データに眠る宇宙の姿を掘り起こす:日本発のアルマ望遠鏡のイメージングツール「PRIISM」

アルマ望遠鏡がこれまでに取得した観測データには、従来の標準的なイメージングの手法ではぼやけて見えなかった細かな構造が眠っています。日本の研究者らが開発したイメージングツール「PRIISM(プリズム)」は、こうした構造をデータに忠実に描き出します。過去の観測データの再解析からは、原始惑星系円盤のリングやすき間など、惑星形成の手がかりとなる構造の発見が続いています。ツールの仕組みとこれまでの成果、今後の展開を紹介します。

アルマ望遠鏡は、多数のアンテナで受けた電波を組み合わせて一つの大きな望遠鏡のようにはたらく「電波干渉計」です。ただし、観測で得られるのは天体の画像そのものではなく、天体の像の空間的な広がりを反映した一部の情報だけです。この不完全なデータから画像を組み立てる作業を「イメージング」と呼び、電波天文学では50年ほど前に考案された「CLEAN」という手法が今も標準的に使われています。

PRIISM[1,2]は、日本の研究者らが開発したツールで、限られた情報から本質的な構造を取り出す「スパースモデリング」という統計数理の考え方をイメージングに応用しています。観測データとよく合うことを条件に、「天体の像は余計な成分をなるべく含まず、なめらかに変化する」という性質を手がかりにして、もっとも確からしい画像を求めます。画像の作成には様々な調整用パラメータが必要ですが、それらもデータとの整合性を調べることで自動的に決めるよう設計されています。それにより、解析する人によらず同じ結果が得られます。PRIISMはアルマ望遠鏡の標準解析ソフトウェアと連携して使うことができ、オープンソースとして公開されています。

CLEANでは、仕上げの段階で画像をわざとぼかす処理を必要とします。そのため、データに含まれる細かな構造がぼやけてしまいます。PRIISMはこの処理を使わず、観測データと最もよく合う画像を直接求めるため、同じデータからより細かな構造まで描き出すことができます(図を参照)。つまり、新たな観測をしなくても、データに眠っていた情報を引き出せるのです。

PRIISMが特に成果を上げてきたのが、生まれたばかりの星を取り巻くガスと塵(ちり)の円盤「原始惑星系円盤」の研究です。惑星はこの円盤の中で誕生します。惑星が育つと周りの塵を押しのけてすき間ができると考えられており、リングやすき間は惑星誕生の現場を探る手がかりになります。アルマ望遠鏡の公開データを系統的に調べた研究では、おうし座の43個の円盤で見つかった24本のリングやすき間のうち半数が、PRIISMによって初めて見えたものでした[3]。すき間の幅と深さの関係も、惑星がすき間を作ったと考えるモデルと整合しています[3]。へびつかい座の78個の円盤では、星が生まれて数十万年という若い段階から、こうした構造が現れ始めていることが示されました[4,5]。個々の天体を見比べると、複数の星が回り合う系や、生まれたばかりの惑星が見つかっている系、明るさが爆発的に変わる星を囲む系など、さまざまな環境の円盤で新たな構造が見つかっています[6–10]。

PRIISMの開発は現在も続いています。観測データの較正(こうせい)とイメージングを同時に行う機能は「PRIISM-selfcal」として公開が始まっており[11]、分子ガスの動きをとらえる3次元データへの対応や、銀河など円盤以外の天体への応用に向けた取り組みも進められています。蓄積された膨大なデータに新しい手法を適用することで、アルマ望遠鏡の成果はさらに広がっていくと期待されます。

gallery_switch_20261013

図:アルマ望遠鏡のアーカイブデータから作成した、おうし座とへびつかい座の星形成領域にある原始惑星系円盤(計125天体)の画像。従来の手法(CLEAN)による画像と、PRIISMによる画像を切り替えて表示している。同じ観測データから、PRIISMではリングやすき間などの細かな構造がより鮮明に見える。(クレジット:PRIISM開発チーム)

2枚を並べて比較した静止画はこちら。

関連リンク

•アルマ望遠鏡プレスリリース「新たな超解像度画像解析で発見!星誕生直後の惑星形成の第一歩」(2025年6月24日)

•天文月報2026年8月号 特集「アルマ望遠鏡イメージングツール・PRIISM」
»    アルマ望遠鏡イメージングツール PRIISMの概要
»    アルマ望遠鏡イメージングツール PRIISMが拓くサイエンス: 原始惑星系円盤の微細構造
»    アルマ望遠鏡イメージング ツールPRIISMの 今後の展望

ツール公開(GitHub)
»     PRIISM:https://github.com/tnakazato/priism
»     PRIISM-selfcal:https://github.com/ikeda46/priism-selfcal

引用文献

[1]Nakazato, T., & Ikeda, S. 2020, PRIISM: Python module for Radio Interferometry Imaging with Sparse Modeling, Astrophysics Source Code Library, ascl:2006.002
https://ascl.net/2006.002

[2]Nakazato, T., Ikeda, S., Kosugi, G., & Honma, M. 2020, SPIE, 11453, 114532V
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2020SPIE11453E..2VN/abstract

[3] Yamaguchi, M., Muto, T., Tsukagoshi, T., et al. 2024, PASJ, 76, 437. ALMA 2D super-resolution imaging of Taurus–Auriga protoplanetary disks: Probing statistical properties of disk substructures.
https://academic.oup.com/pasj/article/76/3/437/7675749

[4] Shoshi, A., Yamaguchi, M., Muto, T., et al. 2025, PASJ, 77, 572. ALMA 2D super-resolution imaging survey of Ophiuchus Class I/flat spectrum/II disks. I. Discovery of new disk substructures.
https://academic.oup.com/pasj/article/77/3/572/8117664

[5] Shoshi, A., Yamaguchi, M., Muto, T., et al. 2026, PASJ, published. ALMA 2D super-resolution imaging survey of Ophiuchus Class I/flat spectrum/II disks. II. Statistical analysis of stellar and disk properties
https://doi.org/10.1093/pasj/psag087

[6] Yamaguchi, M., Tsukagoshi, T., Muto, T., et al. 2021, ApJ, 923, 121. ALMA Super-resolution Imaging of T Tau: r = 12 au Gap in the Compact Dust Disk around T Tau N
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ac2bfd

[7] Shoshi, A., Muto, T., Bosschaart, Q., et al. 2025, ApJ, 993, 90. ALMA High-resolution Observation for the Transitional Disk Around IRAS 04125+2902
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ae045a

[8] Shoshi, A., Yamaguchi, M., Omura, M., et al. 2026, ApJ, 998, 214. Ring-gap Structures in the Class I Circumstellar Disk of CrA IRS 2 Associated with the Magnetic Flux-driven Bubble.
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ae394a

[9] Yamaguchi, M., Liu, H. B., Takami, M., & Gu, P.-G. 2025, ApJ, 993, 85. Peculiar Disk Substructures Associated with the Young Eruptive Star EX Lupi.
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/adff50

[10] Yamaguchi, M., Machida, M. N., Tominaga, R. T., et al. 2026, ApJ, 1006, 232. A Hybrid Origin for the Multiple Ring-gap Structures in the Large Protoplanetary Disk V1094 Sco: A Low-mass Planet and Secular Gravitational Instability
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ae819b

[11] Ikeda, S., Nakazato, T., Tsukagoshi, T., Takeuchi, T. T., & Yamaguchi, M. 2025, PASJ, 77, 260. Solving self-calibration of ALMA data with an optimization method
https://academic.oup.com/pasj/article/77/2/260/8015543

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

 

NEW ARTICLES