アルマ望遠鏡、最高周波数帯バンド10での観測に成功

アルマ望遠鏡が、ついに最高周波数帯での観測を達成しました。国立天文台が中心となって開発した「バンド10」受信機()を使って、電波観測としてはこれまでで最も高い周波数での天王星の観測に成功したのです。アルマ望遠鏡は既に冷たく暗い宇宙の観測にその威力をいかんなく発揮していますが、その観測能力がさらに向上したことになります。

この観測により、アルマ望遠鏡の「高周波数試験観測キャンペーン」は成功裏に終了しました。このキャンペーンは、これまで観測に使われていた「バンド9」受信機がカバーする周波数帯以上の観測をめざし、新たな宇宙への窓を確立させることを目的としていました。今回の観測成功は、アルマ望遠鏡プロジェクト全体から見ても非常に大きな意味を持ちます。世界の天文学コミュニティに、アルマ望遠鏡の全性能を開放するための重要な一歩だからです。

試験観測チームは、このキャンペーンの一環として天王星の新たな画像を取得・公開しました。バンド10受信機により、天王星の凍てつく大気(温度-224℃)が放つ電波が捉えられました。天王星以外の太陽系の巨大惑星についても、大気中の異なる高度に存在する雲の温度変化をとらえることが可能になります。

「高周波数試験観測キャンペーンの目標は、アルマ望遠鏡の性能を最大限に引き出し、最高周波数帯での観測を実現することでした。」と、このキャンペーンを率いた高橋智子氏(国立天文台/合同アルマ観測所)は語っています。「しかし世界中の天文学者にこの機能を使ってもらう前に、まず試験観測チームの私たちが観測の手法を確立し、正確な結果をきちんと得られるようにする必要がありました。試験観測は、そのためにとても重要なのです。」

アルマ望遠鏡では、観測する電波の周波数を10の周波数帯(バンド)に分け、そのそれぞれに特化した受信機を開発しました。アルマ望遠鏡には66台のアンテナがあり、1台のアンテナには10種の受信機を搭載することができます。今回の天王星観測に使われたバンド10受信機は、アルマ望遠鏡の受信機群の中でも最も周波数が高い(波長が短い)電波を受信することができ、国立天文台が中心となって開発・量産したものです。

図1

写真:国立天文台が中心となって開発した、アルマ望遠鏡バンド10受信機
Credit: 国立天文台
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一般に、高周波数の電波観測は大気の変動の影響を強く受けます。このため、単純に最高周波数での観測を実行しているだけでは、離れたアンテナで得られた信号を正しく合成することができず、アルマ望遠鏡がひとつの望遠鏡として機能しなくなります。最高周波数帯での観測を実現するために、試験観測チームはふたつの新しい観測手法を確立させました。これにより、より効率的に高周波数での観測が安定して行えるようになります。

ひとつ目は、”band to band transfer” と呼ばれる手法です。まずは低い周波数で観測を行い、そのデータをもとに望遠鏡をチューニングして高周波数の観測を行います。これを短い間隔で繰り返すことで、大気の変動に影響を受けやすい高周波数観測の弱点を克服するのです。「これにより、高周波数帯観測を実行可能な時間が飛躍的に拡大します。」と、合同アルマ観測所/米国立電波天文台のヴィオレット・インペリッツェリ氏は語っています。

もうひとつの手法は、まず広い周波数帯域での観測を行い、その後目的とする狭い周波数帯に絞って観測を行うという手法です。この方法は、高い周波数帯で観測を行うアルマ望遠鏡特有のものですが、もうすぐ通常の科学観測にも組み込まれる予定です。このふたつの観測手法を組み合わせることで、高周波数観測をより多く確実に実行することが可能になるのです。

試験観測チームは、現在もアルマ望遠鏡の最高周波数帯での観測方法を確立するために努力を続けています。


高周波数試験観測キャンペーンは、国立天文台の高橋智子氏とアルマ望遠鏡「性能拡張・最適化プログラム」のプログラムサイエンティストを務めるAnthony Remijan氏(米国立電波天文台)が率いています。この他、Catherine Vlahakis, Neil Philips, Denis Barkets, Bill Dent (合同アルマ観測所/欧州南天天文台), Ed Fomalont, Brian Mason, Jennifer Donovan Meyer (米国立電波天文台); Violette Impellizzeri, Paulo Cortes, Christian Lopez (合同アルマ観測所/米国立電波天文台); Christine Wilson (米国立電波天文台/マクマスター大学); 廣田晶彦、亀野誠二、澤田剛士(合同アルマ観測所/国立天文台); Tim Van Kempen, Luke Maud & Remo Tilanus (ライデン大学); Robert Lucas (グルノーブル大学); Richard Hills (ケンブリッジ大学); ジェイムズ・チブエゼ(国立天文台)がチームに参加しています。

下の写真は、バンド10受信機で観測した天王星(疑似カラー画像)です。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

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