HH212想像図

惑星誕生現場の「横顔」― 塵のハンバーガーで育つ赤ちゃん星

台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のチンフェイ・リー氏をはじめとする国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、ハンバーガーのように見える赤ちゃん星を高解像度で撮影することに成功しました。赤ちゃん星を取り囲む大量の塵の円盤を、真横からとらえたのです。非常に若い段階の星に塵の円盤ができていることが確認できただけでなく、そうした円盤の厚み方向の構造を初めて明らかにすることができました。この成果は、円盤形成に関する理論的枠組みの再考を迫るだけでなく、惑星形成の最初の一歩となる塵の成長を理解するうえでも大変重要な役割を果たすかもしれません。

HH212 seen with ALMA

今回観測されたHH212のようす。 (a) アルマ望遠鏡と欧州南天天文台VLTで観測された、HH212のジェット。異なる分子が放つ電波で観測したジェットをそれぞれ異なる色で表現しています(青:水素、緑:一酸化ケイ素、赤:一酸化炭素)。中心星近くのオレンジ色が、アルマ望遠鏡を使った過去の観測で得られた塵の集合体。(b) アルマ望遠鏡を使った今回の観測で得られた、塵の円盤のクローズアップ画像。米印(*)で原始星の位置を示しています。右下には、太陽系の海王星軌道の大きさを表示しています。(c) 観測結果と一致するように作られた、円盤のシミュレーションモデル。色は温度を表します。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Lee et al.

「生まれたばかりの星のまわりの塵の円盤をこんなにはっきり撮影できるなんて、驚きです。円盤の構造を明らかにしたり、円盤形成の仕組みを理解したり、また星への物質供給がどのように起こっているのかを理解するために、天文学者は長い間、生まれたばかりの星のまわりの円盤を探してきました。アルマ望遠鏡の高い解像度を活かして、そうした円盤を見つけられただけでなく、その構造をとても詳細に描き出すことができたのです」と、リー氏は語っています。

今回観測対象となった天体は、HH212と呼ばれ、オリオン座の方向約1300光年のところにあります。その中心にある赤ちゃん星(原始星)は非常に若く、わずか4万歳と考えられています。太陽が46億歳であるのに比べると、年齢は10万分の1ほどということになります。原始星からは強力なガスの流れ(ジェット)が放出されていて、ガスがさかんに原始星に降り積もっている証拠と考えられます。これまでの観測では、原始星のまわりに平らな構造がありそうだということがわかっていて、円盤の存在を示すものではないかと解釈されていました。アルマ望遠鏡を使った今回の観測では、従来の25倍の解像度を達成し、円盤を発見するだけでなくその構造までも明らかにすることができました。この時の解像度は、1300光年先の8天文単位(1天文単位は太陽~地球間の平均距離で、1億5000万kmに相当)を見分けられるほどのものでした。

発見された塵の円盤は、地球からはほぼ真横から見るかたちになっていて、半径は約60天文単位と見積もられました。面白いことに、観測結果の画像では、円盤の中心面(赤道面)に暗い筋が入っていて、その両側を明るい部分が挟んでいる形になっています。これは、円盤の赤道面に塵が大量にあり、しかも温度が比較的低いことを示しています。「ハンバーガー型」のこうした構造は、ハッブル宇宙望遠鏡などの可視光・赤外線の観測で捉えられたことはありましたが、サブミリ波観測でこうした構造が捉えられたのは今回が初めてです。このかたちから、理論的な予測通り、円盤の外側はめくれ上がるように膨らんでいることがわかります。

しかし、すべてが予想通りというわけではないようです。「理論的には、星が生まれてすぐの段階で周囲に円盤を作ることは困難です。というのも、磁場の力によって回転が妨げられ、円盤になりにくいと考えられているのです。しかし今回の観測成果を見ると、磁場が円盤形成を妨げるという効果は、実際には私たちが考えていたほど重要ではないのかもしれません」と、共同研究者であるバージニア大学のツィーユン・リー氏は語ります。

今回の観測は、高い解像度を誇るアルマ望遠鏡によって、生まれたばかりの星のまわりの小さな塵円盤を詳しく描き出すことができるということを示す好例といえます。これにより、円盤形成理論の発展に大きく貢献できることでしょう。

HH212想像図

原始星の周囲を塵の円盤が取り巻き、原始星に流入した物質の一部がジェットとして両極方向に吹きだしている様子の想像図。
Credit: Yin-Chih Tsai/ASIAA


論文・研究チーム
この研究成果は、Lee et al. “First Detection of Equatorial Dark Dust Lane in a Protostellar Disk at Submillimeter Wavelength”として、2017年4月発行の科学雑誌『サイエンス・アドバンシズ』に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。 Chin-Fei Lee(台湾ASIAA、台湾国立大学)、 Zhi-Yun Li(バージニア大学)、Paul T.P. Ho (台湾ASIAA、東アジア天文台)、平野尚美(台湾ASIAA)、Qizhou Zhang(ハーバードスミソニアン天体物理学センター)、Hsien Shang(台湾ASIAA)

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