冷たい輝きを放つ天王星の環

天王星の環は大規模な望遠鏡でなければ観測できないため、1977年まで発見されることはありませんでした。しかし今回、チリのアタカマ砂漠にある2つの巨大望遠鏡、アルマ望遠鏡と欧州南天天文台VLT によって撮影された最新の画像では、天王星の環が驚くほど明るく目立っています。

nrao19cb_Uranusfits_06192019_SD-1024x1024

2017年12月にアルマ望遠鏡で撮影された、天王星とその環。天王星の大気に見える黒い部分には、電波を吸収する硫化水素(H2S)が広がっています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); Edward M. Molter and Imke de Pater)

環そのものが放つ電波や赤外線の輝きは、天王星の環を研究する上で新たな方法を天文学者たちにもたらしました。これまでは、太陽のわずかな反射光である可視光線だけを観測していたのです。アルマ望遠鏡とVLTによって撮影された今回の新しい画像から、天王星の環の温度を初めて測定できました。天王星の環の温度はマイナス196℃(絶対温度77ケルビン)で、液体窒素の沸点と同じです。この観測では、イプシロン環と呼ばれる最も明るく密度の高い天王星の環が、太陽系のほかの惑星の環、特に壮観で美しい土星の環とは異なる性質を持っていることも明らかになりました。

カリフォルニア大学バークレー校の天文学教授であるインキー・ド・ペーター(Imke de Pater)氏は、次のように述べています。「土星の環は主に氷でできていて、幅が広く、明るく見えます。粒子サイズはさまざまで、最も内側のD環にはマイクロメートルサイズの小さな粒子がある一方、他の主な環では数十mのものもあります。」「天王星の主な環には、マイクロメートルサイズの小さな粒子はありません。イプシロン環と呼ばれる最も明るい環は、ゴルフボールサイズかそれより大きい岩で構成されています。」比較してみると、木星の環は、主にマイクロメートルサイズの小さな塵でできています(1マイクロメートルは1000分の1㎜)。海王星の環も、大部分が塵で構成されています。

大学院生のエドワード・モルター(Edward Molter)氏は、次のように述べています。「イプシロン環は少し変わった存在であることがわかっています。小さな塵が見当たらないのです。何かが小さな塵を一掃しているのか、あるいは塵どうしがくっついてしまっているのか、まだわかっていません。今回の観測は、天王星のすべての環が同じ源から来たのか、それぞれの環で異なるのかなど、環の構成を理解するためのステップといえます。」今日までに、天王星の周りには合計13本の環が確認されています。13本の主な環の間にはうすく塵が広がっていることもあります。これらの環は、土星の環の構造とは異なります。

天王星の環の起源には、諸説あります。かつて重力によって捕えられた小惑星、互いに衝突して粉々になった衛星の残骸、天王星に近づき過ぎたときにばらばらになった衛星の残骸、あるいは45億年前の惑星形成時から残った破片ではないかという考え方もあります。「天王星の環は、土星の主な環とは構成が異なります。可視光線の反射率が極めて低く、木炭のように本当に暗いのです。」と、モルター氏は語っています。「天王星の環は、土星に比べて極めて幅が狭いのです。最も幅の広いイプシロン環は、20km から100kmの幅がありますが、土星の環の幅は数百kmから数万kmにも及びます。」

今回の研究では、カリフォルニア大学のド・ペーター氏とモルター氏がアルマ望遠鏡による観測を主導し、レスター大学のマイケル・ロマン(Michael Roman)氏とレイ・フレッチャー(Leigh Fletcher) 氏がVLTによる観測を主導しました。「アルマ望遠鏡やVLTを使って本研究を行えることは素晴らしいですね。できる限りベストな状態で天王星の画像を得ようと試みたことで、環まで見えました。これには驚きました。」とモルター氏は語っています。VLTとアルマ望遠鏡による観測は、いずれも天王星の大気の温度構造を調べることを目的としたものでした。VLTは、アルマ望遠鏡よりも短い波長(赤外線)を観測しています。フレッチャー氏は、「初めてデータ処理をした際、天王星の環がはっきりと浮かび上がったのを見て驚きました。」と述べています。

1986年にボイジャー2号が天王星を通過して直接撮影を行った際、主な環に塵サイズの粒子が存在しないことが初めて指摘されました。しかし、ボイジャー2号では環の温度測定はできませんでした。今回の観測結果は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡にとっても大きな可能性を秘めています。今後10年間で、天王星の環の分光観測によってより詳しい環の様子がわかることでしょう。

論文・研究チーム
この観測成果は、E. M. Molter et al. “Thermal Emission from the Uranian Ring System” として、天文学専門誌『アストロノミカル・ジャーナル』に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Edward M. Molter (University of California, Berkeley), Imke de Pater (University of California, Berkeley), Michael T. Roman (University of Leicester), and Leigh N. Fletcher (University of Leicester)

NEW ARTICLES