的なアプローチにより、形成中の星ごとの化学組成の違いやその進化、さらには化学的に豊かな物質がどのように惑星形成円盤へ運ばれるのかを比較研究できます。

こうした研究によって、星間雲から原始星、惑星形成円盤、そして最終的な惑星系まで、化学進化のつながりが理解できるようになります。COMPASSの初期成果は、若い星が将来惑星や彗星、小天体へ取り込まれる可能性のある有機分子を含む潤沢な「化学物質の素材」に囲まれていることを示しました。研究チームは今後も11個の原始星すべてのデータ解析を進め、形成中の星々に見られる化学的多様性が誕生環境に由来するものなのか、それとも星や惑星の形成過程で生み出されるのかを明らかにしていく予定です。

 

COMPASS_Fig1_HOPS373

図1:COMPASSで観測された原始星の一つ HOPS 373 のアルマ望遠鏡による電波画像。左端はホルムアルデヒド(H₂CO)の分布を示し、右の3枚は異なるメタノール(CH₃OH)遷移の分布を示している。2枚目の画像で強く検出されたメタノールメーザー候補を、3・4枚目のメタノール分子の熱的な輝線放射の分布に青色の等高線で重ねてある。最も強いメーザー放射の位置を赤い十字で示す。緑色の等高線は、中心星によって加熱された塵から放射される1ミリ波連続波の分布を示す。(Jeong et al. の図1をもとに作成)

 

 

Methanol_maser_press_release

図2:原始星の周囲で生じる電波放射の想像図。中心にある非常に若い星は原始惑星系円盤に包まれている。メタノールのメーザー放射(青色)は、アウトフローが作る空洞の縁や弓状の衝撃波面(バウ・ショック)に沿ったメタノールの熱的放射(赤色)に伴っているが、よりコンパクトな塊状の構造に集中している。(クレジット:Jae-Hong Jeong / Jeong-Eun Lee / NRAO)

この研究成果は、7本の論文にまとめられてAstronomy & Astrophysics 誌に2026年10月7日付で掲載されました。

• COMPASS I. Overview of the ALMA Large Program (J. K. Jørgensen et al.), DOI: 10.1051/0004-6361/202558725
• COMPASS II. Approach to data reduction and products for line-rich broadband (sub)millimeter spectra (Adele L. Plunkett et al.), DOI: 10.1051/0004-6361/202558751
• COMPASS III. CH3OH isotopic fractionation in the low-mass protostar BHR71-IRS1 (A. Coutens et al.), DOI: 10.1051/0004-6361/202558733
• COMPASS IV. Methyl cyanide isotopologues toward BHR71-IRS1 (P. Nazari et al.), DOI: 10.1051/0004-6361/202558748
• COMPASS V. Tracing cavity walls and shocked knots with nonthermally desorbed CH3OH in BHR71-IRS1 (H.-S. Yun et al.), DOI: 10.1051/0004-6361/202558732
• COMPASS VI. Discovery of a class I methanol maser transition and its association with acetaldehyde (J.-H. Jeong et al.) DOI: 10.1051/0004-6361/202558734
• COMPASS VII. First interstellar detection of fully deuterated methanol (A. Belloche et al.), DOI: 10.1051/0004-6361/202659642

本研究は、韓国研究財団(NRF)の研究助成を受けて進められたものです。

関連リンク:

• Cosmic cocktail: Exotic methanol discovered in planet-forming region (アメリカ国立電波天文台プレスリリース)
• Cosmic cocktail: Exotic methanol discovered in planet-forming region (マックス・プランク電波天文学研究所プレスリリース)
• ALMA Large Program COMPASS

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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