アルマ望遠鏡が2011年9月末に科学観測を開始して1年が過ぎました。世界中から集まった観測提案の中から採択された100件以上の観測プロジェクトの実行も順次進んでおり、成果は既に論文としていくつも発表されています。そして今回、初期科学観測サイクル0の成果を共有するための研究会がチリで開催されました。
2012年12月12日~15日の日程で開催された研究会は”The First Year of ALMA Science”と銘打たれ、200人を超える天文学者が世界中からチリ南部の町プエルト・バラスに集まりました。この研究会はアルマ望遠鏡のパートナーである国立天文台、欧州南天天文台、アメリカ国立電波天文台と合同アルマ観測所に加え、チリ国立科学技術研究委員会(CONICYT)と欧州の電波天文学研究機関を中心とするネットワーク Radionet3 によって支援されました。
研究会では、アルマ望遠鏡が対象とするすべてのテーマ、つまり太陽系の天体から私たちが住む天の川銀河の天体、天の川銀河の外の天体から非常に遠方の天体までが取り上げられました。アルマ望遠鏡を用いた観測成果はもちろんのこと、理論的な予測や他の望遠鏡での観測成果も合わせた研究発表が続き、活発な議論が行われました。
「アルマ望遠鏡のこの1年間の観測で、既にいくつもの画期的な発見がなされています。」と、研究会の科学組織委員会委員長を務めるレオナルド・テスティ氏は語ります。「例えば、惑星がどのようにして作られるのかという疑問に対して、アルマ望遠鏡は様々な成果を出してきています。生命の起源にも関連するかもしれない物質の発見もなされました。アルマ望遠鏡を使って水分子や複雑な有機化合物に関する化学的研究をより詳細に行うことができるようになりました。これは、私たち地球生命の起源を探るためにも重要なことです。」
また アルマ望遠鏡を使うことで、ビッグバンによる宇宙誕生から10億年足らずの時期に存在する「普通の」銀河を観測することができるようになります。これまでの望遠鏡では感度が不足していたため、このような遠い過去にある天体はきわめて明るい(電波を強く出す)銀河だけしか観測することができませんでした。
合同アルマ観測所のタイス・ドゥフラウ所長は、今回の研究会の意義を次のように語っています。「観測を始めたばかりのアルマ望遠鏡で得られた成果に大変満足しています。今回の研究で発表された成果は、アルマ望遠鏡が既に非常に高い性能を持っていることを示し、本格観測が始まればさらに驚くような成果が出てくるだろうということを確信させてくれました。今回の研究会は素晴らしいものでしたが、これは天文学の新しい時代の始まりに過ぎないのです。」
今回の研究発表のハイライトのひとつは、惑星が作られている段階にある星のまわりでの単純な糖類分子グリコールアルデヒドの発見でした(8月29日付プレスリリース「アルマ望遠鏡、赤ちゃん星のまわりに生命の構成要素を発見」 )。この分子は私たちがコーヒーに入れるものと違って人体には毒ですが、地球生命の遺伝情報のやり取りに欠かせないRNAが合成される際の材料となるものです。
「アルマ望遠鏡を使って、褐色矮星のまわりの原始惑星系円盤も見つかりつつあります。私たちがこれまで考えていたよりも、惑星はいろいろな星のまわりで作られるのかもしれません。」と、レオナルド・テスティ氏は語っています。
研究会では、将来的なアルマ望遠鏡の増強計画についても議論が行われました。天文学研究の最前線を今後も押し広げていくために、いくつかの将来計画が提案されています。
今回の研究会に参加した天文学者の多くはアルマ望遠鏡が建設されているチリ北部にはなじみがあるものの、チリ南部を訪れるのは初めてという研究者も多くいました。「プエルト・バラスという町の素晴らしい環境と人々の温かさに、参加者は大変満足していたようです。」と、現地組織委員会の委員長を務めるゴティエ・マティス氏はコメントしています。
下の写真は、各国から研究会に集まった研究者たちです。