アルマ望遠鏡において、アンテナを差し渡し7kmの範囲に展開した干渉計試験に成功しました。アルマ望遠鏡は、アンテナ群の中心から3本の「腕」を伸ばすようにアンテナを展開させますが、今回初めてその3本の腕にアンテナを置いた試験観測が行われ、無事に成功しました。今回の試験観測ではまだ天体画像は取得されていませんが、さらなる高解像度観測の実現に向けた大きな一歩です。
アルマ望遠鏡のような「電波干渉計」では、アンテナの間隔を離せば離すほど解像度が向上します。アルマ望遠鏡は2011年から科学観測を行っていますが、その中で使われているアンテナの展開範囲(基線長)は最大1.5kmに限られています。これは、アルマ望遠鏡が観測する電波(ミリ波・サブミリ波)では遠くに設置したアンテナでとらえた信号どうしを組み合わせて画像にすることが難しく、装置や観測手法がうまく機能することを確認しながらアンテナ間隔を広げていく必要があるためです。今回の試験観測は、広い範囲に展開したアンテナがひとつの望遠鏡として問題なく機能するかどうかを確認するために行われたもので、『長基線試験観測キャンペーン』と呼ばれています。
図1:アルマ望遠鏡山頂施設(標高5000m)の現在の様子。中央に見えるのがアンテナ群の中心付近。直径12mアンテナが小さく見えます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/ Sergio Otarola
標高5000mにあるアルマ望遠鏡山頂施設の中心から北東方向には「パンパ・ラ・ボラ」と呼ばれる一帯が広がっています。今回の試験観測において、ここに初めてアルマ望遠鏡アンテナ輸送台車が乗り入れ、12mアンテナを設置しました。パンパ・ラ・ボラは、アルマ望遠鏡計画のルーツの一つである「大型ミリ波サブミリ波干渉計 LMSA」の建設を日本が1990年代に構想していた場所で、現在は国立天文台チリ観測所が運用する直径10mのサブミリ波望遠鏡アステ(Atacama Submillimeter Telescope Experiment)や、名古屋大学のなんてん2望遠鏡が設置されています。アルマ望遠鏡のアンテナ展開範囲の北端はこのパンパ・ラ・ボラにあり、今回アンテナをここに設置することで、アルマ望遠鏡の最大アンテナ展開範囲が初めて7kmに達しました。これは、現在アルマ望遠鏡の科学観測に用いられているアンテナ展開範囲の4倍以上に相当します。標高5000mの地でこれを成し遂げたことは、天文学的にも、また技術的にも、非常に大きな意義を持ちます。
図2:現在のアルマ望遠鏡アンテナ展開範囲を、アンテナのマークで表しています。グレーの円はアンテナを設置することのできる台座の位置を表しており、中央から北東、南東、西に3本の腕が伸びているのがわかります。
『長基線試験観測キャンペーン』のプログラムサイエンティストを務めるキャサリン・ヴラハキス氏は、「これだけの広い範囲にアンテナを展開し試験観測に成功したことで、アルマ望遠鏡で宇宙をさらに詳しく調べられるようになります。」と語っています。
『長基線試験観測キャンペーン』のリードサイエンティストであるエド・フォマロン氏は、「電波干渉計では、アンテナから送られてくる信号を超高速計算機で処理して干渉縞を作り出します。今回の試験観測ではまだ天体画像の取得には至っていませんが、7km離れたアンテナから得られた干渉縞はとてもきれいで十分な強度を持っていますので、他のアンテナも同程度の距離に広げての高精細画像の取得に向けて、見通しは明るいです。」
キャサリン・ヴラハキス氏は、「今回の試験観測は、複数のアンテナをより遠くに設置して観測を行う試みの第一歩となります。他のアンテナも同程度の範囲に展開し、天体画像取得のための試験観測が始まれば、アルマ望遠鏡はこれまで以上に高い解像度を実現し、素晴らしい観測成果を届けてくれることでしょう。」と語っています。
今回の長基線試験観測キャンペーンは今後2カ月ほど継続し、当面の目標として最大11km程度のアンテナ間隔での観測の実現を目指します。こうした試験観測を経て望遠鏡がきちんと機能することを確認した後に、世界の天文学者が長基線観測を実行できるようになります。
下の写真は、パンパ・ラ・ボラに設置された12mアンテナです。その左奥に小さく見えるのがアステ望遠鏡(右)と名古屋大学なんてん2望遠鏡(左)です。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. Ormeño