宇宙の初期には、天の川銀河の数百倍から数千倍という爆発的なペースで星を生み出す銀河、通称「モンスター銀河」が存在していました。こうした銀河では猛烈な星形成活動によって大量の塵(ダスト)が生じ、星の光を遮ってしまいます。そのため、銀河の構造や、なぜ活発な星形成が起きているのかは、これまで十分に理解されていませんでした。
名古屋大学大学院理学研究科の梅畑豪紀特任助教(高等研究院 YLC教員)を筆頭に、国立天文台ALMAプロジェクトの研究者も参加する国際共同研究チームは、約115億年前の宇宙で銀河が集まった原始銀河団にあるモンスター銀河「ADF22.A1」を、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡を用いて高解像度で観測しました。
JWSTは、塵による減光の影響が比較的少ない近中間赤外線で星からの放射をとらえることができます。アルマ望遠鏡は、紫外線を吸収して暖められた塵が放つミリ波・サブミリ波を検出することで、塵に隠された星形成活動を明らかにします。さらに冷たい分子や原子ガスの分布や運動状態を調べることもできます。今回の観測により、星と星間物質(ガス、塵)の両方の面からこれまで隠されていたモンスター銀河の姿を明らかにしました。
図1に示すように、JWSTによる観測では、塵に埋もれた星の分布が渦巻状の構造を持っていることが分かりました。さらに、アルマ望遠鏡の観測から、銀河内のガスが毎秒530kmという非常に速い速度で回転する円盤を形成していることが判明しました(図2)。これらの結果から、ADF22.A1は同時代の平均的な銀河の2倍程度の大きさを持ち、高速で回転する巨大な渦巻銀河であることが初めて確認されました。
この銀河の大きな角運動量(回転の勢いの強さ)は、初期宇宙の一般的な銀河とは異なる特徴です。初期宇宙には「宇宙網(コズミック・ウェブ)」と呼ばれる長大なガスネットワークが広がっていることが、研究チームによって以前突き止められています(2019.10.4プレスリリース)。ADF22.A1はその中で成長している銀河であり、この宇宙網から大量のガスが回転しながら流入することで、銀河に大きな角運動量を与えていると考えられます。ガスは星を形成する原材料でもあるため、こうしたガスの流入が活発な星形成活動を引き起こしている可能性もあります。
ADF22.A1は原始銀河団の中心に位置する最も重い銀河です。こうした原始銀河団は、やがて現在の宇宙にみられる銀河団に進化すると考えられます。現在の銀河団の中心にも、最も重く、ランダムな運動が卓越した楕円銀河が存在します。ADF22.A1は、このような楕円銀河の祖先にあたる可能性もあります。100億年以上の時間をかけて、銀河が衝突や合体を繰り返して成長する過程で、回転成分よりもランダムな運動が強まり、渦巻銀河から楕円銀河へ進化したと考えることができます。今回の成果は、宇宙の歴史における銀河進化を理解する上でも重要な示唆をもたらします。
図1:モンスター銀河ADF22.A1の星と塵の分布。(左)ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による赤外線画像が、塵に埋もれた星の分布を示している。(右)アルマ望遠鏡による観測で、塵の分布をとらえている。大量の塵に隠された巨大な渦巻銀河の姿が浮かび上がった。 (クレジット: 名古屋大学)
図2:アルマ望遠鏡により電離炭素輝線を用いて観測されたADF22.A1のガス分布(左)と運動状態(右)。赤色はガスが私たちから遠ざかる方向の速度(赤方偏移)を、青色は反対に近づく方向の速度を示す。これにより、ガス円盤全体が高速で回転していることが明らかになった。(クレジット:名古屋大学)
この研究成果はHideki Umehata et al “ADF22-WEB: A giant barred spiral starburst galaxy in the z = 3.1 SSA22 protocluster core”として Publications of the Astronomical Society of Japan(日本天文学会欧文研究報告)誌に2025年3月17日付で掲載されました。
DOI: 10.1093/pasj/psaf010
本研究は、国立天文台ALMA共同科学研究事業(2024-26A)、日本学術振興会科学研究費補助金(JP 20H01953, JP 22KK0231, JP 23K20240, JP 22H0493, JP 23K20035, JP 24HH00004, JP 23K20870)の支援を受けて行われました。
関連リンク
115億光年かなたに”巨大渦巻”を発見 ~世界最先端の望遠鏡で見えてきたモンスター銀河の素顔~(名古屋大学 研究成果発信サイト)
アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。