およそ100億年から120億年前の初期宇宙では、大量の塵(ちり)に覆われながら、天の川銀河の約500倍ものスピードで星を作り出す銀河が存在していました。「モンスター銀河」とも呼ばれるこれらの銀河は、現在の宇宙に存在する巨大な銀河の祖先であると考えられています。
モンスター銀河は、宇宙誕生後わずか20億年ほどで急速に星を作り成長したと考えられていますが、なぜこれほど激しい星形成が起きたのか、その要因は長らく銀河形成・進化の謎でした。
最近までは、「自然発生的な」星形成が主な要因であると考えられていました。しかし、モンスター銀河は非常に遠方に存在するため従来の観測では解像度が足りず、その詳細を明らかにすることが困難でした。さらに、同程度の高い解像度で複数の波長(=異なる物理成分)を同時に比較できる観測は限られており(例:2025.03.28名古屋大学研究成果)、星形成の起源を直接確かめることができていませんでした。
総合研究大学院大学/国立天文台の池田遼太氏および伊王野大介氏、北海学園大学の但木謙一氏が率いる国際研究チームは、ろくぶんぎ座の方向にある3つのモンスター銀河をアルマ望遠鏡とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)で詳細に観測しました。その結果、同じモンスター銀河であっても用いる望遠鏡によって大きく異なる姿を見せました。
アルマ望遠鏡とJWSTの世界最高レベルの解像度を活かした今回の研究で、3つのモンスター銀河(AzTEC-1, AzTEC-4, AzTEC-8)の星形成と恒星の両方の分布を同等の解像度で直接比較することに成功しました。アルマ望遠鏡は塵に隠された星形成を、JWSTは塵の影響を避けて恒星分布を捉えるのに適しています。両者を、最大で視力1000に相当する、約0.06秒角という極めて高い解像度にそろえて観測したことにより、モンスター銀河の星形成の起源を直接検証する研究に新たな進展がもたらされたのです。
解析の結果、3つの銀河では星形成と恒星の分布がいずれも大きく異なることが初めて明らかになりました(図1、図2)。さらに、これらの違いを精査したところ、1. 大きな銀河同士の衝突(AzTEC-1)、2. 内部重力による自然発生(AzTEC-4)、3. 小さな銀河との衝突(AzTEC-8)、という3つの異なるプロセスが、いずれもモンスター銀河の非常に活発な星形成を引き起こし得ることが、新たに示されました(*脚注)。今回の成果は、巨大銀河が成長期を迎える要因は単一ではなく、複数のメカニズムが関係していることを強く示しています。
研究チーム代表の池田遼太氏は「初めてこれらのモンスター銀河の多波長画像を見たとき、その多様な姿に非常に驚かされました。アルマ望遠鏡とJWSTという二つの最先端望遠鏡を活かすことで長年の銀河進化の謎に一石を投じることができ、嬉しく思います。」と語っています。
研究チームは今後、銀河のサンプル数を大幅に増やし、巨大銀河形成の多様性を統計的に検証し、天の川銀河を含む銀河形成の謎に迫ることを目指します。
図版・キャプション
図1:(上段)アルマ望遠鏡とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測画像。アルマ望遠鏡で捉えた星形成領域を青で、JWSTが捉えた恒星の分布を赤で示している。(下段)それぞれのモンスター銀河のイメージ図。(クレジット:国立天文台)
図2: アルマ望遠鏡とJWSTで見たAzTEC-8のイメージ図。アルマ望遠鏡とJWSTが捉える異なる成分を対比することで、モンスター銀河の「二つの顔」が浮かび上がった。(クレジット:国立天文台)
脚注
AzTEC-1:星形成は銀河全体に広がっている一方、恒星の分布は銀河の中心に集中しています。これは、大きな銀河同士の衝突により(星形成の材料である)ガスが中心に流入しつつ銀河全体にも広がり、中心では恒星が大量に形成されたことを示唆します。つまり、銀河衝突が星形成のスイッチとなった可能性が高いと言えます。
AzTEC-4:アルマ望遠鏡は2本の腕構造をもつ渦巻き構造をとらえました。一方JWSTでとらえた恒星の分布は、のっぺりとした円盤状であって強い渦巻き構造は見られません。このような構造は、AzTEC-1のような大規模な銀河同士の衝突では説明しにくく、内部の重力不安定性によって「自然発生的」に星形成が進んでいる可能性を示唆します。
AzTEC-8:アルマ望遠鏡がとらえた星形成はコンパクトに中心付近に集中している一方、JWSTがとらえた恒星分布は広範囲に広がり、複数の巨大な星のかたまりをともなっています。これは、比較的小さな銀河との衝突が星形成の引き金となった可能性を示唆します。
論文情報
この研究成果はIkeda et al. “Formation of Substructure in Luminous Submillimeter Galaxies (FOSSILS): Evidence of Multiple Pathways to Trigger Starbursts in Luminous Submillimeter Galaxies” としてAstrophysical Journal誌に2026年1⽉8⽇付けで掲載されました。
DOI:10.3847/1538-4357/ae157e
研究チームについて
池田遼太1,2, 伊王野大介1,2, 但木謙一3, Maximilien Franco4, Min S. Yun5, Jorge A. Zavala5, 田村陽一6, 津久井 崇史7, Christina C. Williams8 , 廿日出文洋1,2,9, Minju Lee10, 道山知成11, 三橋一輝12, 中西康一郎1,2, Caitlin M. Casey13, 五十嵐創14, Kianhong Lee6, 松田有一1,2, 斉藤俊貴15, Andrea Silva2, 梅畑豪紀6, 矢島秀伸16
1.総合研究大学院大学2.国立天文台 3.北海学園大学 4.パリ大学 5.マサチューセッツ大学 6.名古屋大学 7.東北大学 8.NSF NOIRLab 9.東京大学 10.デンマーク大学 11.周南公立大学 12.コロラド大学 13.カリフォルニア大学サンタバーバラ校 14.福岡工業大学 15.静岡大学 16.筑波大学
謝辞
本研究は、科学研究費助成事業(23KJ1006, 23K20870, 22H04939, 23K20035, 24H00004, 25K17441)、Marie Skłodowska-Curie grant agreement (No.101148925, No.101107795)の支援を受けて行いました。
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。