フレアは、星の表面で磁気エネルギーが解放されることによって起きる大爆発です。特に、太陽より質量のずっと小さな「赤色矮星」と呼ばれる星ではフレアが頻繁に起きていることが知られており、プロキシマ・ケンタウリもこの赤色矮星に含まれます。アルマ望遠鏡を使った観測でも、2017年にプロキシマ・ケンタウリのフレアが観測されました(参考:2018年2月26日発表『プロキシマ・ケンタウリの巨大フレアをアルマ望遠鏡が観測』)。この星のフレアを詳しく調べるため、2019年4月から7月にかけて、世界中と地球周回軌道上の9つの望遠鏡が一斉にプロキシマ・ケンタウリの観測を合計40時間にわたって行いました。
その観測が行われていた2019年5月1日(世界時)、アルマ望遠鏡、オーストラリアの電波望遠鏡ASKAP、ハッブル宇宙望遠鏡(紫外線)、NASAの太陽系外惑星探索衛星TESS(可視光)、チリのデュポン望遠鏡(可視光)が、プロキシマ・ケンタウリで発生した巨大なフレアを検出しました。その継続時間はわずか7秒間でしたが、太陽以外の恒星のフレアがこれほど様々な波長で観測されたのは、今回が初めてでした。
研究チームの代表を務めたメレディス・マクレガー氏(コロラド大学ボルダー校)は、「2018年より前には、赤色矮星のフレアが(アルマ望遠鏡が観測する)ミリ波で観測されたことはありませんでした。ですので、他の波長でも同時に明るくなっているかどうかはわからなかったのです」とコメントしています。
マクレガー氏は、「プロキシマ・ケンタウリは、紫外線では数秒の間に14000倍も明るくなりました」と語っています。またアルマ望遠鏡が観測したミリ波でも、通常の1000倍以上明るくなっていたことがわかりました。複数の波長で同時にフレアを観測できたことで、フレア発生時の星表面の磁場の強さや、荷電粒子のエネルギー分布を見積もることができました。また、フレアで発生する紫外線とミリ波の関係がわかったことも重要な結果でした。ミリ波の観測から紫外線強度を推測することで、星が周囲の惑星に与える影響を見積もることができるからです。
プロキシマ・ケンタウリのまわりには、惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が回っていることが知られています。プロキシマ・ケンタウリから惑星までの距離は近すぎず遠すぎず、惑星に地球のような大気があれば、惑星表面に水が液体として存在する可能性があります。プロキシマ・ケンタウリが地球から4.2光年と非常に近い場所にあることから、プロキシマ・ケンタウリbに生命が存在するかどうかが注目を集めています。
しかし、強い紫外線や高エネルギー粒子を放出するフレアは、惑星に大きな影響を与えます。太陽は11年周期で活動が活発になったり穏やかになったりしますが、強力なフレアが起きる頻度は1周期に数回だけです。しかし、プロキシマ・ケンタウリでは状況はまったく異なります。マクレガー氏は「プロキシマ・ケンタウリの惑星は、フレアの影響を少なくとも1日に1回、もしかしたら1日に何度も受けているでしょう。もしプロキシマ・ケンタウリの惑星に生命がいたとしたら、地球の生命とはまったく異なる見た目をしていると思います。人間がもしその惑星にいたら、ひどい目に合うことでしょう」とコメントしています。
今後も、プロキシマ・ケンタウリのフレアに隠されたたくさんの秘密に焦点を当てて研究することで、これほど強力なフレアを生み出すメカニズムを明らかにすることができるでしょう。マクレガー氏は、「星のフレアの物理を理解するために、この星がどんなサプライズを見せてくれるのかを楽しみにしています」と語っています。
この記事は、米国国立電波天文台が2021年4月21日に掲載したプレスリリース”Record-breaking stellar flare from nearby star recorded in multiple wavelengths for the first time”をもとに作成しました。
論文情報
この研究成果は、M. MacGregor et al. “Discovery of an Extremely Short Duration Flare from Proxima Centauri Using Millimeter Through FUV Observations”として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2021年4月21日付で掲載されました。