地球サイズの望遠鏡でブラックホール撮影に挑む【3】そもそも、ブラックホールとは何か?

天文学者たちは現在、天の川銀河の中心にあるブラックホールの「影」を初めて捉えるという難題に挑んでいます。この人類未踏の挑戦について紹介する特集記事の第3回は、そもそもブラックホールとは何なのか、というところを紹介します。

ブラックホールは、宇宙で最も魅惑的な天体といってもいいかもしれません。 ブラックホールは、原理的には、非常に狭い空間に大量の物質をこれ以上ないほどぎゅうぎゅうに詰め込んだ天体です。このため、非常に強力な重力を持ちます。「これ以上近づくとブラックホールから出てこられない」という境界を、「事象の地平線(あるいは、事象の地平面)」と呼びます。これより内側に入ってしまったら、ブラックホールの強大な重力によって光ですら出てくることができません。

ブラックホールとは何かの解説図

ブラックホールの各部を説明するインフォグラフィック。 Credit: ESO, ESA/Hubble, M. Kornmesser/N. Bartmann

光ですら抜け出すことができないので、ブラックホールを直接見ることはできません。しかしその重力は、事象の地平線の外側にまで影響を及ぼしています。ブラックホールのまわりを回る星があったり、またガスや塵でできた円盤がブラックホールを取り巻いていたりします。これらが、ブラックホールの存在を間接的に教えてくれるのです。ブラックホールを取り巻く円盤は、降着円盤と呼ばれます。降着円盤にはあとからあとから物質が降り積もることで非常に温度が高くなり、電波からX線までいろいろな電磁波を発しています。

この電磁波を観測することで、謎に満ちたブラックホールの素顔を垣間見ることができるのです。これまでの研究の結果、ブラックホールには大きく分けて2つの種類があることがわかりました。

ひとつめは、「恒星質量ブラックホール」と呼ばれるタイプです。これは、太陽のおよそ30倍以上ある星が、一生の最期に大爆発を起こしたあとにできると考えられています。爆発の際に元の星の中心部は自らの重力によってつぶれてしまいますが、あまりの重力の強さで無限につぶれていってしまうのです。これが、ブラックホールとなります。恒星質量ブラックホールは、時に他の星と連星系をなすことがあります。このとき、ブラックホールは星からガスを剥ぎ取り、自らの近くに引きつけます。引き寄せられたガスはブラックホールのまわりに降着円盤を作り、高温になってX線を強く放ちます。X線連星と呼ばれる天体です。

恒星質量ブラックホールと星が連星系をなす様子の想像図。

恒星質量ブラックホールと星が連星系をなす様子の想像図。 Credit: ESO/L. Calçada/M.Kornmesser

もう一種類のブラックホールは、超巨大ブラックホール(超大質量ブラックホール)と呼ばれるものです。大きいものでは、太陽の何十億倍もの質量を持ちます。これほど巨大なブラックホールがどのようにして作られたのか、実はまだはっきりとわかっておらず、天文学者が今まさに研究を行っているところです。銀河が最初に誕生した時に莫大な量のガスが一気に収縮して超巨大ブラックホールとなった、という説もあれば、恒星質量ブラックホールが大量に合体して超巨大ブラックホールができた、という説もあります。

現在では、超巨大ブラックホールは、ほとんどすべての銀河の中心にあると考えられています。私たちが住む天の川銀河も、例外ではありません。超巨大ブラックホールは、ガスや星を飲みこむことで、周囲に大きな影響を与えると考えられています。そして、面白いことに、ブラックホールは物質を吸い込むだけでなく、一部の物質を猛烈な速度で吹きだすことも知られています。銀河の中心にある超巨大ブラックホールの近くから噴き出したガスは、銀河を飛び出して銀河の大きさの数倍の距離まで到達することが知られています。激しくジェットを噴き出す超巨大ブラックホールを持つ銀河を「活動銀河」とよび、ブラックホールを含む中心部を「活動銀河核」と呼びます。銀河とブラックホールの進化に大きな影響を与える活動銀河核は、天文学の中でも活発に研究されている分野の一つです。

ブラックホールのすぐ近くをガス塊が通り過ぎた様子の想像図。

ブラックホールのすぐ近くをガス塊が通り過ぎた様子の想像図。ブラックホールの周囲を回る星の軌道も青い楕円で表現されています。
Credit: ESO/MPE/Marc Schartmann

天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」は、地球から26,000光年の距離にあります。質量は太陽の400万倍以上、事象の地平線の直径は太陽の直径の約17倍、約2400万kmと推定されています。ブラックホールのまわりは濃いガスと塵の雲におおわれているため、可視光ではその様子を見ることは困難です。このため、電波やX線など異なる波長の電磁波で観測することが重要になります。

アルマ望遠鏡と世界各地の他の電波望遠鏡を結合して同時に観測することで、いて座A*のこれまでになく詳細な画像を撮影する2つの取り組みが進んでいます。Global mm-VLBI Array(GMVA)は、超巨大ブラックホールにどのようにガスや塵が吸い寄せられていくのかを解き明かすこと、そして超巨大ブックホールから高速のガス流を噴き出す仕組みについても明らかにすることを目指しています。もう一つの取り組みである Event Horizon Telescope(EHT) は、ブラックホールの事象の地平線(Event Horizon)が作りだす影を撮影しようとしています。

次回の特集記事では、ブラックホールと事象の地平線について、さらに詳しく紹介します。お楽しみに。

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